糖尿病性エマージェンシー たちかわ動物病院・猫の病院



Diabetic Emergencies

糖尿病性エマージェンシー

FELINE INTERNALMEDICINE 6TH


合併症のない糖尿病は多尿,多飲,多食,体重減少を特徴とし,臨床的に安定した猫に高血糖と尿糖が持続していることが確認され診断される。合併症のない糖尿病の猫は外来で治療が可能である。この章では集中的な治療行為が必要な3つの糖尿病エマージェンシーについて論じる。糖尿病ケトアシドーシス(DKA),高血糖性高浸透圧(HHS),インスリン誘発性低血糖。3つの全ての状態で集中治療処置が必要で,適切な治療を受けたとしても致命的結末に至る可能性がある。一方,DKAとHHSは糖尿病状態の自然発生的な合併症で複雑な病態生理をもつ。インスリン誘発性低血糖は医原性の糖尿病性合併症で、病態生理は単純である。

 

DKAとHHSのふたつが糖尿病に起こる合併症として古くからその危険性が述べられている。 DKAはケトーシスとアシドーシスを特徴とし,HHSは重度の高血糖と脱水を特徴とする。人に発生するDKAは若齢患者のタイプ1糖尿病で24時間にわたって突然に発症すると考えられている。一方HHS症候群は老齢患者のタイプ2糖尿病で数日から数週間にわたって発症すると考えられている。しかしながら最近明らかになったことではDKAの人患者の40%で高浸透圧状態を有し,多くの人がDKAとHHSを混合した糖尿病の合併症を引き起こす。

 猫においてはDKAやHHSに関連した報告は本当に少ないのだが,糖尿病猫ではDKAがHHSよりも一般的に発生する。なのでここではまずはじめに論ずる。


Definition and Pathophysiology of Diabetic Ketoacidosis


DKAは重度の糖尿病の代謝性合併症でアシドーシス(静脈血 pH < 7.35),ケトン尿あるいはケトーシスを特徴とする臨床的代償不全として定義される。糖尿病状態では、糖は細胞内に十分な量が入ることができず,代謝要求に応えるために脂肪酸からケトンが合成され細胞のエネルギーの代替の形となる。ケトン体は脂肪酸がミトコンドリアでβ酸化されて産生されたAcetyl-CoAから合成される。このアデノシン三リン酸依存の異化が脂肪酸がふたつの炭素片に同時に破壊することに関連し,結果としてacetyl- CoAの形になる。


 Acetyl-CoAの合成はインスリン減少とグルカゴン濃度の上昇によって促進される。インスリンは蛋白同化促進ホルモンで,その正常な同化効果は糖がグリコーゲンに変換され,蛋白としてアミノ酸の保存,脂肪組織に脂肪酸の保存を含む。他方でグルカゴンの異化効果はグリコゲノーシス(グリコーゲン分解),プロテオライシス(蛋白質分解),リポライシス(脂肪分解)を含む。それゆえ,低インスリンとグルカゴン濃度の上昇は,脂肪組織の脂肪酸の動きを減少させる原因となり,脂肪分解の増加は,結果としてacetyl-CoA濃度を上昇させる。


 非糖尿病のときacetyl-CoAとピルビン酸はATPを産生するためにクエン酸回路に入る。しかしながら,糖尿病では糖は十分な量が細胞内に入らず,解糖系によるピルビン酸産生が減少する。クエン酸回路活性はそれゆえ減退し,結果としてacetyl-CoAの利用が減少する。脂肪分解増加の正味の効果とクエン酸回路内のacetyl-_CoA利用の減少とならんでacetyl-CoA産生はacetyl-CoAの濃度の増加となる。


 3つのケトン体はβヒドロキシ酪酸塩,アセトアセテート,アセトンを含むacetyl-CoAから合成される。acetyl-CoAはふたつの代謝経路を経てアセトアセテートに変換される。ついで,アセトアセテートはβヒロドキシ酪酸とアセトンに代謝される。アセトアセテート合成の経路のひとつは、ふたつのacetyl-CoAユニットとの濃縮を必要とし,acetyl-CoAの3つのユニットを利用する。ケトン体は肝臓で合成される。

 acetoacetate(アセトアセテート)とbeta-hydroxybutyrate(β-ヒドロキシ酪酸塩)は中等度強酸の陰イオンである。 それゆえ,それらの蓄積がケトアシドーシスを引き起こす。代謝性アシドーシスと結果として起こる電解質異常はDKAの動物の転帰に重大な決定因子となる。


 DKAの病因に関して信じられていることのひとつは,DKAを発症した患者には内因性インスリンがないか,検出できないということであった。一方で自然発生DKAの猫の内因性インスリン濃度の報告はない。ある研究で,DKAの犬の7頭中,5頭で内因性血清インスリン濃度が検出できた。そして3頭の犬のウチ2頭が内因性血清インスリン濃度が正常範囲内であった。類似した最近の研究で,5週から24か月間糖尿病寛解状態にあってDKAを伴った7頭の猫の記述がある。寛解に至る能力はDKAを発症した猫数頭が内因性インスリン分泌能力を有していることを示唆している。様々な時間間隔の外因性インスリン治療に依存しないようになったとしても。それゆえ内因性インスリン濃度がゼロか検出できないということが猫にDKAが発症する病因の重大な要因のひとつであるというのは疑わしい。

 DKAの病因の重大な異なった要素は血清グルカゴン濃度の上昇の存在であり,それは合併症として二次的に起こる。一方で自然発生DKAの猫の血清グルカゴン濃度は報告されていない。糖尿病犬における血清グルカゴン濃度に関する最近の報告では,グルカゴン濃度の上昇がケトン濃度が上昇するのにはっきりと関連していた。



Definition and Pathophysiology of The Hyperosomolar Hyperglycemic State

高浸透圧性高血糖症の定義と病態生理


高浸透圧性高血糖症HHSは激しい高血糖(> 600 mg/dl)によって特徴づけられる重度の糖尿病性代謝性合併症と臨床的な代償不全として定義される。高浸透圧症候群(猫で有効血清オスモル濃度 > 320mOsm/kg,人で > 330mOsm/kg)と,脱水。高浸透圧性高血糖症HHSはまたケトアシドーシスを伴わないことが定義される。


 オスモル濃度は水のキログラムあたり浸透活性粒子の量として定義づけられる。血漿オスモル濃度はナトリウム,糖,血液尿素窒素濃度によって評価される。しかしながら尿素は自由に細胞膜を拡散し血漿オスモル濃度に有効な貢献はしない。それ故有効なオスモル濃度はナトリウムと糖濃度のみを基本に計算される。計算は個々の公式を使用し,次のような公式もある。

   Effective Posm = 2(plasm[Na+]) + [glucose]/18


高浸透圧性高血糖症は完全には理解されていない。しかしながらDKAと類似していると知られている。グルカゴン濃度の上昇が重大な役割を担う。DKAに類似しているのはインスリン濃度がHHSではゼロではない。なぜある糖尿病患者がDKAを発症するのか,他の患者がHHSを発症するのか分かっていない。タイプ2糖尿病の老齢な糖尿病ではゆっくりとHHSを発症するという考えは反論される。なぜならばHHSは小児患者で報告され、人でみられるように,重度で危険な糖尿病猫はDKAとHHSの古典的特徴の混合を現すことが説明された。


Risk Factor for DKA or HHS


DKAの猫の中央年齢は9歳(2-16歳)であるのに対してHHSの猫の中央年齢は12.6±3.2歳である。特別な品種や性でDKAやHHSのリスクが増大することは報告されていない。


 合併症はDKAやHHSの猫ではよく見られる。血清グルカゴン濃度の上昇が結果として合併症を起こすことも可能性としてある。それが原因でDKAやHHSのリスクが上昇する。合併症はDKAの猫の90%で報告されている。DKAの猫で最も一般的におこる合併症は肝リピドーシス,慢性腎疾患,急性膵炎,細菌性ウィルス性感染症,腫瘍である。ある研究でHHSの猫をDKAと合併症のない糖尿病とで比較した。そしてHHSの猫の90%が合併症を持ち、合併症の区分は病気の状態で様々であった。特に,HHSの猫ではDKAあるいは合併症のない糖尿病の猫と比較して慢性腎疾患,うっ血性心不全が有意に多い。そして合併症のない糖尿病(DKAではない)の猫と比較して腫瘍や感染症を持つ。HHSの猫のグループで注意の必要な感染症は上部気道疾患,尿路感染症外耳炎,壊死性つま先炎,重度の膿性歯科病変,消化管寄生虫である。急性膵炎はHHSや合併症のない猫に比較してDKAでより一般的。そしてHHSと合併症のない猫の間に急性膵炎の有意な発生率はない。コルチコステロイド投与の回数は3つの猫のグループで有意差はない。


 DKAのほとんどの猫は新規に糖尿病と診断されている。しかしながらHHSの猫の70%はインスリンで以前に治療を受けている。以前の糖尿病の継続期間とHHSあるいはDKAと診断される期間に有意差はない。


 人における最も一般的なDKAやHHSを発症するリスク要因は、不十分で不適切なインスリン治療と感染症である。DKAの犬の65%近くで新規に糖尿病と診断されインスリン治療を以前に受けておらず,そして20%が尿路感染症を有す。


Clinical Sighs and Physical Examination Findings in Cats with DKA or HHS

DKAとHHSの猫の臨床徴候と身体検査所見


臨床徴候と身体検査所見は慢性の未治療の糖尿病,合併症の存在,急性のDKAやHHSに起因すると考えられる。DKAやHHSの最も一般的な臨床徴候は,多尿多飲,沈うつ,食欲減退や拒食,嘔吐や体重減少である。加えてHHSで報告されている臨床徴候は運動失調,元気低下,呼吸の問題,不適切な排泄,神経徴候(旋回,歩調あわせ,無反応)である。


 猫DKAの身体検査で報告されている一般的な異常所見は,主観的な体重低下,脱水,黄疸,肝腫大である。猫HHSの身体検査で報告されている一般的な異常所見は主観的な体重減少,脱水(80%の猫で見られる。HHSの猫の50%で重度と見られる)歯科疾患(HHSの猫の60%),命にかかわる重篤な呼吸器疾患,糖尿病の合併症のない猫と比較して低体温、などである。


DKAやHHSの臨床病理


貧血や左方移動を伴った好中球増多症が猫DKAに一般的な所見である。DKAの猫は健康な猫に比べて赤血球に重度のハインツ小体形成がある。ハインツ小体形成の程度は血漿β-hydroxybutyrate濃度と相関している。一方,貧血は猫HHSでは一般的ではない。17例の猫の3例に見られたのみである。HHSの17頭猫の4例はハインツ小体を形成し,好中球増多症がHHSの猫の50%で見られた。


 インスリンで治療されるまで,DKAやHHSと診断された全ての猫で持続性高血糖が見られた。HHSをほのめかす定義として,HHSの猫は血糖値が600 mg/dl以上となる。 合併症のないDKAやHHSの糖尿病で血糖濃度が600 mg/dlかそれ以上の血糖濃度を持つ猫の可能性がある。ALTとCholの上昇がDKAの猫の80%で報告されている。しかしHHSのねこでは普通上昇しない。比べると,ASTは11頭のHHSの猫で11頭上昇した。高窒素血症がDKAの猫の約50%,HHSの猫の90%で報告された。ALPはDKAとHHSのほとんどの猫で正常であった。しかし,DKAの犬のほとんどでは上昇する。


 DKAとHHSの猫の電解質異常の病態生理はふたつの合併症で異なる。DKAでは,体全部のリンの枯渇が見られる。しかし診察時に明らかでない。DKAの猫ではしばしば体内のリンが減少している。食欲低下や拒食,嘔吐や浸透圧性利尿に伴う消失の増加の結果である。低カリウム血症がケトアシドーシスでリンが拘束されることで悪化する。他方で,血清リン濃度が増加するのは,過剰な水素イオンが細胞外液から細胞内へ移動することによる。プラスに帯電した水素イオンが細胞内へ移動することにより電解質に変化が生じ,それを補正するためにプラスに帯電したリンイオンは細胞外へシフトする 。 高血糖と低インスリンはまたリンが細胞外へシフトする一因となる。DKAの猫は 腎排泄の低下,脱水,インスリン機能低下により、初期に高カリウム血症を現す。しかしながら再水和によって,リンイオンは細胞外液から失われ,低カリウム血症が急速に現れる。インスリン治療は低カリウム血症を悪化する。なぜならインスリンはカリウムを細胞内へ移動させる。DKAにおける低カリウム血症の最も大事な臨床徴候は筋肉の衰弱が見られることである。それはクビの腹部屈曲となり,極端なケースでは呼吸麻痺に陥る。


 HHSでは,アシドーシスが最も重大な電解質の異常ではない。HHSにおける低カリウム血症の病態生理の最も重大な要因は重度の浸透圧性利尿である。しかしながら他の要因にも注意が必要である。拒食,嘔吐,ケトアシドーシスにリンの拘束,インスリン治療がHHSにおいて低カリウム血症をおこす一因となる。


 DKAとHHSの猫の血清リン濃度の比較の研究で,36頭のDKAの猫で HHSの16頭の猫と比較して(4.2+- 0.9 mmol/L) 極度の低リン濃度(3.1+-0.7 mmol/L)が見られた。対比して人では,HHSにおける総体内リンの枯渇はDKAよりもより一般的である。しかしながらHHSの重度の脱水の患者では,DKAの患者よりも初期検査の時に総体内リンの枯渇がマスクされる。DKAの127頭の犬で,初期検査で患者のたった45%が低カリウム血症であった。しかし,低カリウム血症になった84%の犬が入院した。DKAとHHSの再水和した猫のリン濃度を比較した先取り研究は,患者の体の中でリンが枯渇していることを理解していることを証明するために必要とされた。


 DKAで,リンが細胞内から細胞外スペースへシフトすることで低リンが起こる。これは高血糖、アシドーシス、低インスリン血症の結果もたらされる。インスリン治療を伴う浸透圧利尿や補液は細胞外リンの枯渇の原因となり、全身のリンの枯渇を引き起こす。HHSでは、低リン血症の病態生理の最も重要な要素は重度の浸透圧利尿である。DKAに関連する低リン血症は猫では溶血に、犬ではけいれんに関連している。加えて、低リン血症を原因として引き起こされる臨床兆候は虚脱、心筋性機能低下、不整脈である。人では、DKAにおいて総リンの枯渇はHHSよりもより深刻におこると考えられている。


 興味深いことに、しかし一方でDKAとHHSを伴った人の患者では低リン血症が一般的に認められ、犬ではDKAが、DKAとHHSを伴った猫では高リン血症が実際にはより一般的に報告されている(低リン血症よりもむしろ)。その理由は猫での研究によれば血清リン濃度は脱水によって低リン血症が隠されていると認められるとき、その時にただ一度だけ測定されるからである。その上さらに、DKAとHHSの多くの猫は慢性腎疾患を持っており、それはリン濃度が増加する原因となる。


 血漿イオン化マグネシウムの減少は、DKAの猫5頭中、4頭で報告された。尿排泄の増加が原因とされる。猫における低マグネシウムの臨床兆候はわかっていない。人の糖尿病では、インスリン抵抗性、高血圧、高脂血症、血小板の凝集亢進が知られている。犬のDKAでは初診の検査の段階で低イオン化マグネシウムがあるかどうかわかっていない。


 血清ナトリウム濃度は、DKA or HHSの患者で高値、正常、低値を示す。人では初診時検査で浸透圧利尿で低ナトリウム濃度が通常引き起こされる。しかしながら、重度の脱水がナトリウムの喪失を隠し、結果として初診時には正常あるいは高ナトリウム濃度となる。他方、重度の高血糖が偽低ナトリウム血症を助長する。細胞外高血糖が結果として水分を細胞内から細胞外スペースに移動させ、細胞外のナトリウムの希釈の原因となる(偽低ナトリウム血症)。多様な均衡が偽低ナトリウム血症を正常化させる(100 mg/dlを超える血糖100 mg/dlあたり測定した血清ナトリウム1.6 mEqを加える)。例えば測定した血清ナトリウム濃度135 mEq/Lと血糖値400 mg/dlならば、補正した血清ナトリウム濃度は135+(1.6 x 3) or 139.8 mEq/L。加えて、高脂血症はナトリウム測定を妨害し、誤ったナトリウム濃度増加を助長する。


 HHSあるいはDKAの猫の研究で、HHSの猫の補正した中央ナトリウム濃度(159 mmol/L)はDKAの猫(151 mmol/L)よりも高い事が示された。他の研究で、DKAと合併症のない猫の糖尿病で比較したところ、DKAの猫の34%が低ナトリウム濃度であるのに対し、合併症のない猫の糖尿病ではたった8%であった。3番目の研究でわかったことは、42頭の糖尿病ケトーシスあるいは糖尿病性ケトアシドーシスの猫80%が低ナトリウム血症であった。最新の二つの研究ではナトリウム濃度は糖で補正されなかった。低クロール血症が人のDKA or HHS、犬と猫のDKAで報告された。


 DKAとHHSの患者で、尿検査で尿糖が普通にみられ、蛋白尿が明白に認められる。DKAでケトン尿は認められないのは、尿試験紙のニトロプルシドがアセトアセテートに反応するが、β-hydroxybutyrateに反応しないからである。これがDKAの主要なケトン体である。血清β-hydroxybutyrateの測定は尿ケトンの測定よりも感度が高い。尿管感染が糖尿病猫の13%でみられる。ほとんど一般的に分離される細菌はEscherichia coliである。糖尿病猫の尿検査は普通、尿管感染のスクリーニング法となる。なぜなら尿管感染のあるほとんど猫は尿沈渣で白血球か細菌がみられる。(第5版48章参照;細菌性尿管感染症のディスカッション)


 追加の臨床病理学的あるいは画像テスト 副腎や甲状腺軸テスト、成長ホルモンやIGF-1濃度、PLI、肝生検、腹部超音波、胸部レントゲン、脳MRI、を特定の現症の出現によって行う。


Differential Diagnoses


 ケトーシスが見られたときの鑑別診断は、DKA、急性膵炎、飢餓、低炭水化物食、持続的低血糖、持続的発熱、妊娠である。原発性代謝性アシドーシスの鑑別診断は、DKA、腎不全、乳酸アシドーシス、毒物への暴露、重度の組織破壊、重度の下痢、慢性嘔吐がある。高浸透圧の鑑別診断は、HHS、脱水、腎不全、毒物への暴露である。


Treatment of DKA or HHS


 DKAとHHSの治療には5つの要素がある。脱水の補正、電解質異常、高血糖、アシドーシス、併発疾患の治療、である。静脈点滴治療の投与と注意深いモニターが最も重要な要素である。コントロールがうまくいかなかったDKAとHHSの猫の研究で、治療に使用される最適の点滴が検討された。研究には、商業化が可能な等張性晶質液が使用された。0.9%生理食塩水の使用が推奨された。なぜなら高濃度の塩分の関連性による。しかしながら、0.9%生理食塩水の投与は血清塩分濃度が初期に高い高浸透圧糖尿病では禁忌となる。加えて、0.9%生理食塩水は 高塩分濃度と緩衝剤の喪失のおかげでアシドーシスにはるかに貢献する。他方、乳酸塩(乳酸リンゲル液など)と酢酸塩(Plasma-Lyte, Normosol-R)が重炭酸に変換され、アシドーシスの治療に貢献する。これら緩衝剤を含む晶質液はカリウムを含有し、初期の点滴やインスリン治療によっておこる急性のカリウム減少を鈍化させる。しかしながら、猫が注意深くモニターされている間は、特に脱水、精神的状況、電解質濃度、上記のいくつかの晶質液の使用に関連する。


 なぜならDKAとHHSの猫の点滴治療に関連した臨床的挑戦は、報告されていない。それはAmerican Diabetes Association(ADA)ガイドラインに戻って役に立つ。ADAはDKAとHHSのどちらの患者にも初期の数時間は0.9%生理食塩水を投与する事を推奨する。DKAとHHSの患者に初期数時間の点滴治療をした後は もしこれら補正された塩分濃度が高いか正常であれば、 0.45%生理食塩水で治療され、塩分濃度が低ければ0.9%生理食塩水で治療される。補益の率は患者の水分喪失量、血行動態、心機能による。再水和に加えて、補益治療は腎血流量改善、負の規制ホルモン濃度の減少、最も重要なグルカゴンによって血糖濃度減少に貢献する。


 電解質異常の補正とモニターリングは治療におけるきわめて重要なポイントである。電解質補給はしばしばモニターされる(4-6時間ごと)、なぜなら補給率の修正が要求されるからである。初診時身体検査で高カリウム血症の猫は治療開始後すぐに低カリウム血症に陥る。低カリウム血症はカリウム投与で治療される。0.5 mEq/kg/hourを超えない経静脈持続点滴(CRI)。もし高容量が必要ならば継続的な心電図モニターを同時にしたほうがよい。細いT波、QRSの延長、PRインターバル、弱いP波の振幅が注意される点である。カリウム補給は中止し、血清カリウム濃度を測定するべきである。低リン血症(血清リン濃度2.0 mg/dl以下)はリン酸カリウムのCRI静脈点滴で補正される(カリウム4.4 mEq/L, リン3.0 mM/ml)。速度は0.03 - 0.12 mM リン/kg/hour. カリウム投与は低リン血症の補正のためにリン酸カリウムを与えるときに評価されなければならない。


 硫酸マグネシウム塩(4 mEq/ml)はCRIで1 mEq/kg/24hで安全に使用され、低マグネシウムの補正として静脈点滴する。マグネシウムの静脈点滴で誤投与は一頭の糖尿病猫と1頭の急性腎臓病の犬で報告された。マグネシウム中毒のサインは嘔吐、元気低下、全身性筋緊張の弛緩、精神的鈍麻、頻拍、低血圧である。治療はマグネシウムの静脈点滴のみで行われ、イオン化マグネシウムの減少が報告されている。


 高血糖の消散には、浸透圧の減少のため塩分濃度が二次的により高くなることが期待される。それに続いて、血管内スペースから自由水が移動する。もし低ナトリウムと低クロールが点滴治療後も6-8時間持続したら、補正のために生理食塩水を投与するべきであり、もし猫がすでに生理食塩水を投与されているならば投与量を増加させる。塩分濃度の補正に関連した決定は塩分濃度を補正する基礎となるべきだ。


 高血糖の補正は活性型インスリンの急速投与でなされる。著者の施設でインスリン投与は再水和と初期の電解質の異常を補正することを考慮し点滴治療開始後6時間ではじめる。しかしながら、新しい速効性活性型インスリン製剤が市場に紹介され、人のDKAの患者の管理に十分な成果をあげている。猫のDKAとHHSでの臨床的使用は調査されていない。軽度DKAの人の患者の一部で速効性活性型インスリン(lispro insulinのような)の皮下投与がされた。開業医が高額な入院費を減らす試みとして試験運転する。しかしながらこの戦略はいまのところ猫には紹介できない。この時点でリギュラーインスリン(Humulin R, Novolin R)の使用は猫のDKAとHHSの治療に紹介する事ができる。レギュラーインスリンは静脈CRI(表28-1;レギュラーインスリン0.88 U/kg /100 ml NaCl))、あるいは筋肉注射で投与する。静脈でレギュラーインスリンをCRIで投与するときは2時間ごとに血糖値を測定する。インスリンを筋肉注射したときは、毎時間血糖濃度を測定する。IMの初期投与量は0.2 U/kg regular insulin IM, 続いて1時間後に0.1 U/kg regular insulin IM.  IMレギュラーインスリンの治療は もし血糖値が75 mg/dl/hr以上 下がったら0.05 U/kg/hr, between 50 to75 mg/dl/hr下がったら0.1 U/kg/hr, 50 mg/dl/hr以下の減少幅であったら0.2 U/kg/hrで継続する。


 アシドーシスは普通、静脈点滴投与やインスリン単独治療で補正される。人のDKAのアシドーシスの患者は重炭酸塩投与で補正されるのには議論がある。なぜなら子供のDKAで脳浮腫の増加が示されているからである。人DKAの重炭酸塩の治療に関連する追加のリスクの可能性は低カリウム、肝臓におけるケトン体産生増加、奇異性脳脊髄液アシドーシス、、二酸化炭素産生増加を原因とする細胞内アシドーシスの悪化 の再燃。ADAは重炭酸補給が点滴治療後1時間で動脈血pH 7.0以下のDKAの患者のみで紹介される。


 ほとんどの犬猫の重炭酸塩治療は、アシドーシスが消散されていないDKAでほとんど治療されない。最近の127頭のDKAの犬の懐古的研究で報告されたのは、アシドーシスの程度と重炭酸塩投与は予後に悪影響を与えることが示唆された。はっきりとはしないが、悪い予後は治療を促すような重度のアシドーシス、あるいは 重炭酸治療それ自身を原因とする。それゆえ重炭酸塩の投与は注意深くなされるべきである。


 もし潜在的リスクがあるにもかかわらず重炭酸塩治療が適切だと思うなら、1回の治療プロトコールは静脈投与で20分以上間をあけて計算量の1/2-1/3量を投与する。

重炭酸塩=0.3 X B.W. X 負の塩基過剰

治療は必要なら静脈pH測定後 静脈pHが7以上になるまで 一時間ごと繰り返す。しかしこの治療法を支持する論文はない。あるいは他のDKAの猫に対する重炭酸塩治療プロトコールはない。


 合併症の存在はDKAとHHSを発症する原因となるといわれている。それゆえ付随疾患の特定と、適切な治療が重要となる。合併症の治療はグルカゴン分泌を減少させ、糖尿病の調節を良好にし、DKAとHHSを解消する原因となる。


Outcome of Patients with DKA or HHS


 DKAあるいはアシドーシスを伴わないケトーシスの猫に関する研究で、ほとんどの猫(70 %)が退院時に生存している。猫の中央入院期間は5日であるが、40 %以上の猫がDKAのエピソードなどで再発する。


 HHSとDKAを比較した他の研究で、HHSの猫17頭中6頭のみが退院時に生存 (

35 %) していた。HHSの猫の生存率はDKAの猫の生存率(

37頭中31頭生存:84 %)よりも低かった。退院時に生存していた猫の入院期間はHHS(中央入院期間:3日)がDKA(中央期間:7日)よりも短かった。猫の予後は診察時の測定として、神経学的兆候の存在、血糖値、ナトリウム濃度(測定値や補正値)、血清浸透圧(総あるいは有効)に関連はなかった。 


Insulin Overdose


 糖尿病猫はインスリン要求量が変わったり、治療の過程でいつでも起こりうるエラーの結果、インスリンが過量投与となる。インスリン要求量が減少するのは合併症が解消したり、猫が一時的な糖尿病状態であったり、寛解したり、インスリンを受けることを継続したりするときである。(chapter 27).


 インスリン投与のエラーは様々な理由で起こる。原因の可能性の一つは100 U/mlのインスリン製剤に40 U/mlのシリンジjを使うことにある。糖尿病猫の家族がインスリン製剤とシリンジについての教育を受けることは治療を安全にする。そして適切なインスリンシリンジが使用される。


 インスリン過量投与の結果、低血糖に陥る。それは血糖濃度65 mg/dl以下と定義される。最近の医療レコードによると470頭の糖尿病猫のインスリンに関連した低血糖イベントは全体の17%になる。糖尿病猫は犬に比べてインスリン関連低血糖イベントを起こしやすい。可能性として考えられる理由は猫が一時的糖尿病になりやすいからである。


 インスリン過量となった猫の研究では、発症したのは主に去勢した雄で、中央年齢は12歳。しかしながらこの兆候は一般的な糖尿病猫に典型的である。インスリン過量を受けた猫の体重は他の糖尿病猫(5.1 kg)よりも平均よりも重(5.8 kg)い。低血糖に陥った猫は一回のインスリン量が6Uを超えることが多い。投与頻度は一日一回から一日二回。猫のインスリン過量のほとんど一般的な臨床徴候はけいれん、もたれかかり、拒食、震え、嘔吐、運動失調、鈍麻である。


 デキストロースの投与で構成される治療は、普通静脈投与される。しかし軽度な症例は経口的にブドウ糖投与され、あるいは食事が十分にとらされる。しかしながらインスリン過量を起こした20頭の猫の中央入院期間は20時間であり、最後の10日間は多様な治療の継続期間である。糖の量は良好な血糖制御を受けるために要求する。猫が必要とする時間容量は点滴が必要だが予測できない。14頭の猫で0.21ー6.3 g/kgの糖が良好な血糖調節には必要であった。糖補給の継続期間は0.55-60時間の幅にある。他の言葉で、低血糖は正常な血糖濃度に達した後でさえも再発する。そして糖点滴はおおよそ3日間以上必要とされる。インスリン投与に関連した低血糖の治療のためにグルカゴン投与は追加で説明される。インスリン過量の20頭の猫の報告で90%の猫が生存して退院した。中央入院期間は20時間である。

(2012. 5.25)

 


© 太刀川 史郎 2013