皮膚リンパ腫

第16回日本獣医皮膚科学会一般講演:優秀発表賞受賞

表皮向性T-cellリンパ腫の猫の1

太刀川史郎1、太刀川統子1、代田欣二2

1たちかわ動物病院、2麻布大学


はじめに

猫の皮膚リンパ腫の発生は少なく、病変は様々で、特定の部位に発生する傾向もない。このうち表皮向性T-cellリンパ腫は、病理組織学的に表皮と付属器上皮への腫瘍性T-cellの浸潤を特徴とする。今回、皮膚生検の病理組織学的検査で、CD3陽性、HN57(CD79a)陰性の腫瘍性リンパ球の表皮および毛包上皮への浸潤を認め、表皮向性T-cellリンパ腫と診断した猫の症例を経験したので報告する。

症例

12歳齢、不妊手術済みの雌の三毛猫に6か月前から左口吻に脱毛性紅斑を認めた。徐々に拡がってきたため近医を受診したが、病変がさらに拡大し潰瘍化したため、精査のため当院を受診した。口吻の病変は鼻鏡から左上唇へと拡大し、口腔粘膜まで浸潤が見られた。病変には重度の潰瘍化が見られ出血性の痂皮で覆われており、掻痒を伴っていた。口腔には化膿性炎症、潰瘍および壊死が見られ表皮側と連続していた。左側下顎リンパ節の軽度腫大を認め、右上唇の潰瘍性病変も認めた。腫大したリンパ節のFNAおよび右側口吻皮膚のパンチ生検組織の細胞診で多くの中型リンパ球を認め、細胞質にアズール顆粒を有するものを多く認めたことから、これらはlarge granular lymphocyte(LGL)と思われた。生検組織の病理組織学的検査で、細胞質の広い腫瘍性リンパ球が真皮表層から深部骨格筋層に渡り、表皮にも浸潤が認められた。また、毛包上皮にPautrier’s微小膿瘍が認められた。免疫染色で腫瘍細胞はCD3陽性、HN57(CD79a)陰性であったため、表皮向性T-cellリンパ腫と診断した。治療は第1週目にLomustine 30mg/m2 POで投薬するが効果がないため、5週目に60mg/m2 POに増量した。L-Asparaginase 400 U/kg SCを第135週目に投与した。しかし、化学療法開始後73日目で寛解する事なく死亡した。

考察

猫の表皮向性皮膚リンパ腫の報告は少ないが、既報例は免疫組織化学的にT-cell性腫瘍であることがわかっている。サブタイプについては1例でCD8陽性、1例でパーファリン分子の発現が報告されている。本例では、口吻組織の押捺材料と腫大したリンパ節のFNALGLを認めた。LGLは細胞質にパーフォリンを有し、組織障害性が強いので病変が重度となり、治療反応も悪い。LGLのもつ顆粒は一般的な病理組織染色のヘマトキシリン・エオジン染色ではわかりにくいが、臨床で一般的に行われるライト・ギムザ染色には明瞭に染まり認識されやすい。このことから、猫の皮膚生検をした時、採取した材料の押捺標本をライト・ギムザ染色して本腫瘍を鑑別する事は極めて大事である。

© 太刀川 史郎 2013