子猫の下痢

動物看護師のためになる子猫の下痢

—先生,大変です!子猫がぐったりしてお腹がピーピーですー

Diarrhea in Kittens

 

太刀川史郎

たちかわ動物病院(神奈川県)

 

講演の目的

1. 子猫の下痢の原因について

2. 子猫の下痢の看護法について

 

キーポイント

1.    子猫の下痢の主な原因は,食事と感染症である.

2.    下痢が継続すると,脱水と低体温症を引き起こす.

 

クライアント指導の要点

1.    子猫は下痢をしやすい.元気で食欲があっても下痢が続く事がある.

2.    原因は食事性,寄生虫性,細菌性,ウイルス性,そして環境要因と多岐にわたる.

3.    下痢が継続すると体力を消耗して死亡することもあるため,動物病院での診察が必要である.

 

要約

 子猫は下痢をしやすい.離乳期は液体のミルクから固形食に変わる事で胃腸が対応できず,また,母猫の移行抗体が消失する時期と重なるため,様々な感染症に罹患しやすくなり下痢を発症しやすい.下痢の原因は食事性,感染性,環境要因など多岐にわたるため,適切な診断と治療が必要である.下痢が継続すると脱水,低体温症などでぐったりとしてしまう事もある.本講演では,子猫の下痢の原因と看護法について学ぶ.

キーワード:子猫 離乳期 下痢 脱水 低体温

 

子猫の下痢の原因は多岐にわたる(表1)

 子猫の下痢の原因は食事性,寄生虫性,細菌性,ウイルス性,環境要因,そして腸管以外,などがあげられる.子猫の下痢は特に食事が原因となる事が多いので食事内容については詳しく問診する.どのような環境に子猫がいたのか,あるいは現在の環境も重要である.

 

子猫の下痢を小腸性と大腸性に鑑別する(表2

 下痢とは,排便頻度の増加,糞便中水分含量の増加,糞便量の増加といった特徴で定義する事ができる.

 下痢が認められたら小腸性と大腸性に鑑別する.厳密に鑑別できない事も多いが,原因と対処法を考える上でとても参考になる.小腸に関連がある場合,一般的に,排便回数の増加はわずかだが,便の1回量が通常より増える.消化および吸収に障害がある場合,脂肪がきちんと消化できずにベッタリとした便になり腐敗臭がする.胃や小腸で出血があると便が黒色となり,ひどい場合はタール状となる.食欲は正常,あるいは普段よりも増える事もあるが,腹痛や嘔吐を伴うと低下する.体重は下痢が継続すると徐々に減少する.

 大腸に関連がある場合,一般的に,1回の糞便量は減るが,排便の回数が増え,便をした後にしぶる姿が見られることもある.しぶるというのは,便が出た後,もしくは便が出ないのに,排便の姿勢でいつまでも力んでいることである.時に液状の便を漏らしてしまうこともある.黄色のドロッとした半透明な粘液や,新鮮血を思わせる明るい赤色の出血が見られることも多い.出血は,下痢便全体に混ざる事もあるし,便の最後や表面に付着する事もある.食欲は正常だが,しぶりがひどい場合や,腹痛や嘔吐があると低下する.

 

子猫の下痢を急性と慢性に鑑別する

 急性の下痢は,環境,食事,異食,感染,寄生虫などを原因とすることが多いため,飼育指導や食事指導,対症療法で軽快しやすい.下痢を繰り返したり,状態が悪化する場合は,積極的な検査治療をすみやかに行う.

 慢性の下痢(表3)は,治療しても繰り返し,2-3週間以上継続するものを慢性とする.慢性下痢は小腸性,大腸性に鑑別すると原因や治療法を考える助けとなる.慢性期間が長く重症化すると鑑別できない事もある.

 

子猫の下痢に対する問診のポイント(表4

 子猫に下痢が見られたら,予防歴,環境,性格,同居動物,食事(種類,回数,変更),異食について問診し,ついで下痢がいつから(急性か慢性か),どのような(小腸性か大腸性か),治療歴,嘔吐,食欲の有無について診察前に問診すると良い.慢性の下痢症と判断した段階であらためて問診をし直す.

 

子猫の下痢の検査について

 子猫に下痢がみられたら,まずは検便する.直接検査,浮遊検査などを行う.便の採材は,便の表面,中など複数箇所で行う.液状便や粘液便では,ジアルジアやトリコモナスなど原虫のトロフォゾイトを探す.動いているのでわかりやすいが,見つからなくても疑わしければ適切な駆虫剤を投薬する.好中球を認めたら,サルモネラ,キャンピロバクター,クロストリジウムなどの細菌による腸粘膜の炎症が示唆されるので適切な抗生物質を投与する.寄生虫卵を認めたら,あるいは疑われたら広域な駆虫薬を投与する.FeLVFIVなどのウイルス検査を行う.血液検査,X線検査などを行うことも有益である.

 

子猫の下痢の消毒は塩素系消毒薬が使いやすい

 下痢便を見つけたらすみやかに片付ける.下痢をした子猫はすぐに隔離する.下痢をしている子猫が特定できない場合は,全部の子猫を隔離する.感染症の場合,母猫の移行抗体が消失する時期が子猫によって違うので,発症に時間差があるし,他猫に感染させてしまう.強い子猫は症状が出ないまま病原物質を排泄している事もあるので,症状が認められなくとも検便は必須であり,排便したらすぐに処分する.猫が複数いてトイレを共有している場合は,病原物質を再感染していつまでも感染が続く事がある.排泄した便だけをとるのではなく,トイレであれば周囲の砂ごとごっそりと処分する.定期的に全部の砂を交換し,トイレの容器はこすり洗いをして熱湯をかけ塩素系消毒薬で消毒する.塩素は次亜塩素酸ナトリウム(5)が使いやすい.市販されている塩素系漂白剤を使用することができるが,塩素濃度は5%10%とあるので希釈時に確認する.ビルコンS®(6)は動物病院で広く使用されている塩素系消毒薬である.寄生虫卵には塩素系消毒薬と温水を使用する.回虫卵は40℃程度の温水ですぐ死滅するが,コクシジウムのオーシストは100℃の熱湯でなければすぐには死滅しない.いつまでも寄生虫を駆除できない時は,しばしば再感染が原因であるので,トイレや環境の消毒について再考する(7)

 

子猫の下痢で脱水を起こす

 ぐったりとしている子猫は,脱水,低体温症に注意しなければならない.子猫の体内の水分含量は成猫に比べて多く,一般に成猫60%に対し,子猫は80%以上と言われる.皮膚の角質層が薄く,体重に対する対表面積の割合が大きく,新陳代謝が高く,体脂肪が少ないといった理由から水分要求量も成猫よりも多いので,脱水の影響を極めて受けやすい.

 

子猫の下痢で体温が低下する

 子猫が嘔吐下痢をするたびに体温が奪われ,吐瀉物や下痢便が身体に付着し濡れる事でさらに体温は低下する.子猫は内部体温を調節する機能が未熟で環境温度の影響を受けやすいため,母猫や同腹子と離れてしまうとすぐに低体温になる.体温が低下すると吸飲反射が低下し,強制的に水分を経口投与しても嚥下できずに気道などに誤嚥したり,胃腸の動きが悪くなる事で吸収不良となり,さらに下痢を誘発し,麻痺性のイレウスを引き起こすこともある.

 

子猫の下痢の看護は暖めることが大事

 子猫の下痢を認めたら暖める.寝床の温度は30-34℃,湿度50-60%とする.下痢をした子猫は隔離されるので,それまで母子と一緒にいた場合,低体温に注意する.床ヒーターや湯たんぽを使用する.エアコンは寝床が乾燥しやすい.乾燥することによって子猫の眼や口中も乾燥し急速に脱水もすすむので湿度の維持に注意する.

 

子猫の下痢の食事

 離乳期に下痢する事が多いのは,液状のミルクから固形食に変わる事で,胃腸の消化機能が十分に対応できないからである.消化は胃液,胆汁,膵液,腸液などの適度の分泌に加え,消化された栄養を吸収するための腸絨毛などの生理的機能,食べ物を送る腸の蠕動運動などの機械的機能とあわせ,整然と協調された胃腸管の成長が必要で,さらには腸管内の細菌バランス,移行抗体の消失に伴う細菌,ウイルス,寄生虫などの存在が便形成に大きく関与する.このように子猫の便が形成される過程は複雑で,下痢の原因は多岐にわたるため,それを特定するためには時間もコストも手間もかかる.しかし,子猫の下痢のほとんどは食事に起因するため,子猫に下痢が認められたら,まずは,現在の食事を変更する事からはじめてみる.ミルクから離乳食に変える事で下痢を

したと思われるのであれば,ミルクに戻してみると良い.便が落ち着いたら,少量の離乳食を便の状態を確認しながら与える.腸内細菌叢を整えるためにプロバイオティクスを混ぜるのも良い.授乳中に下痢がみられたら,ミルクの1回量,回数,種類,温度などを検討し,ミルクの作り置きや乳首の使い回しをやめ,ミルク瓶と乳首の消毒をしっかりとする.ミルクや固形食に不安がある場合,電解質液などを一時的に使う事もある.

 

 

1. 子猫の下痢の原因

食事

 食事の変更

 不適切な食事(質,量)

 離乳食,人口ミルク

 

寄生虫(ノミ寄生の有無)

 回虫

 条虫

 鞭虫

 鉤虫

 

原虫

 コクシジウム

 ジアルジア

 トリコモナス

 

細菌

 キャンピロバクター

 サルモネラ

 クロストリジウム

 大腸菌

 

ウイルス

 パルボウイルス

 猫腸コロナウイルス

 猫伝染性腹膜炎ウイルス

 猫免疫不全ウイルス

 猫白血病ウイルス

 

その他

 環境(温度,衛生状況)

 腸閉塞  

 異物 

 中毒

 薬剤 

 肝臓病

 膵臓病

 腎臓病

 敗血症

 

表2.小腸性下痢と大腸性下痢の鑑別

 

所見       小腸性下痢/大腸性下痢 

排便  頻度      正常・軽度増加/増加

排便困難・しぶり なし/あり

便を漏らす    まれ/あり

便の性状  量    増加/減少

      粘液・鮮血   なし/あり

         脂肪便  消化・吸収不良時/なし

   メレナ  あり/なし

随伴症状 体重減少  あり/経過が長いと

嘔吐   あり/時に

       食欲    低下〜亢進/正常〜低下

腹鳴・鼓腸   あり/なし

 

3. 慢性下痢を起こす主な疾患

食事性

環境性

薬剤・毒物

小腸疾患(寄生虫性,細菌性,ウイルス性)

大腸疾患(クロストリジウム,トリコモナス,鞭虫,FIP

膵臓疾患

肝臓疾患

内分泌疾患

腎臓疾患

感染症(敗血症,腹膜炎)

 

4. 子猫の下痢に対する問診のポイント

入手経路:拾った,もらった,ペットショップ,ブリーダー,里親

育児環境:初乳を飲んでる,母乳で育った,人口ミルク

現在の環境:室内のみ,外出する,どこの部屋,自由,ケージ,室温,湿度

トイレ:砂の形状,トイレの数,場所,他猫とトイレを共有

ワクチン:いつ(                ),メーカー(                                                     

駆虫薬:いつ(                    ),商品名(                                                         

性格:弱い,おとなしい,元気,活発,恐がり,神経質

同居動物:兄弟猫,母猫,同居猫,犬,人(小さな子供,老人),他

食事:ドライ(                    ),缶(                  ),オヤツ(                         

食事の回数(                        ),量(                 

異食:人の食物,ビニール,ボタン,ひも,タバコ,化粧品,花植物など

下痢はいつから(                ),繰り返している

下痢は小腸性,大腸性(表2を参照)

治療歴:投薬(                                       ),食事の変更(                                     )

検査歴:X(                       ),検便(                                                                 )

体重:変わらず,増加,減少

嘔吐(                                                    ),脱水(                                             

食欲(                                                    ),元気(                                             

その他:ノミがいた,けいれん,呼吸があらい(                                           )

子猫の下痢の原因としてご家族が思い当たる事(                                       

 

5. 次亜塩素酸ナトリウムの用途別濃度

用途  濃度  5%液希釈法  10%液希釈法 備考

手指・皮膚 0.01-0.05% 100-500倍 200-1000倍 禁:粘膜

医療器具 0.02-0.05% 100-250倍 200-500倍 1分以上浸漬

ケージ・環境 0.02-0.05% 100-250倍 200-500倍 1分以上浸漬 

食器・タオル  0.02%  250倍  500倍  5分以上浸漬

パルボウイルス 0.1-0.5% 10-50倍 20-100倍 1時間以上浸漬

 

6. ビルコンS(バイエル薬品)の用途別濃度

100倍 パルボウイルス, カリシウイルス,真菌,芽胞菌の消毒

500倍    一般ウイルス,一般細菌の消毒

禁:生体/アルカリ性物質との併用.希釈液は都度調整し水道水を使用

 

7. 微生物/寄生虫の消毒

寄生虫

 回虫:40℃温水

 鞭虫:乾燥や日光に弱い

 鉤虫:感染子虫は次亜塩素酸ナトリウムで死滅

 

原虫

 コクシジウム:熱水(100 1-2秒,75 3-5)

 ジアルジア:乾燥に弱い,0.3%次亜塩素酸ナトリウム

 トリコモナス:乾燥に弱い

 トキソプラズマ:熱水(70℃,10)0.5%次亜塩素酸ナトリウム

 

ウイルス

 猫パルボウイルス:熱水(98℃,20)0.5%次亜塩素酸ナトリウム, 10%ポピドンヨード

 猫カリシウイルス:熱水(80℃,10)0.02-0.125%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,10%ポピドンヨード

 猫ヘルペスウイルス,猫コロナウイルス,猫白血病ウイルス,猫免疫不全ウイルス:熱水(80℃,10)0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,10%ポピドンヨード

 

真菌

 皮膚糸状菌:熱水(80℃,10)0.05-0.1%次亜塩素酸ナトリウム

 カンジタ,クリプコッカス:熱水(80℃,10)0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,0.1-0.5%グルコン酸クロルへキシジン,10%ポピドンヨード

 

細菌

 クロストリジウム(芽胞菌):0.5%次亜塩素酸ナトリウム

 大腸菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,クラミジア:熱水(80℃,10)0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,0.1-0.5%グルコン酸クロルへキシジン,10%ポピドンヨード

 

   

 

© 太刀川 史郎 2013