離乳期の哺育と疾患

2017日本臨床獣医学フォーラム(ホテルニューオータニ東京)2017.9.17

ためになる子猫学

離乳期の正しい哺育とよくある疾患

How to Care for Orphaned Kittens

 

太刀川史郎

たちかわ動物病院(神奈川県)

 

講演の目的

1.    離乳期の正しい哺育について

2.    離乳期によく見られる疾患について

 

キーポイント

1.    子猫の致死率は離乳期に集中するので正しい哺育について学ぶ

2.    離乳期によく見られる疾患について学ぶ

 

クライアント指導の要点

 保護された子猫は感染症や栄養失調で衰弱していることが多い.低体温の子猫は飲み込む力が低下しているので誤嚥しやすい.飲めたとしても腸管の動きが低下しているので下痢や腸閉塞を起こしたりする.まずは暖めてから少しずつの水分や缶フードなどを与え,来院するようにさせる.

 

要約

 保護された子猫が最初に来院した時,栄養失調で衰弱している可能性が高く,その原因に感染症などに罹患していることが考えられる.低体温症の子猫はまず暖め,それから水分や子猫の離乳用缶フードなどを少しずつ経口的に与える.同時に子猫の感染症が他猫に拡大しないように,感染症や寄生虫ごとに対する消毒の知識も大事である.本講演では子猫の正しい哺育と,子猫に多い様々な感染症や寄生虫疾患について学ぶ.

 

キーワード:子猫 哺育 よくある疾患

 

離乳期の正しい哺育

「最初に子猫を扱うときの心得」

 保護された子猫が来院したら,診察台を消毒し,清潔なタオルなどで子猫を包むようにする.2週齢くらいまでの子猫は体温調節が未熟で被毛も薄いため低体温症になりやすいので,子猫を濡れたところ,汚れたところ,冷たいところに置いてはならない.子猫の状態が悪い場合は,ヒーターなどを用意し子猫を暖める.遺棄(いき)された子猫は,衰弱し,糞尿などで身体が汚れ,低体温症に陥っていることがある.夏など気温が高い時期は熱中症などで高体温となりグッタリとしていることもあるので,状態をよく見極める.ノミなどの外部寄生虫,ウイルス性疾患などに感染している可能性もあるので,診察台と子猫の間に使い捨てができるような布や紙などを拡げる配慮をする.必要があればディスポのグローブやエプロンなどを着用する.

 子猫を取り扱う前に,必ず石けんなどを使用して手を洗い,アルコール系あるいは塩素系消毒薬などで消毒をする.手を洗う時,指先,爪の間,指の付け根など洗い残しをしやすい場所に留意する.新生子猫は,頚などが柔らかいので片手で急に持ち上げたりせず,両手で包み込むように抱き上げる.頸椎損傷など容易に起こりうるので子猫を振ったり,乱暴に扱わないように十分に注意する.新生子猫が診察台から落ちたりしないように目を離さない.その場を離れるときは箱やケージに必ず入れる.新生子は歩くことはできないが前肢を使った移動は意外と早いし,生後3週齢を過ぎればダッシュやジャンプもできるので油断しない.

 

「子猫の正しい成長(表1)」

 子猫の出生時の体重は85-110グラムで,母猫の栄養状態が悪い場合や,同腹子が多い場合,出生時体重は平均よりも少なくなる傾向がある.同腹子が1-2頭と少ない場合は逆に体重は重くなる.品種間でもばらつきがあり,コラットは平均73グラム,メインクーンは平均116グラムという調査結果もある.正常な子猫は110-15グラムずつ増加するので,1週間当たり50-100グラム程度の増加を認める.出生時体重が75グラムに満たない場合,死亡率が増加する(Gunn. 2006).出産直後は,まぶたが閉じており,生後7-14日程で開眼する.威嚇反射や瞳孔対光反射などの正常な視覚は4週齢以降で認められる.虹彩の色も4週齢頃から徐々に変化する.乳歯は,2週齢程度から切歯および犬歯が萌出する.3-4週齢で犬歯が伸び始め切歯よりも長くなり牙に変化していく.5週齢で前臼歯が萌出し,6週齢を超える頃にはしっかりとした臼歯となりドライフードなどを食べることが可能となる.

 

「子猫を保護したら暖める」

 保温器具はタオルで包んで直接子猫に触れないようにする.保温器具は,電気湯たんぽ,お湯を入れたペットボトルなどを使用する.子猫は2週齢まで体温調節ができないので保温器具を使用する.冬場であれば4-6週齢までは保温器具が必要である.しかし,子猫を狭い箱などに入れて保温器具を使用すると,逃げられずに低温火傷を起こすことがあるので注意する.遺棄された子猫の多くは低体温で来院するため,食事を与える前に暖めることが重要である.低体温のままだと,吸引力も嚥下力も弱いので誤嚥しやすい.腸管の動きも悪いので無理に飲ませると下痢や腸重責の原因となる.子猫を暖めても動かない場合は,脱水や低血糖などを起こしている可能性があるので獣医師の診察が必要である.

 

「子猫にミルクを与える」

 ミルクは猫専用ミルクを与える.粉でも液体でもどちらでもかまわない.牛乳は下痢の原因となるので与えない.ミルクの温度は35-38℃に調節する.子猫が飲む前にミルクが熱すぎないか確認する.口中や食道を火傷するとミルクを飲まなくなり,衰弱する原因となる.胃の容量は4-5ml/ 体重100gだが,栄養不良の子猫の胃は萎縮しているので飲める量が少ない.空腹の子猫はお腹がパンパンに膨れるまで飲んでしまい,嘔吐や誤嚥の原因となるので腹8分目でやめるようにする.急速に飲むとミルクをいつまでもほしがるようになるのでゆっくりと飲ませるようにする.哺乳瓶の乳首から飲むことに抵抗を示す子猫がいる.週齢が高い程その傾向があり,人口ミルクの味,ゴムの乳首の感触が母猫のそれと違うことが原因だと思われる.それでも,少しずつ飲ませると飲むことができるようになる.乳首は,子猫の犬歯と犬歯の間で咥えるようにする.口の中で乳首が密着し,ミルクをちょうど良い量で飲むと耳が後ろに反っくり返り,パタパタと動くようになる.鼻からミルクが吹き出す場合は,ミルクを飲むスピードが速くないか,口蓋裂などがないかどうか注意深く観察する.どうしても乳首から飲めない場合,針のついていない3mlのシリンジを利用する.ミルクは2-4時間ごとに与えるが,1回に飲む量が少ない場合,2週齢までは深夜26時で最後とし,早朝6時から開始することもある.

 

「子猫を離乳させる」

 子猫が3-4週齢になったら固形食を与え始める.子猫用の離乳食が缶フードとして各メーカーから販売されている.離乳食は,最初はほんの少しだけ与える.液体から固形食に変わることで軟便となることが多いので最初からたくさん与えないようにする.離乳の適齢でも栄養不良の状態の場合,消化管の発育が未成熟で軟便となる.その場合は,離乳食の開始を少し遅らせる.同腹子間でも発育は違うので,離乳食の開始日は発育を見ながらそれぞれ変えるとよい.離乳食の食べが悪い場合は,しばらくミルクと併用する.

 

 

離乳期によく見られる疾患(表2)

「離乳期は感染症になりやすい」

 離乳期は,母猫の移行抗体が消失する頃で,様々な感染症や寄生虫性疾患の感染を受けやすい.子猫が他猫と接触したり,成猫とトイレを共有したり,不特性多数の人間が不用意に触ったり,スタッフの消毒の意識が低いと感染症のリスクが高くなる.

 

「子猫の上部気道疾患」

 くしゃみ,鼻水,咳,目からの分泌物,舌潰瘍,発熱などが見られる猫は,上部気道疾患に罹患している可能性がある.猫同士の直接接触,分泌物に接触,食器などの共有で感染する.人が感染させていることも多い.これらの症状が認められる猫を触った手で他猫を触ったり,あるいは同じタオルなどを使用することで他猫に感染が拡大する.これら症状が見られたら,獣医師の診察が必要である.自然治癒することは少なく,放置すると重篤となり,角膜と結膜が癒着したり,鼻閉でミルクが飲めなくなったり,食事がとれなくなって衰弱する.上部気道疾患に多いヘルペスウイルスI型やクラミジアなどは,通常使用される抗生物質は効かないので,適切な点眼薬や投薬が必要である.必要に応じて,点滴など支持療法が必要となる.新生児結膜炎は,生後すぐに感染し,閉じた瞼(まぶた)の中に多量の粘液〜化膿性浸出液がたまり,瞼が膨張する.開眼して排膿および治療しなければ瞼球癒着や角膜-結膜癒着を起こす.重症例では眼球の発達障害や視覚障害がみられる.通常,生後1週間を過ぎた頃に自然に開眼するので,開眼せず瞼が腫脹しているような場合は強制的に開眼する.

 

「子猫の消化器疾患」

 腸内寄生虫は下痢や発育障害の原因となる.正常に見える便であっても検便をして虫卵を確認する.猫回虫は幼猫期に感染が多く見られる.直接経口感染,泌乳感染,待機宿主感染がある.胎盤感染は犬でみられるが猫はない.虫卵が排泄された後,感染力を持つ幼虫形成卵の発育までに犬で2週間,猫では10-30時間といわれる.猫では幼虫形成卵に発育する時間が犬よりも短いため,トイレにいつまでも他猫の便があったり,便の取り残しがあると感染のリスクが高くなる.猫の便をトイレから取り除くときは,便のみをとるのではなく,周囲の砂ごと処分するとよい.回虫卵の消毒は塩素では効果ないが,40℃以上の温湯で洗うと除去できる.

 便に粘液や出血が見られたら採材し,直接鏡検で原虫を探す.トリコモナスやジアルジアの栄養体は動いているためすぐに見つけられるがシストに変化していたら異物との見分けはつかない.イソスポーラなどコクシジウムも特徴的なので見つけやすい.コクシジウムの消毒は難しく,75℃で3-5分間加熱する必要がある.駆虫剤もあまり効果なく,再感染を繰り返す.クロストリジウムやキャンピロバクターなどの細菌が多数存在していないか注意する.

 パルボウイルスは感染力が強い.糞口感染で伝播するが,一般的には靴や衣類についた汚染物を介して運ばれる.環境にも強く,野外において数ヶ月間感染性を保持する.熱にも強く,不活化には90℃で10分間加熱する必要がある.パルボウイルス感染が疑われるときは,衣類乾燥機だけでは活性は失われないので,次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤30倍希釈:表3)を使用する.パルボウイルス感染症の典型的な症状は下痢であるが,子猫を注意して観察していると,その前に嘔吐,元気消失が先行することが多い.パルボウイルス感染症に対する子猫の死亡率は高く,幼齢なほど重篤である.猫の腸コロナウイルスのような腸管病原性ウイルスの重感染は病気をより悪化させる.

 

「子猫の外部寄生虫疾患」

 大量のノミは子猫に命を脅かす貧血をもたらすことがある.猫に安全なノミ駆除のシャンプーや製剤を使用する.子猫が衰弱しているようなときは,ノミ取りクシなどでノミ成虫を除去する.

 

 

 

表1.子猫の正しい成長(Susan. 2011から引用・改変)

体重:出生時 90-110 g

直腸温:出生直後 36-37

直腸温:1か月齢 38

心拍数:2週齢 220-260 拍/分

呼吸数:出生直後 10-18 回/分

呼吸数:1週齢 15-35 回/分

尿:比重 < 1.020

尿量 2.5 ml/ 体重100g/

飲水 13-22 ml/ 体重100g/

カロリー要求量 15-25 kcal/ME/体重100g/

胃の容量 4-5ml/体重100g

 

表2.子猫で重要となる病原体(Susan. 2011から引用・改変)

臨床徴候の部位 一般的な病原体

上部・下部気道疾患 猫ヘルペスウイルスI

           猫カリシウイルス

           Bordetella bronchiseptica

           Mycoplasma spp.

           Chlamydophila spp.

消化器疾患     汎白血球減少症

           大腸菌群

           Tritrichomonas foetus(トリコモナス)

           Giardia spp.(ジアルジア)

           Isospora spp.(イソスポーラ)

           Ancylostoma spp.(鉤虫)

           Toxocara spp.(回虫)

全身性疾患     猫白血病ウイルス(FeLV)

           猫免疫不全ウイルス(FIV)

           猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)

           Toxoplasma spp.(トキソプラズマ)

           グラム陽性菌(Streptococcus spp. Staphylococcus spp.)

           グラム陰性菌(Escherichia coli. Salmonella spp.)

 

表3.次亜塩素酸ナトリウムの用途別濃度

用途     濃度     5%液希釈法 10%液希釈法  備考

手指・皮膚  0.01-0.05% 100-500倍      200-1000倍    禁:粘膜

医療器具   0.02-0.05% 100-250倍      200-500倍     1分以上浸漬

ケージ・環境 0.02-0.05% 100-250倍     200-500倍     1分以上浸漬

食器・タオル 0.02%     250倍           500倍             5分以上浸漬

パルボウイルス0.1-0.5%   10-50倍        20-100倍       1時間以上浸漬

 

 

Gunn Moore D: Small Animal Neonatology: They look normal when they are born and then they die. World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings 2006.

 

Susan Little: Feline pediatrics: How to treat the small and the sick. Compendium: Continuing Education for Veterinarians. 2011.

 

 

© 太刀川 史郎 2013