WJVF第6回大会動物看護師講演ニューオータニ大阪(2015.7.13)
「子猫の育て方」 哺乳から離乳まで
Raising Orphan Kittens
太刀川史郎
たちかわ動物病院(神奈川県)
講演の目的
離乳前の子猫を保護してから離乳するまでの子猫の育て方
キーポイント
1. 保護直後の子猫の健康状態を把握する
2. 子猫から他猫への感染に注意する
3. 人工哺育について学ぶ
クライアント指導の要点
1. 保護された子猫の健康状態は悪いことが多い
2. 保護された子猫の病気が同居している猫に感染することがある
3. 哺乳期間中や離乳期には様々なトラブルがおこることが多い
要約
子猫が保護された時,外傷,低体温,嘔吐,下痢に注意する.どのような状態であっても,子猫には安静,保温,栄養の3つが大事である.外部寄生虫を含めた感染症が院内の他猫にうつらないようにする.本講演では,保護されてから離乳するまでの哺育方法について,哺乳ビデオなどを見ながら詳しく講演する.
キーワード
子猫 ミルク 哺乳 離乳 感染症
1. 保護された子猫の健康状態は悪いことが多い
子猫の健康状態に異常なサイン(表1)がないかどうか,世話をしながら注意深く観察する.継続する下痢などが認められたら,獣医師の診察や治療が緊急的に必要(表2)である.
「外傷,骨折」
子猫は,他の成猫や動物,人からケガをさせられることが多いが,哺育期の子猫の歩様は不安定なため骨折などがあっても見た目では分かりにくい.身体検査ではっきりしないときは,レントゲン検査や超音波検査が有効なこともある.外傷があれば消毒し抗生物質の投与が必要なこともある.皮膚が剥離し,傷に泥や小石などが付着している場合は,洗わずにピンセットなどで丁寧に取り除く.傷周囲の被毛をバリカンやハサミで切って傷に毛が付着しないようにする.骨折を認めても,あわてて手術などを考えずに安静を第一にする.
「体温の異常」
子猫の正常体温は成猫より低めの37.7度前後であるが,39.4度以上の場合は,原因として感染などを第一に考える. 37.2度以下を低体温とし,原因として衰弱や低栄養などが考えられる.どちらにしても保温が必要で,寝床の温度は保温マットや湯たんぽなどを利用して30度前後を維持し,熱ければ逃げられるスペースと,呼吸のための換気も考慮する.状態が安定していれば,1-2週齢で26-29度,2-3週齢で24-27度,3-4週齢で21-24度を目安とする.母猫と一緒だったり複数の子猫と一緒であれば寝床の温度は目安の温度から少し下げても良い.
2. 保護された子猫の持っている病気が,入院している猫に感染することがある(表3)
「子猫からの感染症」
子猫が保護された場合,様々な感染症を持っていることを想定する必要がある.家庭では,同居猫,人や犬へ感染が起こることがある.病院では,入院猫や病院猫,犬やスタッフへ感染が起こることがあるので,感染症について理解し,子猫を保護したご家族にもアドバイスできるようにする.
「子猫を隔離する」
子猫を保護したら,隔離し,食器,トイレ,タオル,雑巾,ブラシなどは専用のものを用意する.家庭では同居猫と2週間は部屋を別にする.先住猫がいなくともしばらくは部屋から部屋への移動はしないようにする.病院では,専用のステンレスケージを使用し,必要に応じて熱湯や消毒剤を使って消毒する.医療スタッフを含めて,人が子猫から他猫へ感染させていることが多いので,子猫を触ったら手洗いは必ず行う.子猫を扱うときの専用の上着や白衣なども必要である.
3. 人工哺乳について学ぶ
「正常な生育の目安」
体重:出生時は80-120グラムで,1日10-15グラムずつ成長する.10日齢:200-250グラム,20日齢:300-400グラム,30日齢:400-550グラム, 8週齢:800-900グラムを目安とする.しかし,野外で十分にミルクを飲めなかった子猫の体重は前述の目安よりも少ない.
ミルク:子猫に牛乳を与えてはならない.必ず子猫用のミルクを使用する.ミルクは粉タイプ,リキッドタイプのどちらでもかまわない.ミルクの1回量は1週齢程度で3-5ml,4週齢程度で20mlほど飲めるようになる.回数は1-2週齢までは2-3時間ごとに哺乳し,4-5週齢から4-5時間ごとに哺乳する.4-5週齢頃からお皿から舐めることができるようになるので,徐々に離乳する.
眼:1-2週齢でまぶたが開く.瞳孔は小さく,眼球が青色に見える.3-4週齢で眼の色が変わり始め,9-12週齢で成猫の眼の色になる.
耳:5-8日齢で耳道が開き,2-3週齢で耳介が立ち上がる.
乳歯:2週齢くらいから生え始め,3週齢ではしっかりする.咬む力も強くなり,この頃の子猫に強く咬まれると痛いし出血する.
運動:1-2週齢は前肢だけでモゾモゾと泳ぐように移動し,2-3週齢でハイハイし始め,3週齢までにはヨチヨチ歩きを始め,4週齢で子猫たちで遊び始め,追いかけっこ,待ち伏せ,狩りの行動が見られるようになる.冒険心の強い子猫は寝場所の外を探検し,世話している人を後追いするようになる.世話している人と見知らぬ人の違いは早くから認識できる.
「離乳にチャレンジする」
4週齢を過ぎたころから暖めた缶フードやおかゆを人の指からなめさせる.子猫が匂いを嗅いで離乳食をなめるようになれば,浅い皿にいれた離乳食に指をいれて子猫を誘導する.子猫が指に興味をしめさなければ,子猫の口をあけ,離乳食を歯にこすりつける.それでも興味を示さなければ離乳食を針をはずした注射器に入れ,少量のおかゆを口の奥の方に押し出す.離乳で下痢したり,体重が減少したりする子猫の場合は,ミルクに戻し,もう1週間程待ってから離乳に再チャレンジする.子猫によっては7-8週齢までミルクを主体に離乳食を舐める程度の子猫もいるが,体重が順調に増えているならば問題ない.
「トイレのトレーニング」
排尿排便は,1-2週齢ではもぞもぞ動いているうちに出てしまう.寝床が汚れるのでミルクを飲んだ後にティッシュか柔らかい布を濡らし,股間を刺激すると排尿する.便は2-3日に1回でも心配しなくとも良い.2-3週齢で寝床の横にペットシートを広げておけば自然に排尿するようになる.新聞紙を細かくしたものか,固まらない猫砂を少量だけペットシートの上にまいておく.固まる猫砂は使用しない.子猫が舐めたり食べたりすれば砂が胃の中で固まってしまうからである.寝床から出て遊べるようになれば,高さ2-3センチの浅いトレーに排尿することができるようになる.寝床の外に探検するようになった時は,広い部屋のどこかにトイレをおいても失敗する.寝床の外に広めのラグを床に敷き,ラグの上で人や大人の猫が子猫の相手をし,近くのすみに浅いトイレをいくつか置いておけば上手にできるようになる.甘えて自分から仰向けになってオシッコやウンチをせがむこともある.トイレは常に清潔にし,食べ物や飲み水の近くにおかないようにする.
「下痢」
下痢が見られたら,寝床が寒くないか温度を確認する.ミルクのメーカーを変えるか,ミルクの量や温度を調節する.成長と共にミルクの量も増えていくので,量が多いと下痢する子猫もいる.飲みが良いからとおなかがパンパンになるまで飲ますと下痢をする.下痢した場合は,いつもの量の半量のミルクに電解質液などを等量混ぜて飲ませても良い.良い便でも最初の便は検便をする.下痢を繰り返すときは,検便も何度も行う.下痢の他に,鼻水や目ヤニなどが見られたり,繰り返す下痢がみられたら獣医師の診察が必要である.
表1. 子猫の異常なサイン
眼や鼻からの分泌物
食欲がない
元気がない
下痢
嘔吐
体重減少
咳
くしゃみ
表2. ただちに獣医師の診察と治療が必要な子猫のサイン
継続する下痢
繰り返す嘔吐
あらゆる出血(便,尿,鼻,眼,耳,身体)
あらゆる外傷(事故,落下,跛行,踏まれる,無意識,呼吸困難)
1日以上の絶食
反応がない
表3. 保護された子猫から同居猫および入院している猫への感染に注意すべき疾患
外部寄生虫(ノミ,シラミ,疥癬,耳ダニ)
皮膚糸状菌(マイクロスポラム,トリコフィトン)
呼吸器性疾患(カリシウイルス,ヘルペスウイルス)
消化器系疾患(パルボウイルス,コクシジウム,ジアルジア,トリトリコモナス)
ウイルス性疾患(猫白血病ウイルス,猫免疫不全ウイルス)