猫の病院

神奈川県秦野市の猫の病院

神奈川県秦野市西大竹123−4

0463−83−7755

猫はとてもデリケートな動物です。

生活環境、食事、トイレなど特別な配慮が必要です。

病気の治療も犬と同じ治療では治りません。

猫の治療には特別な配慮が必要なのです。

子猫を拾ったらまず見る動画

子猫を拾った時の対応についてYouTubeにしました2023(ロイヤルカナン提供)

茶トラのオスの投薬+チュール

猫に投薬するのは大変ですが,茶トラのオスは好きなオヤツと一緒に飲んでくれることもあります.モデルは保護猫のしゅん君が鼻詰まりの漢方薬を飲むところ

  1. 嘔吐
  2. 膀胱炎
  3. 好酸球性皮膚炎
  4. 肥満細胞腫
  5. 腫瘍随伴性脱毛症
  6. 猫の伝染性腹膜炎(FIP)
  7. 糖尿病性エマージェンシー
  8. 消化器型リンパ腫
  9. 不妊去勢手術のメリット・デメリット
  10. 糖尿病猫の長期管理と合併症

11. 表皮向性T-cellリンパ腫

12. 猫の眼科 

13. 糖尿病を自宅で管理

14. 子猫学 

15. 子猫の眼感染症

16. 子猫の下痢

17.離乳期の正しい哺育とよくある疾患

18. 子猫管理

1. 嘔吐

2010年9月18日 日本臨床獣医学フォーラム市民講演(ホテルニューオータニ東京)

「ニャンともツラい猫の嘔吐」-腸の粘膜におこる謎の炎症-

PURR-sistent Vomiting 

 Mysterious Inflammation of Intestinal Membrane

太刀川史郎(たちかわ動物病院)

神奈川県秦野市西大竹123−4

講演の目的

1)一般的によくおこる猫の嘔吐の原因を考える

2)腸の粘膜におこる謎の炎症について考える

キーポイント

1)健康な猫でも嘔吐することがある

2)嘔吐する原因は「食事」、「毛玉」、「腸の炎症」に大別される

クライアント指導の要点

1)嘔吐の状態や食事についてご家族とお話しして必要があれば食事を変更する

2)元気がないときや体重の減少がみられたら各種検査をする

要約

 猫が嘔吐する原因を、次の3つに大別すると理解しやすい。

  1. 1.健康な嘔吐 2. 未病の嘔吐 3. 病的な嘔吐 である。

この3つについてみなさんと一緒に考えたいと思う。

キーワード

猫、嘔吐、未病、腸粘膜 謎の炎症

  1. 1.健康な嘔吐

 猫は健康でもよく嘔吐する。一緒に生活していれば猫が吐くところを見たことがある方も多いと思う。吐いた後にケロッとしていたり、再び食べはじめたりすれば大丈夫。健康な嘔吐の原因としては「毛玉」と「食べ物」が多い。

(毛玉で嘔吐するということはどういうこと?)

 猫が自分で自分の被毛をペロペロなめてきれいにすることをグルーミングという。グルーミングのときに飲み込んだ毛が毛玉になるとおなかが詰まってしまうので、健康な猫は定期的に吐き戻しておなかの中をきれいにするのだ。

(食べ物で嘔吐するとはどういうこと?)

 キャットフードや猫缶を食べた後にも猫はよく嘔吐する。特にドライフードを一度に大量に食べたとき、水を含んでドライフードが膨らむため、胃がビックリして吐いてしまう。食後すぐに吐き戻すときは食べ過ぎやフードが体に合わない事が原因のことが多いようだ。

(治療が必要なの?)

 毛玉を吐き戻した後も、食べ過ぎたドライフードを吐き戻した後もスッキリするので、猫は元気だし、食欲もあることが多い。こういった場合は、特に治療せずに様子を見る。治療が必要になるのは頻繁に吐くときや、嘔吐する前後に元気や食欲がなくなるときだ。なぜ元気がなくなるかと言えば、それはお腹が痛いからなんだ。

  1. 2.未病の嘔吐

 「未病」とは、病気と健康の間にある状態で、健康ではないけれども、まだ病気ではない状態をあらわす東洋医学の言葉だ。未病には健康に近い未病から、病気に近い未病がある。「よく吐く」という自覚症状があっても、検査しても異常が見つからないことが多いがそれは健康に近い未病だからだ。検査に異常がなくとも放置すれば、病気に近い未病になってしまうことが多いので、なぜよく吐くのかを主治医と相談した方がよい。

(過剰なグルーミングは異常のサイン)

 猫のグルーミングには、被毛をきれいにするだけでなく、ストレスを感じたときのリラックス効果もあるようだ。ただ、それが行き過ぎると、人でいうところの、「指しゃぶり」や「爪かじり」のような悪い癖となる。つまり、毛がなくなるまでグルーミングをして、皮膚が見えてしまったり、ひどい場合は皮膚を傷つけてしまうまでなめ続ける。こういった原因には、アレルギーやノミなどで皮膚が痒かったり、膀胱炎や腸炎でおなかが痛くておなかをなめ続けているということもある。引っ越しや家族構成が変わったなどのストレスで過剰なグルーミングをすることもある。そして、結果的におなかの中にたくさんの毛玉ができて頻繁に吐き戻すようになるし、ひどい場合には腸が詰まってしまう。だから、過剰なグルーミングの原因を考えることがとても大事なのだ。

(食べ物を頻繁に吐くのは異常のサイン)

 食べ物を過剰に吐くときは、食べ物が古くないか、カビが生えていないか、ダニがわいていないかをまず考える。次に、食べ物が猫の体に合っていないことも多いので、フードの種類を変えてみることも必要だ。同じものを食べていても、あるときからそのフードに対して体が受け付けなくなってしまうこともある。猫は肉食動物だから、自然界ではネズミやトカゲ、虫などを捕まえて食べている。ところが、一般のドライフードには穀物が多く含まれているから、肉食動物の猫の体にはそもそも合わないのが本当なんだ。

  1. 3.病的な嘔吐

 繰り返す嘔吐を放置すると、胃液によって食道に炎症を起こしてしまうこともある。吐いたものが気管に入って肺炎を起こしてしまうこともある。幽門(ゆうもん)と呼ばれる胃の出口が炎症を起こして狭くなってしまうこともある。膵臓や肝臓は消化液を腸に分泌するために細い管で腸とつながっているから、嘔吐で腸に圧力がかかって、腸のバイ菌が膵臓や肝臓に入り込んで急性の炎症をおこしてしまうこともある。

(腸におこる謎の炎症)

 体に合わない食べ物を食べ続けることで、腸の粘膜に炎症を起こす白血球が集まってきて食べ物に対する過剰反応を起こしてしまう。慢性化した炎症は治療してもなかなかよくならず、膵炎は糖尿病を、肝炎は黄疸を、腸炎は栄養失調をおこしてしまうし、ひどくすると悪性腫瘍が発生する。繰り返す嘔吐が、猫の体にさまざまな病気を引き起こしてしまうのだ。炎症の正体は、本来は自分の体を守るための 白血球と呼ばれる細胞が、逆に自分の腸に炎症を起こしてしまうことによる。治療はこの炎症を起こしている白血球を抑えるために食事を変えたり炎症や免疫を抑える薬を使うのだけど、一度過敏になった白血球から正常の腸粘膜をとり戻すのはとっても難しいんだ。

2. 膀胱炎

2010年9月18日 日本臨床獣医学フォーラム市民講演(ホテルニューオータニ東京)

「ニャンともツラい猫の膀胱炎」-オシッコが赤ワイン色に染まる-

PURR-sistent Cystitis

  Urine Turns Red Like Wine

太刀川史郎(たちかわ動物病院)

神奈川県秦野市西大竹123−4

講演の目的

1)猫の膀胱炎のサインについて

2)膀胱炎の治療について

キーポイント

1)猫の膀胱炎のサインは「頻尿」、「血尿」、「不適切な排泄」などがある

2)猫の膀胱炎の原因はよくわかっていないため、治療は難しく長期化する

クライアント指導の要点

1)膀胱炎を繰り返すときは投薬や食事療法をお勧めする

2)尿が出ないときは緊急事態なのですぐに来院していただく

要約

 猫の膀胱炎は「下部尿路疾患(FLUTD)」と呼ばれるが、 FLUTDの3/5は原因を特定できない「特発性膀胱炎(FIC)」であることがわかってきた。 FICのほとんどは様子を見ているうちに一過性に終わってしまうが繰り返すうちに慢性化する。 1/5にストロバイト結晶などの「尿石症」を認めるが、尿石症と膀胱炎の関係は必ずしも明確ではない。残りは感染症、腫瘍、神経的問題、機能的問題、行動的問題などがある。

キーワード

猫、特発性膀胱炎、頻尿、赤ワイン色

  1. 1.膀胱炎のサイン

(頻尿とは)

 頻尿とは、トイレに何度も行き、そしてトイレでしゃがんでもほとんど尿が出ないか出ても少量の状態を言う。必要以上にトイレを引っ掻き回したり、トイレの前後に落ち着きなく大声で泣いたりウロウロしたりすることもある。頻尿は膀胱炎のサインと考えられ、特発性膀胱炎、尿石症、感染、腫瘍などを原因とする。糖尿病や腎臓病など尿量が増えてトイレに何度も行くのは「多尿」と言い、頻尿と区別される。頻尿と多尿は病院で尿検査することで違いがわかる。

(不適切な排泄とは)

 いつもはトイレにきちんと尿ができるのに、洗面台やお風呂場など水が流れるような場所に尿をしてしまうことがある。座布団やソファー、布団などにしてしまうこともある。トイレの周りに尿を垂らしてしまうこともある。発情期のスプレーのように壁に立ったまま尿をかけることもある。これらを不適切な排泄といい、「猫が粗相(そそう)をする」と表現したほうが理解しやすいかもしれない。頻尿により粗相をする事が多いが、環境の変化や精神的なストレスなどによる行動的な問題でおこる事もある。尿道が塞がったり神経的な異常で尿が出にくくポタポタと尿が垂れてしまっている事もあるので詳しい診察が必要だ。

(血尿とは)

 重度の頻尿や不適切な排泄が見られるときの尿を注意して見ると、わずかに赤色がついた尿をすることがある。尿全体に赤色がついていることもあるし、血の塊が尿の中にみえることもある。尿道が詰まって尿が出なくなると膀胱が破裂寸前まで拡張して粘膜の血管が切れ、赤ワイン色の尿をすることがある。

(お腹をなめる)

 お腹に違和感があるので、お腹をなめて毛が薄くなっていることがある。 お腹を過剰になめるのは膀胱炎、腸炎、ストレス、皮膚アレルギーなどが原因に考えられる。

  1. 2.膀胱炎の治療

(尿石症と膀胱結石)

 尿石症の診断は、尿検査、レントゲン検査、超音波検査で比較的容易だ。通常、大きな結石は膀胱粘膜を傷つけ血尿や痛みの原因となるので外科手術が必要である。しかし、結晶状に結石が小さい場合は、臨床的判断に注意が必要である。なぜならば、結晶状の尿石が認められてもそれが膀胱粘膜を傷つけたり血尿の原因になるとは考えにくく、膀胱炎の症状を伴っていたとしても直接に関連性があるのかどうか疑問とされる。ただし、何らかの原因により膀胱に炎症や出血があり、そこに尿石(結晶)がある場合、特に雄猫では結晶と白血球と粘膜上皮などが塊(尿道栓子)となり尿道を塞いでしまう事もあるため、食事療法による尿石の積極的な除去が必要となる。

(特発性膀胱炎)

 症状が一過性であるため診断は難しい。 頻尿、不適切な排泄、血尿、有痛性排尿がみられたら、常に特発性膀胱炎を疑う。 検査で結晶が見られても、結晶が膀胱炎の原因となっているというよりも、何らかの原因で膀胱に炎症があり、そこに尿石症が合併すると考え、尿石症の治療とともに膀胱炎の真の原因を追及する事が大事である。猫の場合、環境や精神的ストレスが特発性膀胱炎の発症要因に関連する事も多いので家庭環境や食事についてご家族と主治医で話し合う事も大事である。 治療はストレスの除去と食事療法からはじめ、繰り返す場合は、鎮痛剤および消炎剤などの投薬治療が必要だ。

3. 好酸球性皮膚炎

nfoVets 2007年11月号

猫の好酸球性皮膚症Eosinophilic Dermatosis : ED

太刀川史郎(たちかわ動物病院)

神奈川県秦野市西大竹123-4

要 約

 猫の好酸球性皮膚症という用語は、ほとんどの場合が抗原刺激に対する皮膚局所への好酸球性の過敏反応としてあらわれた臨床徴候の総称であり、治療には糖質コルチコイドの投薬が一般的である。しかし、EDと鑑別の必要な重大な皮膚疾患もいくつか存在するため、無計画な糖質コルチコイドの投与をしないよう、疾患の特徴と病因について論ずる。

はじめに

 好酸球性肉芽腫症候群(Eosinophilic Granuloma Complex; 以下EGC)は猫でよく知られる皮膚科疾患のひとつである。EGCは臨床的に明確な、以下の3型に分類される。すなわち、無痛性潰瘍(Indolent Ulcer ; IU)、好酸球性プラーク(Eosinophilic Plaque ; EP)、好酸球性肉芽腫(Eosinophilic Glanuloma ; EG)がそれである。しかし、これらは診断名ではなく、臨床的な徴候を言いあらわしたにすぎない。近年の獣医皮膚科学の研究により、EGCの3型に、猫粟粒性皮膚炎(Feline Military Dermatitis ; FMD )、猫の蚊咬傷過敏症(Mosquito Bite Hypersensitivity ; MBH)の2疾患を加えて、好酸球性皮膚症(Eosinophilic Dermatosis ; ED)と呼称する皮膚科専門医もあらわれるようになってきた。

キーワード ; 猫、好酸球性皮膚症、好酸球性肉芽腫症候群、ED

病因(表1.)

 猫のEDは、臨床症状の特徴はよく理解されているが、その病因についてはいまだ不明な部分が多い。全ての疾患に共通するものとして好酸球の皮膚浸潤があげられており、ほとんどの場合、抗原刺激に対する局所への好酸球の過敏反応と理解されている。猫のアレルギー性皮膚疾患は3つのカテゴリーに分類される。すなわち、アトピー性皮膚炎、食事性アレルギー、ノミアレルギーである。猫のEDの病因も3カテゴリーのいずれかに関連づけをすることができるが、全てのEDの病因を過敏反応とするには、次の理由により異論もある。EPとMBH、およびFMDは抗原刺激に対する過敏反応と理解することに異論は少ないと思われる。しかし、EGの原因となるアレルギー抗原が証明されることはほとんどない。IUは、他のEDと併発する場合は、アレルギーによることが多いようであるが、単独で発症する場合は、その発症要因を特定することは困難である。また、Scott(1980, JAAHA)は、同腹の猫に発生したEGを報告し、Pedersen(1988)は、閉鎖されたSPF繁殖猫群においてEGおよびIUの発生頻度が高いことを私見で述べている。これら研究の結果から導かれることは、好酸球の活性化および誘因に対する制御と調節障害に関する遺伝的素因もEDの要因のひとつと考えられている(Power 1998)。

猫粟粒性皮膚炎(Feline Military Dermatitis ; FMD )

FMDは、猫で最もよく見られるEDのひとつであり、その病因にはアレルギーが考えられる。病変は、主に背部、体幹、頭頚部に好発する。特徴は、掻痒性、多発性、丘疹状痂皮として認められる。病変部に小さな硬い丘疹状痂皮が、種子をまぶしたように、手で不快な感触として触ることができ、多くは、皮膚がざらざらすることに猫の飼主が気づいて来院する。掻痒はない場合もあるが、痒みが強い場合、自己損傷による、脱毛、紅斑、出血、びらんが同時にみられる。

好酸球性プラーク(Eosinophilic Plaque ; EP)図1.

 EPは、病因にアレルギーが考えられる。FMDと組織学的に類似するが、臨床的態度は異なっている。病変は、最も一般的には下腹部から大腿部内側、肛門周囲に好発する。特徴は、掻痒性、多発性、紅斑性プラークとして認められる。多くは強い痒みにより、脱毛し、皮膚は糜爛、潰瘍化し、境界明瞭な紅斑性パッチ、あるいはパッチが癒合してプラーク状にみられる。

猫の蚊咬傷過敏症(Mosquito Bite Hypersensitivity ; MBH)図2.

 MBHは、蚊に暴露された猫にしか発生しない。病変は、鼻稜、耳介、眼周囲、乳頭周囲、肉球にみられ、紅斑性の丘疹またはプラークから、痂皮を伴ったびらんまたは潰瘍へと発展する。その特徴的な発生部位から、天疱瘡、エリテマトーデス、扁平上皮癌、日光皮膚炎などの鑑別が重要である。

好酸球性肉芽腫(Eosinophilic Glanuloma ; EG)

 EGは、組織病理学的検査によってはじめて、この用語を正確に用いることができるが、典型的には、大腿部後方あるいは内側に線状に限局性の病変を見つけた場合は、EGと強くいえるかもしれない。しかし、EGは体幹側方にもたまに発生し、肉球や顔を含む全身に発生する。顔面には口唇縁と顎に多く発生し、罹患した猫は腫れた口唇とふくらんだ顎による外見から、「ふくれっ面(図3.)」と称される。口腔内にも潰瘍性あるいは増殖性の口腔内病変として、舌、硬口蓋に発生し、口腔内扁平上皮癌(図4.)との鑑別が重要である。

無痛性潰瘍(Indolent Ulcer ; IU)図5.

 IUは、上唇の中心線上、あるいは上顎犬歯に隣接する部分が疼痛や痒みを伴わずに潰瘍化することが特徴である。IUは、他のEDと併発した場合、アレルギーが基礎にあることを示唆する。IUが単独で発生した場合、病因は不明であることが多いが、扁平上皮癌の前癌病変であるとする報告(Small Animal Dermatology, 6th)や、Microsporum Canis感染の関与を示唆する報告(Moriell ; Vet Med 2003)もある。血液および組織の好酸球増加症は必ずしも多くない。発生部位が唇交連や辺縁、顎に生じた場合、IUとまぎらわしいが、その場合は、EGである事が多い。

診断

ほとんどの皮膚科疾患と同様に、診断は病歴、臨床所見、各種検査所見、治療反応を見て総合的に判断される。これら疾患の臨床的に明らかな特徴から、ほとんどの場合、それで正しい判断であることが多いにもかかわらず、決して、一見の肉眼的特徴のみで判断してはならない。理由は、他の重大な皮膚科疾患がEDの臨床徴候に類似しているからである。すなわち、IUは扁平上皮癌、ウィルス性潰瘍が鑑別診断に含まれる。EPおよびEGは、感染性あるいは異物による肉芽腫、皮膚リンパ腫、扁平上皮癌、肥満細胞腫が鑑別診断に含まれる。

治療

 ほとんどのEDがアレルギーを素因としているので、臨床の現場では、詳細な検査の前にアレルギーに対する診断的治療が初期に行われることが多い。すなわち、外部寄生虫の駆除、除去食、糖質コルチコイドの投与が一般的であろうと思われる。治療反応が良好でないとき、はじめて詳細な検査メニューが検討されるが、外部寄生虫の駆除と除去食の継続は、ある種の疾患の除外診断に役立つと思われる。しかし、糖質コルチコイドの投与は、多くの場合、臨床徴候の改善に役立つが、初回からの無秩序な投薬は、疾患を隠してしまうこともあるし、疾患が増悪することもあるので注意が必要である。

おわりに

 猫のEDは、従来からよく知られている好酸球性肉芽腫群に新たに2型加えたものであるが、著者は、アレルギーを素因とした丘疹あるいはプラークを形成する粟粒性皮膚炎、蚊咬傷過敏症、好酸球性プラーク、そして一部の無痛性潰瘍のグループと、潰瘍あるいは肉芽腫を形成する無痛性潰瘍、好酸球性肉芽腫のグループとの2グループに分けて理解している。後者のグループには、より注意深い観察が必要であると思われる。今後は、多くの症例を集積し、この不可解な疾患群の詳細な検討が望まれる。

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表1. 好酸球性皮膚症の病因

 過敏症 

環境アレルゲン

昆虫(ノミ、蚊)

皮膚付属期(遊離ケラチン、毛幹)

消化管内寄生虫

感染性(細菌、真菌)

 ウィルス性

猫ヘルペスウィルス

猫カリシウィルス

猫白血病ウィルス

猫後天性免疫不全ウィルス

 皮膚外部寄生中性

ツメダニ

シラミ

ミミヒゼンダニ

ツツガムシ

 特発性

図1. 好酸球性プラーク(Eosinophilic Plaque ; EP)

腹部から大腿部内側に、不定形で限界明瞭な紅斑性プラークが様々な大きさで見られる。痒みが強いため一晩でこのようになってしまう。

図2. 猫の蚊咬傷過敏症(Mosquito Bite Hypersensitivity ; MBH)

夏の間、窓を開け放しているため、蚊の侵入が多い室内飼育猫。耳介の丘疹、痂皮、および脱毛が見られる。眼周囲から鼻稜にかけても丘疹がみられた。

図3. 好酸球性肉芽腫(Eosinophilic Glanuloma ; EG)

片側の口唇と顎が腫れているため、歯周疾患を鑑別するため精査した。血液検査と顎の腫脹部細胞診で好酸球増多がみられ、唇と顎のEGと診断した。

図4. 口腔内扁平上皮癌

口唇交連から口腔内に連続したEDと診断して治療するが、糖質コルチコイドおよび抗生物質に反応しないため組織病理検査を行う。口腔内扁平上皮癌と診断される。

図5. 無痛性潰瘍(Indolent Ulcer ; IU)

上唇中心線から左側へ犬歯隣接部までの無痛性潰瘍と、口吻から鼻鏡にいたる紅斑性プラークを認める。舌および硬口蓋のびらんも認める。くしゃみ、鼻水もみられた。インターキャット(猫インターフェロン、東レ株式会社)の連続投与で治癒した。

4. 肥満細胞腫

獣医臨床皮膚科 15 (2): 75-78, 2009

猫の血球貪食性肥満細胞腫の1例

太刀川史郎 たちかわ動物病院(神奈川県秦野市西大竹123-4)

要約:12歳,去勢雄の雑種猫が嘔吐・元気消失で来院した。来院5か月前に良性の皮膚肥満細胞腫と診断されていたが,来院時には全身の皮膚に大小の肥満細胞腫が多発し,肥満細胞血症を伴っていた。超音波画像診断では脾臓・肝臓に著変は認められなかったものの,針生検では多数の腫瘍性肥満細胞を認め,赤血球貪食も頻繁に見られた。以上の所見より内蔵型肥満細胞腫と診断し,ファモチジンおよびプレドニゾロンにより治療を行った。症状は一時的に軽快したが貧血が進行し,末梢血中の腫瘍細胞の赤血球および血小板貪食像が認められるようになり,第26病日に死亡した。

キーワード:血球貪食性肥満細胞腫,内臓型肥満細胞腫,猫

5. 腫瘍随伴性脱毛症

Feline Paraneoplastic Alopecia(FPA)

猫腫瘍随伴性脱毛症;肝癌、胆管癌、膵癌に伴った猫の脱毛症

 この症候群は主に老齢猫にみられ,急速に進行することが多い。膵臓癌,胆管癌に関連して報告されている。腹側の脱毛として始まることが多く,やがて四肢に進行する。皮膚角質層の剥離によると思われるが、皮膚は「glistenキラキラ輝く」と報告されている。この疾患の猫のほとんどが食欲不振と体重減少で来院し,一部の症例では掻痒も見られる。毛は容易に抜け,罹患した猫は扱う時に痛みを伴う事がある。加えて,肉球への波及もよく見られる。罹患した肉球は痛みがあり乾燥し,痂皮を形成し,亀裂が見られるが,紅斑性に湿潤していることもある。FPAは非掻痒性疾患であるが二次性のマラセチア感染を伴うと掻痒が起こることが報告されている。ある研究では7-15例のケースで病理組織学的にマラセチアがFPAに関連して認められたとされる。血液検査では正常値内に収まることが多いが,腹部超音波検査で腫瘍の存在が明らかになることが多い。腫瘍は肝ガン,膵臓癌,胆管癌の報告がある。皮膚病理組織学的検査で重度の毛包や付属期萎縮をともなう非瘢痕性脱毛が見られる。影響を受けた毛包は毛球が萎縮する。特異的所見は少なくひはく化を伴う中等度の表皮角化と過形成,角質層の消失,軽度の斑状錯角化,単核球を主体とした表皮における血管周囲性に炎症性細胞浸潤が見られる。臨床的な鑑別診断は副腎皮質機能亢進症,甲状腺機能亢進症,皮膚糸状菌症,毛包虫症,自己誘発性脱毛症,休止期脱毛,猫対称性脱毛症,境界脱毛である。臨床でみられる特異的所見は診断テストと同様にこれら疾患を除外診断するのに重要である。診断テストにはACTH刺激試験,甲状腺検査,真菌培養,皮膚スクレーピング,トリコグラム,皮膚生検がある。もしFPAが疑われるならば,腹部のレントゲン・超音波検査や肺転移を評価するための胸部レントゲン検査は重要である。試験開腹による組織生検は腫瘍診断を裏付けるために必要である。膵外分泌や胆道系の腫瘍性疾患は猫ではまれである。ほとんどのケースでこの病気は診断されたときに遠隔転移しており,肝,リンパ節,他の腹部組織,肺にみられるため,予後は深刻である。猫14頭のうち12頭が臨床徴候がみられてから8週間以内に死亡,あるいは安楽殺されている。グルココルチコイドで治療された猫では皮膚病変は好転することはない。FPAを管理できることはほとんどなく,ほとんどの猫が診断前に,あるいは病気が進行性であるため診断時に安楽殺されている。充実性膵臓腫瘍の1例で外科摘出後にFPAと診断されたケースが論文として報告された。

Feline Thymoma-Associated Exfoliative Dermatitis

猫胸腺腫関連性剥離性皮膚炎;胸腺腫瘍に伴った猫の皮膚炎

 猫の腫瘍随伴性剥離性皮膚炎が胸腺腫に関連して報告された。多くのケースの中で10数例が臨床的あるいは病理組織学的に認められた。臨床的には皮膚剥離と落屑による皮膚のび漫性紅斑が見られた。興味のあることに,人の胸腺腫に関連した剥離性皮膚炎は報告されていない。獣医領域で報告された猫の剥離性皮膚炎のすべてが胸腺腫を伴っていた。一部の症例では皮膚糸状菌症,膿皮症,マラセチア感染症のような二次的な日和見感染症が併発し剥離性病変を臨床的に助長していた。猫の胸腺関連性剥離性皮膚炎は通常,非掻痒性落屑と軽度の紅斑が頭部,耳介に一見健康そうな猫に当初は見られる。漸次,病変は全身に拡大し,落屑がひどくなり,脱毛が起こる。茶色でべとついた角化脂腺屑が指間,爪の根本,外耳道に蓄積する。痂皮と潰瘍が起こる。掻痒はあったりなかったりだが,猫に多いのはマラセチア感染症である。病理組織学的に,皮膚病変はCD3陽性のリンパ球を主体とし,軽度の肥満細胞と形質細胞が境界皮膚炎のパターンとして特徴づけられる。表皮基底層で角質細胞の水腫性変性が見られる。漏斗部壁細胞にリンパ球が浸潤し,脂腺の消失,あるいは数の減少が報告されている。ほとんどのケースで細胞の数が貧弱であるとされるが皮膚病変に細胞が豊富なタイプもいくつか報告されている。アポトーシスをおこしている角化細胞が表皮と毛包の漏斗部に見られる。これら組織学的変化はヒストリー,身体検査所見に相関し,一般検査,皮膚スクレーピング,トリコグラム,細胞診が陰性であることは臨床家に腫瘍随伴性皮膚症であるとの警告を与えるべきで前縦隔の評価が精査されるべきである。もし胸腺腫関連性剥離性皮膚炎との診断が疑われたならば胸部レントゲン検査を行うべきである。レントゲンでは前縦隔に大小様々なマスを認め,時折肺の浸出液を認め,それは診断を支持する。確認のため経胸腔的なFNAとマスのコア生検が超音波ガイド下で安全に行われる。多くのケースが安楽殺されるので予後は様々である。一方で、胸腺腫の外科切除が行われることもある。早期の検出と,腫瘍の徴候を示している剥離性皮膚炎の徴候は生存期間に影響することを示唆している。腫瘍が非浸潤性で容易に外科摘出できるなら予後は良く,中央生存期間はほぼ2年である。対照的に,浸潤性の腫瘍の場合,術中死がおおく,回復率は12%前後である。不幸なことに,CTのような高度な画像診断の手法を用いても術前に外科的に摘出可能かどうかを断言することは難しい。転移はまれである。

胸腺腫関連性剥離性皮膚炎の機序は不明である。境界皮膚炎とリンパ球浸潤の所見が猫において腫瘍を誘発する免疫介在性の過程であることに関連すると示唆する。異常な胸腺は結果として異常な免疫反応であるといえるが,しかしながら,自己抗体の産生の仮説は表皮抗原の交差反応がまだ良くわかっていないし文書にもなっていない。

6. 猫の伝染性腹膜炎(FIP)

猫の伝染性腹膜炎

FELINE INFECTIOUS PERITONITIS(FIP)

FELINE INTERNALMEDICINE 6TH

猫の伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)感染によって引き起こされる免疫介在性疾患である。

FCoVは野外の猫同士で便を経口的に摂取することで伝染するが、人を含む他の動物には伝染しない。コロナウイルス特異抗体がキャテリー猫の90%以上に見られるが、単頭生活の猫でも50%以上に見られる。そして、多頭生活ではFCoV感染のある猫の5%がFIPを発症する。

FCoVは以下のふたつのタイプに分けられる。

1. Feline enteric coronavirus(FECV)非病原性腸コロナウイルス

2. Feline infectious peritonitis virus(FIPV)猫伝染性腹膜炎ウイルス

これらふたつのウイルスは異なると考えられていたが、FECVが体内で突然変異をおこしFIPVに変異するという説がある(体内突然変異理論)。猫はもともと非病原性のFCoVに感染していて腸細胞でウイルスは複製(増殖)されている。何らかの刺激でFCoVの一定の部位で突然変異がおこり、白血球の一種であるマクロファージ内で複製されるような変異ウイルスとなる。という理論である。大量の複製されたウイルスを持つマクロファージを猫が自己の免疫力で排除できなかった場合、マクロファージは暴走し、腹水(胸水)や肉芽腫を形成しアルサス型の免疫介在反応が開始し、猫を死に至らしめる。

感染した猫の症状は(1)臓器の肉芽腫性病変(目、中枢神経を含む)(2)血管炎による腹水、胸水、心のう水、陰嚢滲出液の貯留)(3)まれに下痢や嘔吐を伴う若い猫で腸に結節形成が見られ、腸肉芽腫病変を形成する。(4)皮膚脆弱症候群、皮膚結節性病変、丘疹性皮膚疾患、肉球の皮膚炎(5)勃起持続症、などが報告されている。

診断

FIPは致死的疾患であるため、信頼できる迅速な診断が極めて重要であるが、FIPを確定診断することは極めて難しい。それでも、液体浸出が発見できればより信頼できる検査を行うことができる。しかし、液体浸出が見られた時には、すでにFIPが発症していると考えられ、治癒することはほぼ不可能である。診断には生活環境、臨床症状、身体検査所見、血清抗体価、血清タンパク質濃度、血清タンパクの電気泳動検査などがある。

血液学および血清生化学検査

特徴的な血液学的検査所見はない。白血球数は上昇したり減少したりする。リンパ球減少は一般的に見られる。ストレスによるリンパ球減少もあるし、ウイルス感染マクロファージから産生される腫瘍壊死因子α(TNFα)濃度の上昇が非感染のT細胞(主にCD8陽性T細胞)をアポトーシスに誘導させることも考えられる。

血清生化学検査所見では、異常な血清総タンパク質濃度の上昇があり、主にガンマグロブリン増加によるグロブリン増加を原因とする。高タンパク血症は、液体浸出を伴う猫で50%、伴わない猫で70%で見られた。FIPの実験感染後にアルファ2グロブリンの増加が早期に見られた。ガンマグロブリンと抗体価の上昇は臨床症状が出現する直前に見られた。インターロイキン6によって刺激されたB細胞がガンマグロブリン増加の原因と考えられ、そのためFIP猫の血清総タンパク質濃度は12 g/dl以上という高濃度に至る。FIP猫の血清アルブミン濃度は減少する。肝不全に伴った産生低下、免疫複合体沈着による二次的な糸球体腎症、腸の肉芽腫性変化が起きた場合の滲出性腸症、血管炎による体腔内の液体貯留、などによって起こる。最適なアルブミン/グロブリン比は0.8である。

血清総タンパク質濃度が高く、FIPが疑われる時は、血清タンパク電気泳動法を行い、モノクローナル高ガンマグロブリン血症かポリクローナルかを識別する。FIPや他の慢性感染症、多発性骨髄腫や形質細胞性腫瘍を鑑別する目的で行うが、評価は難しい。FIP猫ではポリクローナルとモノクローナルのガンマグロブリン血症をどちらも起こし、同様なことは腫瘍でも認められるからである。

臓器ダメージの程度により、肝酵素、ビリルビン、BUN、Creは様々に上昇するが、FIPを診断する根拠とはならない。高ビリルビン血症や黄疸は肝壊死の徴候である。FIP猫では、溶血、肝疾患、胆汁うったいを伴わずにビリルビン濃度が上昇する。この検査所見は敗血症の動物でよく見られるが、胆汁系のビリルビン代謝や排泄が障害されるからである。同様に高レベルのTNFαは膜透過輸送を抑制するためビリルビン代謝や排泄が障害されることが予想される。よって、溶血や肝酵素活性の上昇のない高ビリルビン血症が見られた場合、FIPを疑うことが出来る。

α1-acid glycoprotein(AGP)のような急性反応性パラメーターがFIP猫で上昇していることがある。他の炎症性疾患やFCoV感染している無症状の猫でも高値となると予想される。

貯留液検査

貯留液検査は血液検査よりも高い診断価値がある。FIPを発症した猫の半数に浸出液が見られる。液体は、明るい黄色で粘稠性がある。乳糜液体であることもある。通常、液体のタンパク濃度は高く(>3.5 g/dl)、細胞数は少ない(< 5000有核細胞/ml)。

体腔内に液体が認められた時の主たる鑑別診断は、炎症性肝疾患、リンパ腫、心不全、細菌性腹膜炎である。FIP猫の浸出液は炎症細胞が存在するため乳酸脱水素酵素(LDH)は高値(>300 U/L)を示す。FIP猫の滲出液の細胞学的検査では、主にマクロファージと好中球が見られる。これら細胞学的所見は細菌性漿膜炎や時にリンパ腫に類似する。しかし、悪性細胞の出現や、サンプル内の細菌の存在、あるいは細菌の培養検査によって鑑別が可能である。滲出液の電気泳動法はアルブミン/グロブリン比が0.4以下なら比較的高い陽性の予測値を示し、A/G ratio 0.8なら比較的高い陰性予測値を示す。

リバルタ検査では漏出液;陰性、浸出液;陽性を示し、感度86%、特異度96%であり、一般臨床でも容易な検査である。透明な試薬チューブ(10ml)に蒸留水8mlを満たし、酢酸1滴(高濃度の酢、98%以上)を加えてしっかり混和する。この液体表面に液体1滴を注意深く滴下する。液体が透明であればリバルタ反応は陰性となる。もし、滴がその形を保持し、表面に付着して残ったら、あるいは滴状あるいはクラゲ様の浮遊物がチューブの底にゆっくりと滴下したらリバルタ反応は陽性となる。

脳脊髄液検査

FIP病巣による神経学的徴候をもつ猫の脳脊髄液(CSF)の解析は、タンパクの上昇(50 to 350 mg/dl;正常値25 mg/dl以下)、髄液細胞増加(100- 10000有核細胞/ml)主に好中球、リンパ球、マクロファージを含む。これは、しかしながら、比較的不特異所見である。FIPを原因とする神経学的徴候の多くの猫でCSFは正常である。

抗体測定

血清中の抗体価を測定することは診断ツールのひとつとして広く利用されている。しかしながら、健康な猫は高率にFCoV陽性である。そしてこれらほとんどの猫はFIPを発症することはない。FIP抗体テストというものはない。測定されるすべてがFCoV抗体である。それゆえ、抗体価は極めて注意深く解釈されなければならない。検査所によって値は大きく変わるため、継続して同じ症例を検査する時は同じ検査所で検査しなければならない。

抗体の出現はFIPを示唆するものではないこと、抗体が検出されないからといってFIPを除外することは出来ないことを理解することが重要である。低から中の抗体価の上昇は診断的価値はない。劇症型のFIPはおおよそ10%に認められ、終末期には抗体価は低下し、臨床的に明らかにFIPであっても抗体価は陰性となる。猫の体内の抗体が大量のウィルスと結合し、そして抗体テストで抗原に結合できない状態となるか、あるいはタンパク質が血管炎で浸出し抗体が浸出液中になくなることによる。もし注意深く解釈されるならとても高い抗体価は明らかに診断価値が高い。

抗体価の高さは便に排泄されるウィルスの量に直接に相関すると示唆されている。抗体価の高い猫はより多くFCoVを排泄し、常に高濃度のウィルスを排泄する。それゆえ抗体価の高さはウィルスの複製率と腸内のウィルス量に直接に相関する。

抗体価の測定は、FIPの猫に接触する可能性のある猫、疑われる猫、あるいはウィルス排泄のある猫に行われる。オーナーはFIPに接触した猫の予後や他の猫を新たに飼育したいとき、暴露された猫がFCoVを排泄するかどうかを知りたがる。また猫のブリーダーはFCoVフリーのキャッテリーを作ることを目的に検査を希望する。FCoVの存在を見るためにキャッテリーのスクリーニング、あるいはFCoVフリーのキャッテリーに導入する前の猫をスクリーニングすることは重要である。

液体(浸出液、CSF)の抗体価の測定は血液よりも調査されている。液体中の抗体価の存在は血液中に抗体が存在することと相関する。それゆえ、液体中の抗体価は診断の大きな助けになるわけではない。猫の最近の研究では中等度の抗体価は猫がFIPかどうかに関係ない。ある研究でCSF中の抗体の測定における診断的価値について詳しくしらべており、組織学的検査と比較したとき、FIPの存在にとてもよく相関がみられた。しかしながら、最近の大規模な獣医教育病院で診察された猫の調査でFIPによる神経学的徴候を示した猫と病理組織学的検査で確認された他の神経学的疾患の猫に比較して、CSF の抗体価に違いが認められなかった。

FCoVのRT-PCR(Reverse-Transcriptase Polymerase Chain Reaction)

FIP原因ウィルスと無害の腸FCoVとの間を識別するPCRプライマーは作成することができない。そしてPCRでは突然変異したウイルスと変異していないウイルスを識別することもできない。加えて、PCRの結果を解釈することは容易ではない。PCRは偽陰性の結果をもたらすからである。

ウイルス血症はFIPの猫だけでなく健康なキャリア猫にもみられる。FIPが流行している屋内飼育の猫は健康状態にかかわりなくウイルス血症になる。そしてウイルス血症を起こしたからといってFIPを発症しやすくなるということではない。

血液をRT-PVRでメッセンジャーRNA(mRNA)を測定するアプローチがある。mRNAレベルはFCoVの複製レベルに相関し、それゆえFIPの存在と相関するという論拠となる。しかしながらこのテストの有効性は現時点では不確かである。なぜなら、5-50%の健康な猫でもこのテストで陽性となるからである。さらなる問題点は現時点でこのテストはヨーロッパおよび米国では利用できない。

それゆえPCR検査の結果は一般的に注意深く解釈されなければならない。PCRはFIPを確定診断する診断ツールとして使用できない。FIPの猫の血清中ウイルス負荷と無害なFCoV感染でウイルス血症になった猫では違いがある。しかし、詳細な検討で仮説を支持する必要がある。浸出液やCSFのPCRは診断ツールとして議論されている。しかしながら、これらアプローチに使用可能なデータはいまだ有効ではない。

PCRは便サンプル中のFCoVを探査することができる。PCRで、猫が便にFCoVを排泄している証拠として利用できる。便中のPCRシグナルの長さは腸内に存在するウイルス量と相関する。これらの結果は慢性的に高濃度にウイルス負荷を排泄している猫を調べることに利用できる。

抗原抗体複合体の検出

FIPは免疫介在性疾患であり抗原抗体複合体は発症機序に重要な役割を果たす。血清や浸出液中の循環している免疫複合体を探すことが診断に役立つと考えられた。コロナウイルスに特異的な抗原抗体複合体の検索は優位性のあるELISAを使うことで行うことが出来る。実用性はしかしながら限られている。 FIPとコントロール猫を多数評価したひとつの研究で、このテストの陽性予測価値はあまり高くない(67%)。

マクロファージ内のFCoV抗原の免疫染色

ウイルスの検出法には免疫蛍光法(浸出液のマクロファージ)や免疫組織化学法(組織マクロファージ)を利用してマクロファージ内に存在するウイルスを検出する方法が挙げられる。免疫染色は「無害なFCoV」と「FIPを引き起こすFCoV」とを区別できない。が、FIPを引き起こすウイルスだけがマクロファージ内で多量のウイルスを複製することができ、結果として陽性染色を示す。浸出液マクロファージの細胞内FCoV抗原に対する免疫蛍光染色陽性率はFIPの感度として100%であった。このテストの陰性的中率は高くはない(57%)。それは浸出液塗抹のマクロファージの量が少ない(FIPの猫でさえ)ことが主な理由とされ、結果として陰性染色となる。

免疫組織化学法は組織におけるFCoV抗原の発現を検出するために使用し、もし陽性ならFIP予測率は100%となる。しかしながら、侵襲的な方法(開腹あるいは腹腔鏡)が適切な組織サンプルを採取するために必要となる。剖検で得られた腎臓や肝臓の組織のTrue-cut biopsy(TCB)とFine-needle aspiration(FNA)で診断感度を比較したときFNAの感度はTCBに近い。腎臓に比較して肝臓で高い感度が認められた。超音波ガイドFNAでFIPを診断する有効性は継続して研究される必要がある。

FIPの確定診断を得るために考えられる最良な方法は、現在はふたつの戦略がある。最初の診断プロセスは常に浸出液を探すことである。もし浸出液が存在すれば、浸出液のマクロファージのFCoV抗原の免疫蛍光染色がFIPを診断することができる。もし浸出液が存在しない場合、何らかの異常を認めた臓器の組織サンプルが確定診断するために採取される。組織学的検査は組織マクロファージのFCoV抗原の免疫組織化学染色が選択される。

治療

猫FIPに対する推奨される治療法はない。FIP猫のほとんどは治療の甲斐なく死んでいるのが現状である。FIPと診断後に数ヶ月以上治療して生存している猫の報告も時折散見し、それらの猫は比較的良好な生活の質を維持している。この長期生存が実際のところ治療によるものかどうかは不明であり、本当にFIPであったかどうか確定診断は得られていない。

予後

FIP猫の予後はほとんどよくない。FIPと確定した43猫の研究で、確定診断後の中央生存日数は9日である。一部の猫は数ヶ月生存している。確定診断後200日生存した一頭の猫が報告された。悪い予後と短かい生存期間を呈する要因は低いKarnofsky’s score(index of quality of life)であり、血小板減少症、リンパ球減少症、高ビリルビン血症、そして多量の浸出液である。痙攣(けいれん)もまた好ましくない予後徴候であると考えられる。猫によるが、前脳の炎症性病巣がしばしば重度に拡大する。最初の治療後3日以内に改善がみられない猫は治療で回復する見込みはない。そして残念ながら安楽死が考慮される。

対症療法

FIPは炎症と不適切な免疫反応を原因とするので、支持療法はこの免疫過剰状態を抑制することが考えられるので、ふつうはコルチコステロイドを使用する。しかしながらコルチコステロイドによる効果がFIPに有効かどうかの比較研究はない。時折、コルチコステロイドで治療された患者が数ヶ月以上良好にみえたことがあるという報告をみるが、本当に効果があったのか疑問が残る。プレドニゾロン(2-4 mg/kg PO sid)やサイクロフォスファマイド(2-4 mg/kg PO eod)のような免疫抑制剤が紹介されている。滲出液のみられた一部の猫では液体を抜くことや腹腔内や胸腔内にデキサメタゾン(1 mg/kg sid 液体がそれ以上見られなくなるまで)を注射する方法も紹介されている。

FIP猫はまた広域スペクトラム抗生物質で治療されるべきで、加えて点滴などの支持療法が必要である。血小板活性抑制剤のトロンボキサンシンセターゼ抑制薬(ozagrel hydrochloride)がFIP猫に使われ、改善が見られたという報告が1例あるが検証した報告はない。

免疫調整

一部の獣医師はFIPの猫の治療のために免疫調整剤(e. g., Propionibacterium acnes, acemannan)を使用するが効果の評価に対してコントロールをおいて公表されたものはない。これら薬剤は免疫機能の障害を復元することによって感染した動物に利益をもたらすものと示唆されている。それゆえ患者にウイルス負荷をコントロールさせ、臨床症状から回復させる。しかしながら、免疫介在性の反応の結果、臨床症状が発現し進行することも考えられるため、免疫システムへの非特異な刺激は実際のところ禁忌であると思われる。

タイロシンについての古い報告がある。タイロシンは抗生物質のマクロライド系に属するが、他のマクロライド同様、免疫調整効果を持つ。タイロシンの容量は22 mg/kg/dayで、一時的な回復が10頭の猫で成し遂げられた。しかしながら、これらのケースでもFIPと確定診断されていない。FIPであると疑われた3頭の猫でタイロシン(始め88 mg/kg BID)とプレドニゾロン(始め4 mg/kg/day PO)と点滴とビタミンの支持療法で治療された。1頭の猫が42日後に死亡し、他はそれぞれ180日と210日でまだ生存しており元気であった。FIPの診断はしかしながらこれらの猫では確定されなかった。FIPであると疑われた一頭の猫はタイロシン経口(50 mg/cat TID P0)、同様にプレドニゾロン(10 mg/cat)とそれぞれ腹腔穿刺後にタイロシン(腹腔内200 mg/cat)で治療された。この猫は2か月で回復したが、他の猫も類似のやり方で治療したが効果なく死亡した。

FIPが疑われ治療に対して良好に反応した52頭の猫に免疫調整剤が使用された。臨床症状(食欲不振、発熱、浸出液)が急速に回復したことが認められた。しかしながら、これら猫でFIPと確定診断されなかった。そしてこの研究ではコントロールグループはなく、長期間にわたって追跡評価したものはない。

FIPであると疑われた29頭の猫の研究で、6週間以上にわたって5つのグループに分けて治療された。Ampicillin(100 mg/kg/day), predonisolone(4 mg/kg/day), cyclophosphamide(4 mg/kg/day), dexamethasone(2 mg/kg at day 1 and day 5)and Ampicillin(20 mg/kg TID for 10 days), Human interferon-α(6*10*5 IU/cat 5 days a week for 3 weeks), paraimmunity inducer(0.5 ml/cat/week/for 6 weeks), nothing。3年以内の猫の死亡率は29-80%(グループによって違う)。しかし、これら猫でFIPは確定診断されていない。基準が不明なものもある。

抗ウイルス化学療法

現在、FIPの猫に対する抗アンチウイルスの治療効果のための研究は、 多くの研究がなされたにもかかわらず 成功していない。しかしながら、これら研究の客観的評価はコントロールをおいた臨床トライアルの欠如によって阻まれている。臨床トライアルとは新しい治療が標準治療や偽薬に比較されることである。ほとんどの研究で、治療開始以前にFIPかどうかさえ確定されていないので、予後の評価をすることがとても難しい。最近、FIPを治療しないことがFIPを治癒させる効果があると証明された。

FIPを引き起こすウイルスを実験的感染させたSPF猫に対して抗ウイルス薬リバビリン(16.5 mg/kg SID for 10 to 14days PO, IM, or IV)が18時間投与された。リバビリンはヌクレオシドアナログであり、 ウイルスのmRNAのキャッピングを干渉することによっておそらくウイルスタンパクの形成を防ぐ。リバビリンで治療した猫と治療していない猫の全頭がFIPを発症した。病気の臨床症状はリバビリン投与猫でより重度で、それらの生存期間は短縮した。リバビリンは生体内でFCoVに対して攻撃的だが、副作用が重篤であったためFIPの猫の治療効果はなかった。組み合わせによってリバビリン毒性の減少させる試みがレチシン含有リポゾームと低容量点滴投与(5 mg/kg)がFIPを原因とするウイルスをもつ猫の治療に挑戦されたが失敗した。

FeLV陽性の3歳の雄猫がFIPを発症していると疑われ、メルファランで治療された。メルファランはナイトロジェンマスタードのアルキル化剤でDNAを不可逆的に相互作用する。猫はメルファラン(始め1 mg/kg q72hr for 9 months)の治療を受けプレド二ゾン(10 mg/kg bid 3週間継続後に5 mg/kg q48hr に減薬して6週間)、Ampicillin(10 mg/kg q8h for 10days)、ストレプトキナーゼ(10*4 IU/cat 腹腔穿刺後に腹腔内投与 q12hr for 4days)。加えて、ビタミンとミネラル剤が投与された。猫は治療に9か月間良く反応した。その後、骨髄増殖性疾患を発症し死亡した。このケースでは組織病理学的検査でFIPの証拠が得られず、FIPの診断は確定されなかった。

インターフェロンがFIP猫にしばしば投与される。人インターフェロンαは ウイルス複製を阻止されたインターフェロン含有細胞を全体的な抗ウイルス状態に誘導することによって 直接抗ウイルス効果を持つ。実験的に、人インターフェロンαの抗ウイルス効果がFIP原因となるFCoV株に対してなされた。FIPに実験的に誘導された74頭(52治療、22コントロール)のSPF猫に対してコントロール治療の研究で猫は人インターフェロンアルファ、猫インターフェロンβ、Propionibacterium acnes(免疫調整剤)、組み合わせ、偽薬を投与された。インターフェロンアルファ(10*4 or 10*6 IU/kg)、猫インターフェロンβ(10*3 IU/kg)、Propionibacterium acnes(0.4 mg/cat or 4 mg/cat)の、これらで治療された猫では不治療猫に比べて死亡率が著しく減少した。1頭の猫でインターフェロンα(10*6 IU/kg)とPropionicacterium acnesの複合治療がなされ生存期間が著しく延長した(約3週間)。これはいくつかの公表された研究のひとつで、FIPが確定され(人為的感染、あるいは研究の最後に病理組織学的検索がなされた)、コントロールグループが存在する。

最近、猫インターフェロンωがヨーロッパの国と日本の獣医学領域で使用が認可された。インターフェロンは種特異性があり、猫は抗体産生されることなく最後まで長い時間非経口的に治療される。FCoVの複製が猫インターフェロンωによって実験室で抑制された。期待できる治療がひとつのコントロールされていないトライアルで得られたが、FIPはこれらのケースで確定されていない。最近、ランダム化プラセーボコントロール・ダブルブラインド治療トライアルがなされた。37頭のFIP猫がインターフェロンωとプラセーボで治療された。全ての猫で、浸出液や組織マクロファージのFCoV抗原に対する免疫蛍光染色や免疫組織化学染色でFIPであることが確証された。全ての猫がコルチコステロイドだけでなく、浸出液を持つケースではデキサメタゾン(1 mg/kg 腹腔内あるいは胸腔内投与 q24h)やプレドニゾロン(2 mg/kg PO q24h)治療を受けた。加えて、一部の猫はインターフェロンω(10*6 IU/kg SQ q24h for 8 days and subsequently once every week)やプラセーボを受けた。インターフェロンωとプラセーボで治療を受けた猫の中央生存期間に統計的には明らかな違いは見られなかった。猫は3日から200日の期間生存した。

新情報(2024.3.16):人のコロナウイルス感染症で多くのコロナウイルス薬が開発されたが,その薬剤のひとつに猫FIPに対する効果が認められた.ウェットタイプにもドライタイプにも効果があるが重篤になってからウイルスだけ排除しても病状を回復させることは難しくなるので,早く診断をすることが大事である.FIPかもしれないと安易に判断して投薬しても治療効果が上がらないだけでなく,唯一の治療薬に対するウイルスの耐性も報告され始めているので極めて慎重な投薬が望まれる.

感染のコントロール

FIP猫に接触した猫に対する管理

FIPと診断された猫を他の猫のいる室内に連れ戻すことは危険があるのかどうかという質問を獣医師はしばしば受けるだろう。FIP猫に接触したすべての猫はすでに同様のFCoVに暴露されるだろう。FIPを原因とするウイルスが排泄され、結果としてFIPが猫の間で伝染するかどうか議論されている。これは一般的に自然環境のケースではないと考えられる。FIP猫の分泌物や排泄物中の無害なウイルスを探査するための研究(体内変異説を前提に)は失敗している。FIPを発症した後、FIPを発症した以前よりも無害なFCoVの排泄は少ない。しかしながら、実験状況下では、FIPの猫から接触した猫にFIPを原因とするウイルスを感染させることは可能である。最近、野外FCoV株のゲノムRNA配列がFIPと確定診断された猫の十二指腸や肝臓から剖検で分離され、腸(十二指腸)生成と非腸(肝)生成ウイルスRNA配列の比較が100%ヌクレオチド特徴が公表された。結果は体内変異説へのチャレンジである。最新の理解の基礎は、FIP猫をすでにFCoV株に接触した猫のいる室内に戻すには比較的安全であり、これら猫は特定の株に明らかな免疫をもっているということがいえる、という アドバイスが適していると思われる。しかしながら、無接触の猫にFIP猫を接触を許可することは推奨できない。

もし猫がFIPを原因に安楽死されたり死亡して、猫が残っていなければ、オーナーは他の猫を飼う前に3か月待つべきである。なぜならFCoVは少なくとも7週間は環境中に感染能力を持続するからである。もし室内に他の猫がいるならば、FCoVに感染していることは間違いなく、FCoVも排泄している。自然な環境では、猫は排便して便を埋めるために外に行く。その場合、ウイルスは数時間から数日間の感染能力を持つ(凍結状態では少し延長する)。しかしながら、ペット猫は小さな猫トイレに案内され、トイレにはFCoVが数日間生存している。おそらく乾燥した便には7週間以上可能である。それゆえFCoVを排泄している猫と接触した猫は、もし外出が許可されるならウイスルを排泄するよりよい機会を持つことは間違いない。最適な状況はフェンスに囲まれた庭である。

猫は獣医師からFCoVをプレゼントされることが多い。なぜならFIPを持つ猫、あるいは疑わしい猫、ウイルスを排泄している猫に常に接触しているからである。飼い主は暴露された猫の予後に興味を持つ。他の猫を飼いたいと思うだろうし、暴露された猫がFCoVを排泄するかどうかを知りたがる。FCoVに暴露された猫の95-100%猫は抗体陽性である。暴露後2-3週間で抗体が産生され感染が成立する。しかしながら、とても少ない猫が、FCoV感染に抵抗する。FCoVが流行している多頭飼育猫の中の一部の猫が抗体陰性を継続することが示された。この抵抗のための行動のメカニズムはいまだによく分かっていない。

FIP猫に接触した猫はほとんどが抗体を持つ。これは必ずしも不幸な予後とは関連ないことに安心すべきであう。FCoVに感染したほとんどの猫はFIPを発症しない。そして単頭飼育や2頭飼育の室内猫の多くはいつかは感染がなくなるだろうし、数ヶ月から数年で抗体陰性となる(普通6か月)。理想的には、飼い主はすべての猫の抗体価が陰性になるまで、便のPCRが陰性になるまで、新たの猫を飼育することを待つべきである。(2週間の期間で得られた4回の便のPCRが陰性であれば、猫はFCoVを抱えていることはとてもありそうもない)。もし抗体テストがされたら、猫は抗体が陰性になるまで6-12か月毎に再テスト(同じ検査所)されるべき。一部の猫がしかしながら、数年にわたって抗体陽性を維持する。

FIP猫と一緒に室内生活する多頭飼育猫の管理

ほとんどの多頭飼育の室内猫には、FCoVが流行しており、それゆえ FIPはほとんど必然的に発生する。理想的には室内多頭猫はFCoVがフリーであるべきである。これはしかしながら現実的ではない。5頭より少ない室内猫は自然にFCoVがフリーになるかもしれない。しかし10頭以上の室内猫ではこれはほとんど不可能である。なぜならウイルスが一頭の猫から多の猫に感染し、感染が維持されるからである。これは事実上のすべての ブリーディングキャッテリー、シェルター、里親、多の多頭猫家庭などのような 多頭猫環境における現実である。これらFCoVが流行している環境では、実質的には、FIPを予防することはできない。ワクチンは、FCoVが流行している環境やFIPの症例がいることがわかっている室内では効果ない。

様々な戦略がFCoVが流行しているキャッテリーから取り除かれようとされてきた。猫の数を減らす(特に12か月以下の子猫)。表面洗浄がFCoV総負荷量を最小にする。血清抗体や便PCRテストや隔離が汚染を止めるために実行されるべきである。約1/3の抗体陽性猫がウイルスを排泄する。それゆえ全ての抗体陽性猫は感染を考慮されなければならない。3-6か月後に、抗体価は猫が血清反応陰性になるかどうか決定するために再検査される。もうひとつの方法として、(個々の)便サンプルのPCRテストは慢性FCoVキャリアを探して排除されるために実行される。大きな多頭猫環境は、猫40-60%で便に一回にウイルスを排泄する。約20%がしつこくウイルスを排泄する。一方で、20%は免疫の状態になっておりウイルスを排泄しない。もし猫が6週間以上しつこくPCR陽性が続くならその家から単猫の環境にするために移動させる。

FCoVを排泄している母親の子猫は 子猫が5-6週間になるまで母親が産生する抗体によって 感染から守られる。子猫のFCoV感染の予防のための早期離乳プロトコールが提案された。それは出産2週間前の母親の孤立、 母親と子猫の厳しい隔離、 5週齢の早期離乳から成る。母親から子猫の早期離脱と他猫からの感染の予防は子猫が感染フリーになる率が上昇し成功といえる。最も効果的なのは早期離乳であり、子猫は5週齢で新しい家(猫のいない)に貰われるべきである。考え方は複雑ではないが、母親の孤立と早期離乳は単純ではない。この方法では隔離部屋が必要となる。そして新しいウイルスが絶対に入らないように徹底する。加えて、これら猫の社会化のために2-7週齢の期間の間、特別なケアがなされるべきである。早期離乳と孤立によって成功するかどうかは、隔離の効果と室内の少数(5以下)の猫による。もし両方が可能でないなら、早期離乳をすることは疑問の余地がある。また、時間とお金が早期離乳には伴う。母親を維持するためのスペースと隔離下の同腹子が大きな室内多頭猫では問題となる。スイスの大きなキャッテリーの研究で上記の早期離乳を継続したが、失敗した。2週齢の子猫のウイルス感染が証明されてしまったのである。

次の他のアプローチは、ブリーディングキャッテリーの猫の遺伝的傾向がFIPに対する最大の抵抗となるはずだが、完全には理解されていない。FIPの子猫の同腹子の全ての兄弟は 同じような環境の他の猫より 病気を発症する高い可能性がある。もし一頭の猫が二頭あるいはそれ以上のFIPを発症する子猫のいる同腹子を持ったら、猫は再び交配するべきではない。 系統繁殖はしばしば価値のある雄猫を広く使用する。そのような雄猫の血統に対して特定の注意を払わなければならない。

シェルターにおいて、猫が厳密に個別に分けられたケージに維持されるか無菌の取り扱い装置(隔離棟に匹敵する)を通してのみ取り扱うかしない限り、 FIPの予防は実質不可能である。隔離はしばしば効果ない。なぜならFCoVは服、靴、ほこり、そして猫を介して容易に伝染するからである。取り扱い処置の異なったタイプのシェルターの比較で  ケージの外での取り扱う頻度の増加と抗体陽性猫の割合の増加の間の 重要な相互関係を明らかにした研究がある。野良猫の研究で、捕獲時に検査し、シェルターに連れて行かれた(多数の猫が一緒にされた)。最初は、猫の少数だけが入室の時に抗体を持つ。しかしながら 実際シェルター内の全ての猫がFCoVに感染するまで血清陽性猫の割合は急速に増加する。シェルターの社員は次のことを理解するべきである。 FCoV感染は多頭猫環境では避けられない。そしてFIPはFCoVによる風土病的な帰結を避けられない。シェルター内を奇麗にすることは大事である。少なくともウイルス拡散を最小化する。そのような環境中のウイルス負荷を減らすこと、猫の数を減らしてストレスレベルを減少することが感染予防のポイントである。

(2012. 4.20)

7. 糖尿病性エマージェンシー

Diabetic Emergencies

糖尿病性エマージェンシー

FELINE INTERNALMEDICINE 6TH

合併症のない糖尿病は多尿,多飲,多食,体重減少を特徴とし,臨床的に安定した猫に高血糖と尿糖が持続していることが確認され診断される。合併症のない糖尿病の猫は外来で治療が可能である。この章では集中的な治療行為が必要な3つの糖尿病エマージェンシーについて論じる。糖尿病ケトアシドーシス(DKA),高血糖性高浸透圧(HHS),インスリン誘発性低血糖。3つの全ての状態で集中治療処置が必要で,適切な治療を受けたとしても致命的結末に至る可能性がある。一方,DKAとHHSは糖尿病状態の自然発生的な合併症で複雑な病態生理をもつ。インスリン誘発性低血糖は医原性の糖尿病性合併症で、病態生理は単純である。

 

DKAとHHSのふたつが糖尿病に起こる合併症として古くからその危険性が述べられている。 DKAはケトーシスとアシドーシスを特徴とし,HHSは重度の高血糖と脱水を特徴とする。人に発生するDKAは若齢患者のタイプ1糖尿病で24時間にわたって突然に発症すると考えられている。一方HHS症候群は老齢患者のタイプ2糖尿病で数日から数週間にわたって発症すると考えられている。しかしながら最近明らかになったことではDKAの人患者の40%で高浸透圧状態を有し,多くの人がDKAとHHSを混合した糖尿病の合併症を引き起こす。

 猫においてはDKAやHHSに関連した報告は本当に少ないのだが,糖尿病猫ではDKAがHHSよりも一般的に発生する。なのでここではまずはじめに論ずる。

Definition and Pathophysiology of Diabetic Ketoacidosis

DKAは重度の糖尿病の代謝性合併症でアシドーシス(静脈血 pH < 7.35),ケトン尿あるいはケトーシスを特徴とする臨床的代償不全として定義される。糖尿病状態では、糖は細胞内に十分な量が入ることができず,代謝要求に応えるために脂肪酸からケトンが合成され細胞のエネルギーの代替の形となる。ケトン体は脂肪酸がミトコンドリアでβ酸化されて産生されたAcetyl-CoAから合成される。このアデノシン三リン酸依存の異化が脂肪酸がふたつの炭素片に同時に破壊することに関連し,結果としてacetyl- CoAの形になる。

 Acetyl-CoAの合成はインスリン減少とグルカゴン濃度の上昇によって促進される。インスリンは蛋白同化促進ホルモンで,その正常な同化効果は糖がグリコーゲンに変換され,蛋白としてアミノ酸の保存,脂肪組織に脂肪酸の保存を含む。他方でグルカゴンの異化効果はグリコゲノーシス(グリコーゲン分解),プロテオライシス(蛋白質分解),リポライシス(脂肪分解)を含む。それゆえ,低インスリンとグルカゴン濃度の上昇は,脂肪組織の脂肪酸の動きを減少させる原因となり,脂肪分解の増加は,結果としてacetyl-CoA濃度を上昇させる。

 非糖尿病のときacetyl-CoAとピルビン酸はATPを産生するためにクエン酸回路に入る。しかしながら,糖尿病では糖は十分な量が細胞内に入らず,解糖系によるピルビン酸産生が減少する。クエン酸回路活性はそれゆえ減退し,結果としてacetyl-CoAの利用が減少する。脂肪分解増加の正味の効果とクエン酸回路内のacetyl-_CoA利用の減少とならんでacetyl-CoA産生はacetyl-CoAの濃度の増加となる。

 3つのケトン体はβヒドロキシ酪酸塩,アセトアセテート,アセトンを含むacetyl-CoAから合成される。acetyl-CoAはふたつの代謝経路を経てアセトアセテートに変換される。ついで,アセトアセテートはβヒロドキシ酪酸とアセトンに代謝される。アセトアセテート合成の経路のひとつは、ふたつのacetyl-CoAユニットとの濃縮を必要とし,acetyl-CoAの3つのユニットを利用する。ケトン体は肝臓で合成される。

 acetoacetate(アセトアセテート)とbeta-hydroxybutyrate(β-ヒドロキシ酪酸塩)は中等度強酸の陰イオンである。 それゆえ,それらの蓄積がケトアシドーシスを引き起こす。代謝性アシドーシスと結果として起こる電解質異常はDKAの動物の転帰に重大な決定因子となる。

 DKAの病因に関して信じられていることのひとつは,DKAを発症した患者には内因性インスリンがないか,検出できないということであった。一方で自然発生DKAの猫の内因性インスリン濃度の報告はない。ある研究で,DKAの犬の7頭中,5頭で内因性血清インスリン濃度が検出できた。そして3頭の犬のウチ2頭が内因性血清インスリン濃度が正常範囲内であった。類似した最近の研究で,5週から24か月間糖尿病寛解状態にあってDKAを伴った7頭の猫の記述がある。寛解に至る能力はDKAを発症した猫数頭が内因性インスリン分泌能力を有していることを示唆している。様々な時間間隔の外因性インスリン治療に依存しないようになったとしても。それゆえ内因性インスリン濃度がゼロか検出できないということが猫にDKAが発症する病因の重大な要因のひとつであるというのは疑わしい。

 DKAの病因の重大な異なった要素は血清グルカゴン濃度の上昇の存在であり,それは合併症として二次的に起こる。一方で自然発生DKAの猫の血清グルカゴン濃度は報告されていない。糖尿病犬における血清グルカゴン濃度に関する最近の報告では,グルカゴン濃度の上昇がケトン濃度が上昇するのにはっきりと関連していた。

Definition and Pathophysiology of The Hyperosomolar Hyperglycemic State

高浸透圧性高血糖症の定義と病態生理

高浸透圧性高血糖症HHSは激しい高血糖(> 600 mg/dl)によって特徴づけられる重度の糖尿病性代謝性合併症と臨床的な代償不全として定義される。高浸透圧症候群(猫で有効血清オスモル濃度 > 320mOsm/kg,人で > 330mOsm/kg)と,脱水。高浸透圧性高血糖症HHSはまたケトアシドーシスを伴わないことが定義される。

 オスモル濃度は水のキログラムあたり浸透活性粒子の量として定義づけられる。血漿オスモル濃度はナトリウム,糖,血液尿素窒素濃度によって評価される。しかしながら尿素は自由に細胞膜を拡散し血漿オスモル濃度に有効な貢献はしない。それ故有効なオスモル濃度はナトリウムと糖濃度のみを基本に計算される。計算は個々の公式を使用し,次のような公式もある。

   Effective Posm = 2(plasm[Na+]) + [glucose]/18

高浸透圧性高血糖症は完全には理解されていない。しかしながらDKAと類似していると知られている。グルカゴン濃度の上昇が重大な役割を担う。DKAに類似しているのはインスリン濃度がHHSではゼロではない。なぜある糖尿病患者がDKAを発症するのか,他の患者がHHSを発症するのか分かっていない。タイプ2糖尿病の老齢な糖尿病ではゆっくりとHHSを発症するという考えは反論される。なぜならばHHSは小児患者で報告され、人でみられるように,重度で危険な糖尿病猫はDKAとHHSの古典的特徴の混合を現すことが説明された。

Risk Factor for DKA or HHS

DKAの猫の中央年齢は9歳(2-16歳)であるのに対してHHSの猫の中央年齢は12.6±3.2歳である。特別な品種や性でDKAやHHSのリスクが増大することは報告されていない。

 合併症はDKAやHHSの猫ではよく見られる。血清グルカゴン濃度の上昇が結果として合併症を起こすことも可能性としてある。それが原因でDKAやHHSのリスクが上昇する。合併症はDKAの猫の90%で報告されている。DKAの猫で最も一般的におこる合併症は肝リピドーシス,慢性腎疾患,急性膵炎,細菌性ウィルス性感染症,腫瘍である。ある研究でHHSの猫をDKAと合併症のない糖尿病とで比較した。そしてHHSの猫の90%が合併症を持ち、合併症の区分は病気の状態で様々であった。特に,HHSの猫ではDKAあるいは合併症のない糖尿病の猫と比較して慢性腎疾患,うっ血性心不全が有意に多い。そして合併症のない糖尿病(DKAではない)の猫と比較して腫瘍や感染症を持つ。HHSの猫のグループで注意の必要な感染症は上部気道疾患,尿路感染症外耳炎,壊死性つま先炎,重度の膿性歯科病変,消化管寄生虫である。急性膵炎はHHSや合併症のない猫に比較してDKAでより一般的。そしてHHSと合併症のない猫の間に急性膵炎の有意な発生率はない。コルチコステロイド投与の回数は3つの猫のグループで有意差はない。

 DKAのほとんどの猫は新規に糖尿病と診断されている。しかしながらHHSの猫の70%はインスリンで以前に治療を受けている。以前の糖尿病の継続期間とHHSあるいはDKAと診断される期間に有意差はない。

 人における最も一般的なDKAやHHSを発症するリスク要因は、不十分で不適切なインスリン治療と感染症である。DKAの犬の65%近くで新規に糖尿病と診断されインスリン治療を以前に受けておらず,そして20%が尿路感染症を有す。

Clinical Sighs and Physical Examination Findings in Cats with DKA or HHS

DKAとHHSの猫の臨床徴候と身体検査所見

臨床徴候と身体検査所見は慢性の未治療の糖尿病,合併症の存在,急性のDKAやHHSに起因すると考えられる。DKAやHHSの最も一般的な臨床徴候は,多尿多飲,沈うつ,食欲減退や拒食,嘔吐や体重減少である。加えてHHSで報告されている臨床徴候は運動失調,元気低下,呼吸の問題,不適切な排泄,神経徴候(旋回,歩調あわせ,無反応)である。

 猫DKAの身体検査で報告されている一般的な異常所見は,主観的な体重低下,脱水,黄疸,肝腫大である。猫HHSの身体検査で報告されている一般的な異常所見は主観的な体重減少,脱水(80%の猫で見られる。HHSの猫の50%で重度と見られる)歯科疾患(HHSの猫の60%),命にかかわる重篤な呼吸器疾患,糖尿病の合併症のない猫と比較して低体温、などである。

DKAやHHSの臨床病理

貧血や左方移動を伴った好中球増多症が猫DKAに一般的な所見である。DKAの猫は健康な猫に比べて赤血球に重度のハインツ小体形成がある。ハインツ小体形成の程度は血漿β-hydroxybutyrate濃度と相関している。一方,貧血は猫HHSでは一般的ではない。17例の猫の3例に見られたのみである。HHSの17頭猫の4例はハインツ小体を形成し,好中球増多症がHHSの猫の50%で見られた。

 インスリンで治療されるまで,DKAやHHSと診断された全ての猫で持続性高血糖が見られた。HHSをほのめかす定義として,HHSの猫は血糖値が600 mg/dl以上となる。 合併症のないDKAやHHSの糖尿病で血糖濃度が600 mg/dlかそれ以上の血糖濃度を持つ猫の可能性がある。ALTとCholの上昇がDKAの猫の80%で報告されている。しかしHHSのねこでは普通上昇しない。比べると,ASTは11頭のHHSの猫で11頭上昇した。高窒素血症がDKAの猫の約50%,HHSの猫の90%で報告された。ALPはDKAとHHSのほとんどの猫で正常であった。しかし,DKAの犬のほとんどでは上昇する。

 DKAとHHSの猫の電解質異常の病態生理はふたつの合併症で異なる。DKAでは,体全部のリンの枯渇が見られる。しかし診察時に明らかでない。DKAの猫ではしばしば体内のリンが減少している。食欲低下や拒食,嘔吐や浸透圧性利尿に伴う消失の増加の結果である。低カリウム血症がケトアシドーシスでリンが拘束されることで悪化する。他方で,血清リン濃度が増加するのは,過剰な水素イオンが細胞外液から細胞内へ移動することによる。プラスに帯電した水素イオンが細胞内へ移動することにより電解質に変化が生じ,それを補正するためにプラスに帯電したリンイオンは細胞外へシフトする 。 高血糖と低インスリンはまたリンが細胞外へシフトする一因となる。DKAの猫は 腎排泄の低下,脱水,インスリン機能低下により、初期に高カリウム血症を現す。しかしながら再水和によって,リンイオンは細胞外液から失われ,低カリウム血症が急速に現れる。インスリン治療は低カリウム血症を悪化する。なぜならインスリンはカリウムを細胞内へ移動させる。DKAにおける低カリウム血症の最も大事な臨床徴候は筋肉の衰弱が見られることである。それはクビの腹部屈曲となり,極端なケースでは呼吸麻痺に陥る。

 HHSでは,アシドーシスが最も重大な電解質の異常ではない。HHSにおける低カリウム血症の病態生理の最も重大な要因は重度の浸透圧性利尿である。しかしながら他の要因にも注意が必要である。拒食,嘔吐,ケトアシドーシスにリンの拘束,インスリン治療がHHSにおいて低カリウム血症をおこす一因となる。

 DKAとHHSの猫の血清リン濃度の比較の研究で,36頭のDKAの猫で HHSの16頭の猫と比較して(4.2+- 0.9 mmol/L) 極度の低リン濃度(3.1+-0.7 mmol/L)が見られた。対比して人では,HHSにおける総体内リンの枯渇はDKAよりもより一般的である。しかしながらHHSの重度の脱水の患者では,DKAの患者よりも初期検査の時に総体内リンの枯渇がマスクされる。DKAの127頭の犬で,初期検査で患者のたった45%が低カリウム血症であった。しかし,低カリウム血症になった84%の犬が入院した。DKAとHHSの再水和した猫のリン濃度を比較した先取り研究は,患者の体の中でリンが枯渇していることを理解していることを証明するために必要とされた。

 DKAで,リンが細胞内から細胞外スペースへシフトすることで低リンが起こる。これは高血糖、アシドーシス、低インスリン血症の結果もたらされる。インスリン治療を伴う浸透圧利尿や補液は細胞外リンの枯渇の原因となり、全身のリンの枯渇を引き起こす。HHSでは、低リン血症の病態生理の最も重要な要素は重度の浸透圧利尿である。DKAに関連する低リン血症は猫では溶血に、犬ではけいれんに関連している。加えて、低リン血症を原因として引き起こされる臨床兆候は虚脱、心筋性機能低下、不整脈である。人では、DKAにおいて総リンの枯渇はHHSよりもより深刻におこると考えられている。

 興味深いことに、しかし一方でDKAとHHSを伴った人の患者では低リン血症が一般的に認められ、犬ではDKAが、DKAとHHSを伴った猫では高リン血症が実際にはより一般的に報告されている(低リン血症よりもむしろ)。その理由は猫での研究によれば血清リン濃度は脱水によって低リン血症が隠されていると認められるとき、その時にただ一度だけ測定されるからである。その上さらに、DKAとHHSの多くの猫は慢性腎疾患を持っており、それはリン濃度が増加する原因となる。

 血漿イオン化マグネシウムの減少は、DKAの猫5頭中、4頭で報告された。尿排泄の増加が原因とされる。猫における低マグネシウムの臨床兆候はわかっていない。人の糖尿病では、インスリン抵抗性、高血圧、高脂血症、血小板の凝集亢進が知られている。犬のDKAでは初診の検査の段階で低イオン化マグネシウムがあるかどうかわかっていない。

 血清ナトリウム濃度は、DKA or HHSの患者で高値、正常、低値を示す。人では初診時検査で浸透圧利尿で低ナトリウム濃度が通常引き起こされる。しかしながら、重度の脱水がナトリウムの喪失を隠し、結果として初診時には正常あるいは高ナトリウム濃度となる。他方、重度の高血糖が偽低ナトリウム血症を助長する。細胞外高血糖が結果として水分を細胞内から細胞外スペースに移動させ、細胞外のナトリウムの希釈の原因となる(偽低ナトリウム血症)。多様な均衡が偽低ナトリウム血症を正常化させる(100 mg/dlを超える血糖100 mg/dlあたり測定した血清ナトリウム1.6 mEqを加える)。例えば測定した血清ナトリウム濃度135 mEq/Lと血糖値400 mg/dlならば、補正した血清ナトリウム濃度は135+(1.6 x 3) or 139.8 mEq/L。加えて、高脂血症はナトリウム測定を妨害し、誤ったナトリウム濃度増加を助長する。

 HHSあるいはDKAの猫の研究で、HHSの猫の補正した中央ナトリウム濃度(159 mmol/L)はDKAの猫(151 mmol/L)よりも高い事が示された。他の研究で、DKAと合併症のない猫の糖尿病で比較したところ、DKAの猫の34%が低ナトリウム濃度であるのに対し、合併症のない猫の糖尿病ではたった8%であった。3番目の研究でわかったことは、42頭の糖尿病ケトーシスあるいは糖尿病性ケトアシドーシスの猫80%が低ナトリウム血症であった。最新の二つの研究ではナトリウム濃度は糖で補正されなかった。低クロール血症が人のDKA or HHS、犬と猫のDKAで報告された。

 DKAとHHSの患者で、尿検査で尿糖が普通にみられ、蛋白尿が明白に認められる。DKAでケトン尿は認められないのは、尿試験紙のニトロプルシドがアセトアセテートに反応するが、β-hydroxybutyrateに反応しないからである。これがDKAの主要なケトン体である。血清β-hydroxybutyrateの測定は尿ケトンの測定よりも感度が高い。尿管感染が糖尿病猫の13%でみられる。ほとんど一般的に分離される細菌はEscherichia coliである。糖尿病猫の尿検査は普通、尿管感染のスクリーニング法となる。なぜなら尿管感染のあるほとんど猫は尿沈渣で白血球か細菌がみられる。(第5版48章参照;細菌性尿管感染症のディスカッション)

 追加の臨床病理学的あるいは画像テスト 副腎や甲状腺軸テスト、成長ホルモンやIGF-1濃度、PLI、肝生検、腹部超音波、胸部レントゲン、脳MRI、を特定の現症の出現によって行う。

Differential Diagnoses

 ケトーシスが見られたときの鑑別診断は、DKA、急性膵炎、飢餓、低炭水化物食、持続的低血糖、持続的発熱、妊娠である。原発性代謝性アシドーシスの鑑別診断は、DKA、腎不全、乳酸アシドーシス、毒物への暴露、重度の組織破壊、重度の下痢、慢性嘔吐がある。高浸透圧の鑑別診断は、HHS、脱水、腎不全、毒物への暴露である。

Treatment of DKA or HHS

 DKAとHHSの治療には5つの要素がある。脱水の補正、電解質異常、高血糖、アシドーシス、併発疾患の治療、である。静脈点滴治療の投与と注意深いモニターが最も重要な要素である。コントロールがうまくいかなかったDKAとHHSの猫の研究で、治療に使用される最適の点滴が検討された。研究には、商業化が可能な等張性晶質液が使用された。0.9%生理食塩水の使用が推奨された。なぜなら高濃度の塩分の関連性による。しかしながら、0.9%生理食塩水の投与は血清塩分濃度が初期に高い高浸透圧糖尿病では禁忌となる。加えて、0.9%生理食塩水は 高塩分濃度と緩衝剤の喪失のおかげでアシドーシスにはるかに貢献する。他方、乳酸塩(乳酸リンゲル液など)と酢酸塩(Plasma-Lyte, Normosol-R)が重炭酸に変換され、アシドーシスの治療に貢献する。これら緩衝剤を含む晶質液はカリウムを含有し、初期の点滴やインスリン治療によっておこる急性のカリウム減少を鈍化させる。しかしながら、猫が注意深くモニターされている間は、特に脱水、精神的状況、電解質濃度、上記のいくつかの晶質液の使用に関連する。

 なぜならDKAとHHSの猫の点滴治療に関連した臨床的挑戦は、報告されていない。それはAmerican Diabetes Association(ADA)ガイドラインに戻って役に立つ。ADAはDKAとHHSのどちらの患者にも初期の数時間は0.9%生理食塩水を投与する事を推奨する。DKAとHHSの患者に初期数時間の点滴治療をした後は もしこれら補正された塩分濃度が高いか正常であれば、 0.45%生理食塩水で治療され、塩分濃度が低ければ0.9%生理食塩水で治療される。補益の率は患者の水分喪失量、血行動態、心機能による。再水和に加えて、補益治療は腎血流量改善、負の規制ホルモン濃度の減少、最も重要なグルカゴンによって血糖濃度減少に貢献する。

 電解質異常の補正とモニターリングは治療におけるきわめて重要なポイントである。電解質補給はしばしばモニターされる(4-6時間ごと)、なぜなら補給率の修正が要求されるからである。初診時身体検査で高カリウム血症の猫は治療開始後すぐに低カリウム血症に陥る。低カリウム血症はカリウム投与で治療される。0.5 mEq/kg/hourを超えない経静脈持続点滴(CRI)。もし高容量が必要ならば継続的な心電図モニターを同時にしたほうがよい。細いT波、QRSの延長、PRインターバル、弱いP波の振幅が注意される点である。カリウム補給は中止し、血清カリウム濃度を測定するべきである。低リン血症(血清リン濃度2.0 mg/dl以下)はリン酸カリウムのCRI静脈点滴で補正される(カリウム4.4 mEq/L, リン3.0 mM/ml)。速度は0.03 – 0.12 mM リン/kg/hour. カリウム投与は低リン血症の補正のためにリン酸カリウムを与えるときに評価されなければならない。

 硫酸マグネシウム塩(4 mEq/ml)はCRIで1 mEq/kg/24hで安全に使用され、低マグネシウムの補正として静脈点滴する。マグネシウムの静脈点滴で誤投与は一頭の糖尿病猫と1頭の急性腎臓病の犬で報告された。マグネシウム中毒のサインは嘔吐、元気低下、全身性筋緊張の弛緩、精神的鈍麻、頻拍、低血圧である。治療はマグネシウムの静脈点滴のみで行われ、イオン化マグネシウムの減少が報告されている。

 高血糖の消散には、浸透圧の減少のため塩分濃度が二次的により高くなることが期待される。それに続いて、血管内スペースから自由水が移動する。もし低ナトリウムと低クロールが点滴治療後も6-8時間持続したら、補正のために生理食塩水を投与するべきであり、もし猫がすでに生理食塩水を投与されているならば投与量を増加させる。塩分濃度の補正に関連した決定は塩分濃度を補正する基礎となるべきだ。

 高血糖の補正は活性型インスリンの急速投与でなされる。著者の施設でインスリン投与は再水和と初期の電解質の異常を補正することを考慮し点滴治療開始後6時間ではじめる。しかしながら、新しい速効性活性型インスリン製剤が市場に紹介され、人のDKAの患者の管理に十分な成果をあげている。猫のDKAとHHSでの臨床的使用は調査されていない。軽度DKAの人の患者の一部で速効性活性型インスリン(lispro insulinのような)の皮下投与がされた。開業医が高額な入院費を減らす試みとして試験運転する。しかしながらこの戦略はいまのところ猫には紹介できない。この時点でリギュラーインスリン(Humulin R, Novolin R)の使用は猫のDKAとHHSの治療に紹介する事ができる。レギュラーインスリンは静脈CRI(表28-1;レギュラーインスリン0.88 U/kg /100 ml NaCl))、あるいは筋肉注射で投与する。静脈でレギュラーインスリンをCRIで投与するときは2時間ごとに血糖値を測定する。インスリンを筋肉注射したときは、毎時間血糖濃度を測定する。IMの初期投与量は0.2 U/kg regular insulin IM, 続いて1時間後に0.1 U/kg regular insulin IM.  IMレギュラーインスリンの治療は もし血糖値が75 mg/dl/hr以上 下がったら0.05 U/kg/hr, between 50 to75 mg/dl/hr下がったら0.1 U/kg/hr, 50 mg/dl/hr以下の減少幅であったら0.2 U/kg/hrで継続する。

 アシドーシスは普通、静脈点滴投与やインスリン単独治療で補正される。人のDKAのアシドーシスの患者は重炭酸塩投与で補正されるのには議論がある。なぜなら子供のDKAで脳浮腫の増加が示されているからである。人DKAの重炭酸塩の治療に関連する追加のリスクの可能性は低カリウム、肝臓におけるケトン体産生増加、奇異性脳脊髄液アシドーシス、、二酸化炭素産生増加を原因とする細胞内アシドーシスの悪化 の再燃。ADAは重炭酸補給が点滴治療後1時間で動脈血pH 7.0以下のDKAの患者のみで紹介される。

 ほとんどの犬猫の重炭酸塩治療は、アシドーシスが消散されていないDKAでほとんど治療されない。最近の127頭のDKAの犬の懐古的研究で報告されたのは、アシドーシスの程度と重炭酸塩投与は予後に悪影響を与えることが示唆された。はっきりとはしないが、悪い予後は治療を促すような重度のアシドーシス、あるいは 重炭酸治療それ自身を原因とする。それゆえ重炭酸塩の投与は注意深くなされるべきである。

 もし潜在的リスクがあるにもかかわらず重炭酸塩治療が適切だと思うなら、1回の治療プロトコールは静脈投与で20分以上間をあけて計算量の1/2-1/3量を投与する。

重炭酸塩=0.3 X B.W. X 負の塩基過剰。

治療は必要なら静脈pH測定後 静脈pHが7以上になるまで 一時間ごと繰り返す。しかしこの治療法を支持する論文はない。あるいは他のDKAの猫に対する重炭酸塩治療プロトコールはない。

 合併症の存在はDKAとHHSを発症する原因となるといわれている。それゆえ付随疾患の特定と、適切な治療が重要となる。合併症の治療はグルカゴン分泌を減少させ、糖尿病の調節を良好にし、DKAとHHSを解消する原因となる。

Outcome of Patients with DKA or HHS

 DKAあるいはアシドーシスを伴わないケトーシスの猫に関する研究で、ほとんどの猫(70 %)が退院時に生存している。猫の中央入院期間は5日であるが、40 %以上の猫がDKAのエピソードなどで再発する。

 HHSとDKAを比較した他の研究で、HHSの猫17頭中6頭のみが退院時に生存 (

35 %) していた。HHSの猫の生存率はDKAの猫の生存率(

37頭中31頭生存:84 %)よりも低かった。退院時に生存していた猫の入院期間はHHS(中央入院期間:3日)がDKA(中央期間:7日)よりも短かった。猫の予後は診察時の測定として、神経学的兆候の存在、血糖値、ナトリウム濃度(測定値や補正値)、血清浸透圧(総あるいは有効)に関連はなかった。 

Insulin Overdose

 糖尿病猫はインスリン要求量が変わったり、治療の過程でいつでも起こりうるエラーの結果、インスリンが過量投与となる。インスリン要求量が減少するのは合併症が解消したり、猫が一時的な糖尿病状態であったり、寛解したり、インスリンを受けることを継続したりするときである。(chapter 27).

 インスリン投与のエラーは様々な理由で起こる。原因の可能性の一つは100 U/mlのインスリン製剤に40 U/mlのシリンジjを使うことにある。糖尿病猫の家族がインスリン製剤とシリンジについての教育を受けることは治療を安全にする。そして適切なインスリンシリンジが使用される。

 インスリン過量投与の結果、低血糖に陥る。それは血糖濃度65 mg/dl以下と定義される。最近の医療レコードによると470頭の糖尿病猫のインスリンに関連した低血糖イベントは全体の17%になる。糖尿病猫は犬に比べてインスリン関連低血糖イベントを起こしやすい。可能性として考えられる理由は猫が一時的糖尿病になりやすいからである。

 インスリン過量となった猫の研究では、発症したのは主に去勢した雄で、中央年齢は12歳。しかしながらこの兆候は一般的な糖尿病猫に典型的である。インスリン過量を受けた猫の体重は他の糖尿病猫(5.1 kg)よりも平均よりも重(5.8 kg)い。低血糖に陥った猫は一回のインスリン量が6Uを超えることが多い。投与頻度は一日一回から一日二回。猫のインスリン過量のほとんど一般的な臨床徴候はけいれん、もたれかかり、拒食、震え、嘔吐、運動失調、鈍麻である。

 デキストロースの投与で構成される治療は、普通静脈投与される。しかし軽度な症例は経口的にブドウ糖投与され、あるいは食事が十分にとらされる。しかしながらインスリン過量を起こした20頭の猫の中央入院期間は20時間であり、最後の10日間は多様な治療の継続期間である。糖の量は良好な血糖制御を受けるために要求する。猫が必要とする時間容量は点滴が必要だが予測できない。14頭の猫で0.21ー6.3 g/kgの糖が良好な血糖調節には必要であった。糖補給の継続期間は0.55-60時間の幅にある。他の言葉で、低血糖は正常な血糖濃度に達した後でさえも再発する。そして糖点滴はおおよそ3日間以上必要とされる。インスリン投与に関連した低血糖の治療のためにグルカゴン投与は追加で説明される。インスリン過量の20頭の猫の報告で90%の猫が生存して退院した。中央入院期間は20時間である。

(2012. 5.25)

8. 消化器型リンパ腫

Diagnosis and Treatment of Low-Grade Alimentary Lymphoma

猫の低悪性度の消化器型リンパ腫

FELINE INTERNALMEDICINE 6TH

低悪性度の消化器型リンパ腫(LGAL)は、近年、中から老齢の猫で見られる事が多くなってきている。LGALが一般的な問題となりうることが新しい論文などで指摘されている。最も多い主徴候は慢性の嘔吐に伴う体重減少で下痢を伴ったり伴わなかったりする。腹部触診でしばしば異常が触知され、瀰漫性の腸ループの肥厚やマス病変によって特徴づけられる。これらに一致した臨床徴候を持った猫では、他の原発性あるいは続発性の胃腸疾患とLGALを鑑別する必要がある。いくつかの猫でLGALの臨床徴候はリンパ球プラズマ細胞性炎症性腸疾患(IBD)と区別できない。腹部超音波検査は診断的検査として有用である。多数カ所からの小腸バイオプシーの組織病理学的検査は最も信頼のおける診断のために要求される。治療と支持治療による予後は良好ないし極めて優れている。

CLASSIFICATION OF ALIMENTARY LYMPHOMA

猫リンパ腫は、解剖学的部位、組織学的グレード、免疫表現型によっておおざっぱに分類される。伝統的な解剖学的分類は、縦隔型、多中心型、消化器型、そして節外性に分類される。消化器型リンパ腫は腫瘍性リンパ球による胃腸管の浸潤を特徴とし、腸間膜リンパ節に病変がおよぶこともおよばないこともある。猫消化器型リンパ腫はNCIWFの組織学的基準に従って分類される。High grade, intermediate-grade, low-gradeである。猫のLow-grade消化器型リンパ腫(LGAL)は最近の10年ぐらいで増加傾向にあると認識されている。Low-grade消化器型リンパ腫の同義語は、Well-differentiated,  Lymphocytic, Small cell alimentary lymphomaである。ほとんどのLGALはsmall lymphocytic lymphomaである。消化器型リンパ腫の独立した下位分類でLarge granular lymphocytic lymphomaが認識されている。LGALとLarge granulara lymphocytic lymphomaの大多数はT-cell免疫表現型である。一方で、胃腸管のintermediateあるいはhigh grade lymphomaは大体はB細胞を起源とする。猫のLGALとHigh grade alimentary lymphoma(HGAL)は 診断に要求されるテクニック、治療、予後だけでなく臨床的挙動も著しく異なる。ふたつの型が臨床的な挙動がはっきりと異なることを理解されるべきである。

EPIDEMIOLOGY 疫学

消化器型リンパ腫は猫リンパ腫の中で最も一般的な解剖学的な型であるとほとんどの研究で見なされている。猫白血病ウイルス(FeLV)感染の世界的な減少が他の解剖学的型に比較して消化器型リンパ腫の患者数の増加をもたらしている。なぜなら消化器型リンパ腫はFeLV抗原血症に最も関連が少ないからである。リンパ腫の発生、特に消化器型リンパ腫が増加していることを 一部の研究が示唆している。ある研究施設では、レトロウイルス陰性のリンパ腫のケースが1984年から1994年の期間に比べて1994-2003年の間に78%増加していた。これは猫の診療件数が同様の期間で29%増加であったことから、診療件数の増加に一致しているという説明はできない。しかしながら、この傾向が消化器型リンパ腫の発生率が真に増加しているかどうか考慮が必要である。また猫の疾患に対する将来の研究に対する必要性が増加するかどうか不明である。

Low-grade lymphomaは猫のリンパ腫全体の10-13%を占める。一般的な個体数のなかで消化器型リンパ腫の異なった組織学的サブタイプの相対的な発生率は分かっていない。しかしながらLGALは紹介された猫の個体の中で一般的である。消化器型リンパ腫のすべてのケースの45%と75%から成る。我々の施設で、LGALと分類された消化器型リンパ腫の個体数は1999年の11%から2008年の45%へと増加していた。この増加に対する最もありそうな理由はlow-grade疾患をより認知されやすくなっていると考えている。増加する他の要因はintermediateあるいはhigh-grade lymphomaの診断がFNAによる細胞診検査のような侵襲性の低い診断テストによってしばしばなされるからであり、結果として紹介も少なくなる。

RISK FACTORS

直接腫瘍発生性レトロウイルスであるFeLVは若猫の縦隔型および多中心型T-cellリンパ腫に強い関連性がある。FeLV抗原血症の猫がリンパ腫を発生するリスクは、抗原陰性の場合に比較して16倍増加すると言われている。FeLVプロウイルスを探査する能力は抗原陰性猫に暴露したリンパ腫原因ウイルスの潜在能力をより減弱する。猫免疫不全ウイルス(FIV)感染はまたリンパ腫発生のリスクを増加させるが、FeLV感染に関連したものよりも頻度は低い(血清陰性猫に比較して5倍)。関与ははっきりとしないが二次的な役割として節外性B-cell腫瘍の発生にFIVが考えられている。レトロウイルス関連のLGALの証拠は今のところ認められていない。FeLV抗原を検査したLGALの猫76頭で全てが陰性で、FIV抗体検査した猫77頭では1頭のみが血清学的に陽性であった。

猫における慢性炎症性腸疾患はLGALを発生させるリスク要因であると示唆されているが、決定的証拠は欠如している。炎症関連腫瘍の事実はよく報告されており、メカニズムを含めて解明されつつある。人間で見られるセリアック病はグルテン過敏症に関連した炎症性腸疾患である。一般的にある特定の人に生じやすいのだが、セリアック病はT-cellリンパ腫関連腸疾患を含む、腸の悪性疾患が発生するリスクが増加している。文献にみられる組織学的所見は猫のLGALのこれらにとても類似している。その範囲では 一部の獣医病理学者はLGALについて腸疾患に関連するT-cellリンパ腫であろうと言及している。腸におけるリンパ球集簇を炎症性か腫瘍性かを鑑別することは、形態像だけからでは極めて難しい。免疫表現型とクローナル検査は最終的な鑑別のために要求される。 一部猫の腸管において リンパ球プラズマ細胞性腸疾患(IBD)はリンパ系悪性疾患の前兆であると提案されている。この理論に一致して、LGALの猫の20%以上で腸管にリンパ球プラズマ細胞性IBDが同時に発生が確認されている。猫において慢性炎症から腫瘍に進展が認められた他の例として、注射関連肉腫や外傷後発生肉腫がある。猫という動物は炎症に関連した新生物が発生しやすいことが示唆されている。

SIGNALMENT

LGALは中齢から老齢の家庭雑種猫によくみられ、診断された中央年齢は13歳で、5-18歳の範囲がある。好発品種や性差は見られなかった。

ヒストリーと臨床徴候

LGALを発症した猫の最も良く見られる臨床徴候は体重減少(>80%)、嘔吐(>70%)、下痢(>60%)、そして不完全あるいは完全な食欲不振である。経験では、下痢は通常、小腸を原因とする。患者の食欲は正常であるが、時に多食が禀告される。少ないが報告されている症状はちんうつ、多飲がある。症例の多くで、臨床徴候は慢性である(1か月、あるいはそれ以上症状が続いてる)。LGALの猫では腹部に異常がしばしばみられるので腹部触診が臨床的に有益である。び漫性の腸ループの肥厚が罹患した猫の1/3から1/2に見られる。症例の20-30%に触診可能な異常なマスを認め、そのマスは腸間膜リンパ節の腫大、あるいは多くはないが腸管の限局性マスである。LGALの猫における異常な触診はこれといった特徴がないので、診断するとき触診が正常所見であってもそれだけで基本的に除外することが出来ない。

鑑別診断

LGALの現症は一般的に多くが原発性あるいは続発性胃腸疾患である。炎症性腸疾患は主な鑑別診断である。猫のIBDとLGALを比較したある研究で、臨床所見と最終診断の間には相関が見られなかった。慢性の体重減少、嘔吐、下痢を示す老齢猫で、続発性の胃腸疾患の除外はCBC、血液生化学、尿検査、胸部レントゲン検査、血清総サイロキシン濃度、レトロウイルス検査を行うことによって成し遂げられる。血清トリプシン様免疫反応(TLI)の測定と猫膵リパーゼ免疫反応(f-PLI、現在はSpec f-PL)もまた指示される。

原発性胃腸疾患の原因となる疾患はリストにあげた。腸寄生虫の検査は便の直接顕微鏡検査と硫酸亜鉛遠心分離浮遊法を行う。便の免疫測定法、直接蛍光抗原テスト、PCRは次の疾患の探査のための迅速な測定の基本となる。Giardia spp., Cryptosporidium spp., Campylobacter spp., enteropathogenic bacterial toxins. 検査結果が陰性であっても、フェンベンダゾールによる内部寄生虫のルーチンな治療は検査中に行うことは正当な理由となる。混合性あるいは大腸性下痢の猫は便塗抹検査によるTritrichomonas foetusのためのさらなる検査、培養、PCRが推奨される。血便の猫では、もし同時に発熱や血液学的所見がみられたら、敗血症、腸原生細菌のための 便培養が必要となる。Salmonella spp., Clostridium spp., Campylobacter spp.が考慮される。検査結果については健康な猫でもこれら微生物は高率にキャリアなので注意深く解釈される。一種類の既知タンパクを使用し炭水化物源や加水分解タンパク食による除去食トライアルは食物有害反応が疑われるような症例では重要な診断方法である。血清コバラミンや葉酸濃度は小腸疾患が疑われる全ての猫で測定する。

慢性体重減少、嘔吐、下痢の見られる老齢猫の触診可能な小腸やリンパ節の所見はHGALを示唆する。これら患者では、分節状、しばしば奇妙な、壁肥厚、腸間膜リンパ節腫大が一般的である。上皮由来のあるいは肥満細胞性腫瘍もまた考慮される。腹部にマスが認められたとき鑑別診断リストにLGALを忘れないことが重要である。一般的に後者は治療に対してより良好な予後を示す。これら徴候を示す多くの猫における診断よりもむしろ検査所見が情報を得るために好まれる。腹部超音波検査が通常指示される。以下の概略で、正常な超音波所見はLGALの診断を除外しない。胃腸生検の病理組織学的検査は鑑別診断に到達するために要求される。

診断

ルーチン臨床検査

猫のLGALの血液学的異常所見は慢性疾患による軽度の貧血や胃腸管からの血液喪失、単球増多症や好中球性の白血球増多症を含む。血清生化学的解析では、低アルブミン血症がみられるが、LGALでは普通ではない所見(症例の49%)で、intermediate-grade alimentary lymphomaやHGAL(症例の50-75%)よりも少ない。低アルブミン血症は腸壁が障害されることにより腸管内アルブミンが喪失して肝臓のアルブミン産生能力が追いつかずに起こる。低アルブミン血症は猫のLGALでは一般的ではない。理由は腸壁の完全性が病気の進行末期まで維持されることが多いからである。血清肝酵素活性の増加も起こり、肝臓への侵襲が同時に起こっていると考えられる。

猫のLGALの80%以上が低コバラミン血症に陥る。この所見は予期されていなかった。コバラミンは回腸から吸収される。そしてLGALが最も発生しやすい部位は回腸と十二指腸である。加えて、上部腸管における腸管内微生物が増殖することでコバラミン利用が増え、結果的に吸収されて得られるコバラミンが減少する。猫のLGALでは、血清葉酸濃度は低下、正常、高値となる。葉酸deconjugase(*folate deconjugase; pteroyl-γ-glutamyl-hydrolase)(刷子縁酵素)や運搬タンパクは葉酸吸収が上部小腸のみに限定されることが要求される。それゆえ、低値の葉酸濃度は粘膜からの吸収が減少する上部小腸疾患に伴って起こる。血清葉酸濃度の高値は葉酸を産生する腸内微生物の増殖を原因として起こる。ある研究で、血清葉酸濃度が5%減少し、猫のLGALの40%で増加した。

腹部超音波検査所見

腹部超音波検査は腸壁の厚さ、層形成、管腔内容物を検査することで胃腸管の評価の手助けとなる。腸壁の厚さは対称性があるか、解剖学的位置はどうか、肥厚部位が限局性か多発性か、あるいはび漫性かどうかによってより特徴づけられる。正常な腸壁は高エコー部と低エコー部の層が交互に5層の画像として認められる。それは管腔表面、粘膜、粘膜下、筋層、そしてしょう膜に対応する。超音波検査では、正常な十二指腸と空腸壁の厚さが2.8 mm以下であり、回腸は3.2 mm以下、腸間膜リンパ節は5 mm以下である。

LGALの超音波画像とHGALのそれは対象をなす。後者は 正常な壁層構造の断裂を伴う貫壁性の腸壁の肥厚、壁のエコー源性の低下、局所的な胃腸管の運動低下、そして腹腔内リンパ節腫大を含む。腸壁層の消失が腫瘍や炎症細胞を原因とする腸壁の炎症によって起こる。二次的な壊死、水腫、そして出血が起こったり起こらなかったりする。LGALの患者では、超音波検査で、病変のある腸は全く異なっている。:腸壁の厚さは正常であったり厚くなっていたりする。層構造は通常温存される。ある研究で、平均的な猫のLGALの腸壁の厚さとび漫性の小腸壁の厚さは4.3 mmであった(中央値 4.5 mm; 幅3.4 – 5.0 mm)。腸間膜リンパ節の腫大は腹部超音波所見として普通に見られる。上記と同じ研究で、17頭の猫のLGALのうち11頭で腸間膜リンパ節の直径は平均1.59 cm(中央値1.0 cm; 幅0.65- 3.0 cm)であった。一般的に超音波画像からLGALとIBDを鑑別するには十分ではない。しかしながら、最近のある研究で、超音波による腸の筋層の肥厚はLGALに関連しているがIBDには関連がないか正常な小腸である。猫のLGALにおける通常あまりみられない腹部超音波検査所見は、限局性の腸マスや腸重責症がある。肝臓のび漫性の炎症が組織学的にみられるが、通常、超音波検査で見つけることは容易ではない。

超音波ガイドによるFNAの細胞学的診断

び漫性に腫大している腸管のFNAは技術的に困難で、通常、診断が不十分である。同様に、腫大した腸間膜リンパ節の細胞学的検査はLGALの診断を確定する助けにはならない。なぜなら、良性のリンパ系過形成から高分化の腫瘍性リンパ球、低悪性度の疾患の特徴を見分けることが可能ではないからである。罹患したリンパ節の組織生検は、腫瘍浸潤によって正常なリンパ節構造の破綻を組織学的に証明するために要求される。HGALの診断と対照させると、腸管壁の限局病変、あるいは腫大した腸間膜リンパ節のFNAによる細胞学的評価を基本とされる。このことはしばしば成功例として報告される。なぜなら腸の腫大の程度が大きければ大きい程FNAが容易になるからであり、浸潤している腫瘍細胞(Large lymphoblastic cells)の形態が背景に集まっているリンパ球と細胞学的に見分けることが容易だからである。

腸生検

腸生検の組織学的評価は、腹部超音波検査で腸壁の肥厚や腸間膜リンパ節の腫大が認められた時に許可される。なぜならこれら所見はLGALとIBDどちらの患者にも通常に見られるからである。腹部超音波検査による正常な腸壁の厚さと正常な腸間膜リンパ節所見がLGALの診断を除外しないということを強く強調すべきであり、腸生検による組織学的診断を排除すべきではない。我々は現在、LGALの診断に診査開腹や腹腔鏡で得られる全層腸生検サンプル(FTB)を使用する。内視鏡(EB)で得られるサンプルは腸壁の一部の生検材料である。これらの有用性の比較はTable 17-3を参照。

LGALは典型的には胃腸管の単発病変といよりは、び漫性、あるいは多発性疾患である。

人、犬、豚、馬に見られる腸疾患関連T-cell リンパ腫に類似する。空回腸が好発部位である。十二指腸への浸潤もほとんど通常にあるが、重度ではない。いくつかの研究で全ての胃腸病変の評価を同時に報告した。ある報告では、胃腸管のひとつの解剖学的な病変より多くの部位への腫瘍浸潤が17頭中、16頭の猫で見られた。一方、1頭の猫で、リンパ腫が十二指腸に限定された。胃への侵襲は25頭、症例の40%で発生した。大腸への侵襲をしばしば決定するために一部の症例で評価され、結腸浸潤が結腸生検がなされた5頭のうち1頭の猫で報告された。

LGALの組織像

小リンパ球タイプのLGALの組織学的診断は容易ではない。なぜなら小リンパ球の腫瘍性浸潤はしばしば健康な猫の胃腸管粘膜に存在するリンパ球や猫リンパ球プラズマ細胞性IBDと形態的に見分けがつかないからである。細胞分裂像はLGALの猫では頻繁に見ることはない。IBDとLGALの組織学的鑑別は、特に疾患の初期のステージの場合には非常に難しい。

正常な像と炎症性疾患の猫の胃腸粘膜の重度の変化に対する組織学的スタンダードは検討されている(Gastrointestinal Standardization Group of the World Small Animal Veterinary Association)。これら基準は形態や炎症性変化の重症度の評価を容易にし、内視鏡生検の評価をかなりの程度適切にする。これらスタンダードの国際的有用性は病理医の間における様々な解釈を減じ、異なった研究発表同士を比較するのを容易にし、リンパ球プラズマ細胞性IBDとLGALの鑑別を標準化する助けとなる。

重度のリンパ球プラズマ細胞性IBDからLGALを見分ける組織学的基準はリンパ球と顆粒球の混在の欠如に関連しているのを含む。ひとつに腫瘍性リンパ球の単一の増殖によって粘膜固有層が置換される。さらには腫瘍疾患初期において絨毛間に不規則に時々ばらまかれる。他の基準は腫瘍性リンパ球の存在する陰窩や絨毛の腸細胞の反応の欠如、粘膜固有層境界部の消失、腫瘍性リンパ球が集合して上皮向性の存在(microabscesses)、粘膜下、筋層、しょう膜への拡大の程度を含む。そして腸間膜リンパ節への腫瘍性リンパ球の浸潤の存在。LGALの初期腫瘍病巣のリンパ球浸潤の不規則なばらまきは鍵となる所見であり、リンパ球プラズマ細胞性IBDからLGALを鑑別する。上皮へ拡大して浸潤する重度な浸潤性絨毛は、浸潤が少しかあるいは無い絨毛が隣接している。対照的に、リンパ球プラズマ細胞性IBDの患者からの生検は罹患した腸病変の絨毛の浸潤に比較的均一な像を示す。

リンパ球プラズマ細胞性IBD、LGALに類似した疾患として肥満細胞性腫瘍の鑑別を加える必要がある。なぜならLGALは広範な腫瘍随伴性の好酸球の浸潤に関連している。好酸球の腸管への浸潤の所見が得られたならば腸管の肥満細胞腫を除外するために、切片の評価はヘマトキシリン・エオジン染色に加え、トルイジンブルー染色や免疫表現型がなされるべきである。リンパ腫の患者における好酸球の走化性は、腫瘍性リンパ球からインターロイキン-5が産生される結果と考えられる。好酸球浸潤を伴ったT-cellリンパ腫は高悪性度疾患にみられ、さらに犬や人でも記述されている。

免疫表現型検査

免疫表現型検査はLGALを診断するために胃腸から生検したHE染色標本の組織学的評価のための補助として利用する。免疫表現型の決定はCD3のようなT-cellマーカー、CD79a, CD45R, BLA. 36のようなB-cellマーカーのための染色によって行われる。LGALはT-cell系のリンパ球疾患として広く認識されている。LGALの猫33頭のうち30頭がT-cellの免疫表現型であったとする報告が最近あった。残りの3頭の猫は、B-cell lymphoma(n=2), non-T-,  non-B-cell lymphoma(n=1)であった。HE染色標本で消化器型リンパ腫と診断された32頭の猫の報告では、免疫組織化学染色がなされ、5頭(15%)の猫はその浸潤細胞がsmall B-, T-lymphocytes, and plasma cellの集簇の混合から成っていた。これら5頭はIBDと再分類された。しかしながら注意すべき事はLGALがT-cell表現型のみの特徴によって診断することはできないということである。なぜなら腸の粘膜関連リンパ組織(MALT)におけるT-cellの集まりの拡大は、また、猫における炎症性腸疾患で発生するからである。

クローナリティ テスト

分子テクニックによって、腸浸潤がみられるリンパ球T-cell集団のクローナリティの決定はLGALを診断するための組織学的あるいは免疫組織学的表現型のための補助として見込みを示す。クローナリティテストはT-cell lymphomaの決定に89%の感度がある。腫瘍になると考えられるT-cellの細胞集団がクローナル、あるいはオリゴクローナルを示すのが基本である。PCRテストを利用して、28頭の猫の22頭がT-cellレセプターのガンマー可変領域を記号化する遺伝子のクローナル再配列を持っている事が見つかった。一方、3頭はオリコクローナル再配列を有していた。比較で、ポリクローナル再配列が正常な腸のヒストリーの全ての3頭の猫と、リンパ球プラズマ細胞性の炎症性腸炎の猫9頭の全てで決定された。

生検の長所

胃腸の全層生検の組織学的評価は胃十二指腸の内視鏡生検材料の組織学的評価よりもLGALの診断のための感度は高い。LGALの10頭の猫の研究で、胃十二指腸内視鏡生検材料が同じ猫の多発性の胃腸疾患の全層生検材料と比較された。全層生検のひとつの評価としては、LGALが10頭の全ての猫の空回腸でみつかった。9頭が十二指腸で、4頭のみが胃で認められた。 内視鏡生検材料の評価では、正確には3頭のみで診断され、疑われた。 3頭の猫で 最終的に診断には至らなかった。一方、他の4頭の猫でリンパ球プラズマ細胞性IBDと誤診された。解釈の違いはほとんど十二指腸の内視鏡生検で遭遇した。そして十二指腸生検はIBDとLGALの正確の診断には不十分であった。技術的困難さはこの研究で手に入れた内視鏡生検材料の質によって阻まれている。2頭の猫では部分的な十二指腸材料のみであった。十二指腸生検は少しの材料がとれた3頭の猫でブラインド的になされた。内視鏡で得られた組織サンプルの質は確実な病変の特徴のためのそれらの感度の深い効果を持つ。内視鏡生検の質に影響するあるひとつの重要な要素は内視鏡をする人のスキルにあり、内視鏡で得られる組織サンプルの数による。最近の報告で、6つのマージンの適切な質の十二指腸や胃生検がなされ、少なくともひとつの絨毛や絨毛下固有層の存在によって明確にされ、正確な組織学的診断が保存される可能性がとても高い。生検の位置確認や部位を含む、最善の組織学的処理は、解釈のために適切に考慮されるためのサンプルとして絶対必要とされる。

LGALの傾向として小腸遠位を侵襲することは、もし、内視鏡の研究がルーチンに回盲便を通過する管によって得られる回腸生検を含むような内視鏡生検が改善をされるならば、LGALを診断する感度となりうる。猫のLGALの診断のために内視鏡によって正しくなされた回腸生検の診断の有用性と全層生検の比較について、さらなる研究が要求される。

まとめると、その上、内視鏡生検は侵襲性が少なく、LGALの確定診断は内視鏡術者や病理学者などの専門家の重要な助言が要求され、正しい研究所サンプル処理が同様に重要である。これら事実が最善でなければ、開腹による全層生検は考慮されなければならない。腹腔鏡は一般に増加する傾向にある。全層生検のコレクションのための開腹術に取って代わって侵襲性が低いものとして有用である。

STAGING

猫のLGALにおける腸管外侵襲は普通である。50%以上の患者で腸管外に疾患を持つ。腸間膜リンパ節侵襲が症例の60%で発生し、肝への侵襲が30%、膵や脾臓への侵襲は10%弱である。これは全身性の侵襲の程度を過小評価している。なぜならいくつかの研究が診断に至るために内視鏡生検によって頼られている。そして腸管外臓器はルーチンに生検されているわけではない。ある研究をのぞいて、肝侵襲の組織学的証拠は緩和のための予後因子としては陰性ではなかったことが示された。予後に対する疾患のステージに与える影響の情報はない。腸生検が開腹や腹腔鏡でなされたとき、たの腹腔臓器のルーチンな生検が推奨される。

治療と予後

化学療法のプロトコール、寛解と生存期間

LGALのほとんどの猫が経口slow-alkylating agentsとプレドニゾロンの治療で良好な反応を示す。これはおそらく腫瘍の核分裂率がある程度低いことによる。猫のLGALの治療のために使われる化学療法プロトコールの提示はTable 17-4.にある。治療は経口のプレドニゾロンと高容量のパルスによるクロラムブシル治療を含む。後者の代替は低容量で48時間毎継続する事が記載されている。HGALと比較して、猫のLGALは寛解期間と生存期間が長い。それゆえ組織学的グレードが猫消化器型リンパ腫の予後要因に考慮されるべきである。HGALでは、多剤化学療法プロトコールを使用し、ドキソルビシンは中央生存期間を7-10か月に関連する事を含む。対照的に猫のLGALの中央生存期間は経口プレドニゾロンとクロラムブシルで治療して15-25か月であった。診断時のちんうつの症状は寛解の予後因子にネガティブとなる事がひとつの研究で分かっており、他の研究では生存期間にネガティブとなる事がわかっている。診断時に病気がみられたら、猫のHGALでは生存期間の予後因子にネガティブとなる。完全寛解(CR)は、30日以上の臨床サインの完全な消失に定義され、猫のLGALのふたつの研究で69%と76%であった。両研究で、部分寛解の猫は無反応のカテゴリーを含み、CRよりも少ない事が考慮され、これは無作為なデータが不十分であることによる。HGALでは治療反応は生存の予後因子となる。対照的に、最近の報告で56%という低いCR率、そして生存期間に関連する重要な因子がない事がわかった。後者の論文と他のふたつの研究の重要な相違は部分寛解(PR)の第三の反応のカテゴリーが含まれる。そして50%以上100%以下の反応率と定義される。トータルで、39頭の猫の95%の治療データは研究で得られる。研究は完全あるいは部分寛解どちらも、中央寛解期間はそれぞれ29か月と14か月であった。このことは部分寛解の猫でさえ良い予後であると考えられる。CRに達した猫は一貫して十分に長い生存期間を有したが、CRに達しなかった場合は短かった。

プレドニゾロン容量は、長期間のグルココルチコイド使用に関連した、糖尿病や医原性副腎皮質機能亢進症などのような副作用を減ずる目的で、一度寛解が達成されたら漸減すべきである。寛解はしばしばプレドニゾロン5 mg/kg PO q24h、あるいは2-3 mg/kg PO q48hの容量で維持する。

サイクロフォスファマイド(10 mg/kg PO q3 to 4 week or 225 mg/m2 PO q3weeks)はプレドニゾロンとのコンビネーションの導入量で臨床的に寛解に至った猫のレスキュープロトコールで使用できる。少数の影響を受けた猫が、再導入で成功した事が報告された。サイクロフォスファマイドを使用した再導入で成功した12頭の猫の中央生存期間は29か月であった。

化学療法ーモニタリングと副作用

経口化学療法薬は通常良く耐用され、低い死亡率に関連する。クロラムブシルはナイトロジェンマスタード誘導体で2官能性アルキル化剤の活性を持つ。最も一般的な副作用はクロラムブシルによる胃腸毒性や骨髄抑制がみられる。胃腸のサインは普通中等度で自己限定的である。嘔吐、下痢、食欲不振が治療に関連し、LGALそれ自体による臨床症状と見分ける事は困難である。ルーチンなモニタリングにCBCを含むべきで、好中球減少や血小板減少に陥っていないか患者を評価する。高容量パルスクロラムブシル投与後、クロラムブシル治療を3 week毎にする前にCBCをすべきである。高容量クロラムブシル治療によるあまり多くない副作用に神経毒性がある。発作、間代性筋痙攣が人と猫で発生する。これら症状はクロラムブシルの神経毒性代謝物であるクロロアセトアルデヒドによる。神経毒性のリスクは連続容量の24hインターバルの確保や48時間毎の低容量クロラムブシル投与によって減ぜられる。

対症療法

LGALの多くの猫は診察時に低いBCS(body condition scores)、食欲不振や拒食がみられ、経腸栄養食の供給が重要な検討事項である。これら猫が全身麻酔下で腸生検が処置される間に食道瘻増設あるいは胃瘻増設チューブがルーチンに留置される。胃腸潰瘍が確認されるか疑われる場合はプロトンポンプ阻害剤(e. g., omeprazole)やH2拮抗薬(ranididine or famotizine)や粘膜保護剤(sucralfate)の治療が指示される。さらに考慮すべき事柄はリンパ球プラズマ細胞性IBDや食物不耐性が同時に存在する場合の治療である。重度のリンパ球腸炎症、二次性の食物不耐性(HE染色による腸生検の最初の組織学的診断が消化器型リンパ腫)が報告された。食物の変更は重要である。食物は単一源か、加水分解された既知のタンパク成分を含むべきである。食物はまたグルテンを含有してはならない。炭水化物成分もまた単一源か高可消化(調理米)であるべきである。これら基準に合致した市販の総合食は利用できる。プレバイオティクス、構成要素となる基質が明らかに有益な細菌種によって選択的に使用されている。あるいはプロバイオティクス、経口投与可能な病因となる細菌を中和する微生物、粘膜免疫の反応を調節する製剤がまた使用される。メトロニダゾール投与は小腸細菌の過増殖の治療に有益であるが、免疫調節効果も期待できる。葉酸欠乏は経口葉酸サプリメントで治療される。もし血清コバラミン濃度が正常値以下であればコバラミンサプリメントを投与する。しかしながら、猫のLGALで低コバラミン血症の高発生率が与えられたら、ルーチンなコバラミンサプリメントはもしオーナーが血清コバラミン濃度の測定を許可しなければ保証される。なぜならコバラミン欠乏自体は胃腸粘膜の炎症性浸潤、絨毛萎縮の結果であり、化学療法の反応はコバラミンサプリメントが同時に開始されない限り準最適である。もしコバラミン濃度が コバラミン注射後最後の月から 1か月高値であれば、サプリメントは継続しない。もし血清コバラミン濃度が低値であれば、あるいは正常範囲内であれば、さらなるサプリメントが指示される。臨床症状の再発が見られた猫においては血清コバラミン濃度はルーチンに測定すべきである。

summary

LGALは慢性の、中齢から老齢猫の遅発性疾患であり、原発性疾患やIBDのような二次性の胃腸疾患と臨床症状が見分けがつかない。多数の発症猫で、この疾患はび漫性で胃腸管のひとつの病巣以上の侵襲を示す。空回腸がもっともしばしば発生する部位である。一般的に腸管の肥厚や腸間膜リンパ節の腫大は身体検査や腹部超音波検査で普通発見される。限局性腸管マスもまた発生する。腹部超音波検査はこれら患者の評価の補助となるが、LGALの確定診断を達成するには病理検査が必要である。intermediateとhigh-grade リンパ腫の猫とは明確に対照的に、LGALの猫は一般的に経口プレドニゾロンとクロラムブシルの治療に対する反応が良好で寛解時間が持続する。

(2012.5.11)

9. 不妊去勢手術のメリットデメリット

第14回日本臨床獣医学フォーラム2012.9.28看護師講演(ホテルニューオータニ東京):

看護師が説明する不妊去勢手術のメリット・デメリット

Can you explain pros and cons of spay and castration?

太刀川史郎/たちかわ動物病院(神奈川県)

講演の目的

  1. 1.不妊去勢手術をするための注意点を説明できるようにする。
  2. 2. 不妊去勢手術のメリットを説明できるようにする。
  3. 3.不妊去勢手術のデメリットを説明できるようにする。

キーポイント

  1. 1.健康な動物は健康なままお返しする。
  2. 2.手術することで、家庭生活に適応しやすくなり、疾患予防にもなる。
  3. 3.麻酔事故や術後合併症はゼロではない。

要約

不妊去勢手術は全身麻酔下で行うため、術前に身体検査や血液検査などが必要である。入院する前に伝染病のワクチン接種、ノミダニなど寄生虫駆除が必要である。手術は、発情のストレスから解放される事で家庭生活に適応しやすくなり、病気の予防にもなることを目的に行う。健康で入院した動物は健康なまま退院する事が絶対条件であるが、麻酔による事故はゼロではない。手術に対して疑問を持つ人も多いので、手術のメリットばかりを強調するのではなく、デメリットについてもご家族に説明する必要がある。

キーワード

犬猫 不妊去勢手術  不妊去勢手術のメリット 不妊去勢手術のデメリット

  1. 1.不妊去勢手術の注意点

「術前の身体検査の重要性」

a. 性別 

来院時に雄か雌かを確認する。雄雌どちらも去勢手術と表現する人もいるし、雄であれば手術はしない、という人もいるので注意する。獣医師は性別の確認と、雄の場合、ふたつの精巣が陰嚢内に降下しているか、陰嚢内になければソケイ部に停留していないかなど診察するので、カルテに記載する。

  1. b.不妊手術

一時的に妊娠を避けたい避妊という意味で来院することもあるので、永久に妊娠が出来なくなる不妊手術である事をご家族に確認する。

  1. c.身体検査および各種検査

元気食欲、排便排尿、歩行など家庭生活で異常はないか丁寧に問診をする。術前に行う血液検査は、貧血がないかどうか、感染症や炎症の指標となる白血球数は正常か、出血をおさえる血小板数は正常か、麻酔薬の分解/排泄能力に関係する肝臓や腎臓に異常はないかなどを検査していることを説明し、全身麻酔するときの血液検査の重要性を理解して頂く。聴診で心臓と肺に異常がないか確認をしている。心臓は血圧に、肺は麻酔薬の排泄などに関係している。必要に応じてレントゲン検査、心電図検査なども行われる。

  1. d.手術適期

犬猫とも3カ月齢から手術可能であるが、通常、犬は5カ月齢以降、猫は4カ月齢以降から最初の発情が来る前までの期間に手術することが良いとされる。幼い犬猫への手術はかわいそうという感情や、早期不妊手術は成長を阻害する可能性についていくつか報告されているので,影響がない,と断言はできない。特に、雌は乳腺が発達する最初の発情前に手術する事で乳腺腫瘍の発生を予防する事ができる。

「入院前の感染症予防」

  1. a.伝染病ワクチン

法令で定められている狂犬病ワクチンは3カ月齢以降に接種する。混合ワクチンは推奨されるワクチンプログラムに従う。手術時にワクチン接種してもワクチン効果は変わらない。

  1. b.寄生虫駆除

ノミ・ダニなどの外部寄生虫の駆除と予防、お腹の寄生虫の駆除は入院前に済ませておく。

「助成金などの書類作成」

不妊去勢手術に助成金を支給している自治体がある。自分たちの病院が該当するか、助成金の申請手順、書類作成などに精通する。

「料金」

不妊去勢手術は、手術費用だけでなく、麻酔費用、入院費用、鎮痛剤などが費用としてかかる。術前の検査やワクチンなども別途必要である。病院によって費用が異なるため、手術前に、検査の重要性、入院日数、手術のメリット・デメリットなどを説明するのと同時に見積額を提示する。

  1. 2.不妊去勢手術のメリット

「望まない妊娠を予防」

平成23年に行われた環境省のインターネット調査資料によると、犬の不妊措置は回答546件中、手術しているが39.6%、手術をしていないが54.2%であった。猫の不妊措置は回答296件中、それぞれ73%、19.6%であった。 平成22年度の環境省の資料では、犬猫の殺処分数(殺処分のうち幼齢個体)は、犬5万2千(9千4百)頭、猫15万3千(9万6千)頭であった。猫への不妊措置率は犬より2倍高いのに、幼齢の猫への殺処分数は犬よりも10倍多い。東京都(H22)では、犬猫の殺処分数(殺処分のうち幼齢個体)は、犬222(0)頭、猫1,957(1,661)頭であった。

「生殖器系の疾患を予防」

乳腺腫瘍は、犬で最も多く発生する腫瘍であり、悪性(ガン)率も高い。初回発情前に不妊去勢手術を行った場合、乳腺腫瘍の発生リスクは未手術の犬に比べて1/200に減少する。猫では、ほとんどの乳腺腫瘍が悪性であるが、犬と同様に不妊手術で発生リスクが低下する。手術していない猫に比べて6か月齢以下で手術した場合91%、1歳齢以下で86%減少する。雌の犬猫では卵巣や子宮の病気の発生予防となり、雄犬では精巣疾患、前立腺肥大、会陰ヘルニア、肛門周囲腺腫、雄猫では精巣疾患の予防となる。

「発情によるストレスを予防」

普段はおとなくしても、繁殖期には性格や行動が激しくなる事がある。 大きな声を出す、脱走する、人を傷つける、同居動物とケンカする、トイレ以外の場所にオシッコをする、元気食欲が低下したりする。外に行ってしまうとケンカや事故などに遭遇する。外で捕獲された犬は年間5万頭以上(H22環境省資料)であるが、繁殖行動に関係していることが多いと考えられている。また、猫の路上における事故なども繁殖行動に関係していることが多い。

  1. 3.不妊去勢手術のデメリット

「全身麻酔のリスク」

全身麻酔下では、心拍数、呼吸数、血圧、体温が変化する。健康であれば問題ない、ということではなく、これらの変化を出来るだけ早く察知し適切に対応する事が大事である。入院によるストレスで著しく興奮しているような場合、通常の麻酔量では効果が不十分なため増量することとなり麻酔リスクが増加する。 手術中は血圧などを生体モニターで監視するが、可視粘膜の色や心臓の音の強さなどを聴診し、器械だけでなく人による監視も大事である。呼吸を助けるための気管チューブの挿管時に気道を傷つけると抜管後に呼吸障害が起こりやすい。気管チューブの固定位置が悪かったり挿管に手間取ると低酸素症が起こることがある。手術前絶食を守らなかったり、前夜に大量の食事を与えて来院した場合、嘔吐によって気管が詰まることもある。麻酔薬に対するアレルギーやショックなどは予知が難しく、発症後すぐ適切に処置をしてもしばしば致死的である。安全な麻酔薬を使用し、麻酔モニターなどを設備することは基本であり、さらには、麻酔事故を未然に防ぐというスタッフの意識、トラブルが起こった時に早く察知し適切に対処する危険察知能力が求められる。全身麻酔のリスクに対応するのは人の注意力とチームワークが最も大事であるといえる。

「手術の合併症」

雌では、卵巣摘出術、卵巣子宮摘出術などを行う。卵巣摘出術では、傷が小さいため手術時間が短く回復が早い。卵巣が残存した場合、再発情や妊娠、子宮蓄膿症などが起こる。卵巣子宮摘出術では、卵巣摘出術に比べて傷が大きいため手術時間が長く、回復が遅くなる。術後の尿失禁、尿管結紮による水腎症、子宮の断端膿瘍などの合併症が報告されている。ただし、卵巣が残存しても妊娠の可能性はない。

雄では、精巣をふたつ摘出するが、特に犬で潜在精巣がしばしば問題となる。陰嚢に降下するのは生後3-10日目であるが、小さいためはっきりしない。生後1か月もするとはっきり触知できるが生後2か月経っても触知出来ない時は潜在精巣とする。後肢付け根のソケイ部に停留している事もあるため仰向けにして触診する。ソケイ部リンパ節と間違う事もあるので腹腔内の超音波検査なども必要となる。潜在精巣を放置すると中齢から高齢になると腫瘍化し、転移や骨髄抑制などを起こすため、早期摘出が必要となる。潜在精巣を摘出したにもかかわらず数年後に精巣腫瘍が腹腔内で発見された事例もあるので術前の身体検査は大事である。

「縫合糸のトラブル」

雄雌共通のトラブルとして、縫合糸の問題がある。血管を結紮する縫合糸に身体が過敏に反応し肉芽腫が形成される事がある。特にダックスフンドの発生が多く、術後数年経ってから発生する事もある。皮膚も縫合糸で縫合するが、糸に身体が反応したり、舐めたりして感染が起こると傷が膿んだり、傷が開いたりする。また、傷が大きい場合、動いた時に痛むため大きな声で泣いたり、元気食欲が低下したりする。術後に激しく動くと傷が開く事もある。

「疼痛管理」

手術後は痛い。犬猫は痛みを感じないと思っている人(獣医師も含めて)もいるが、まちがいである。痛みのためにじっとうずくまり元気食欲がなくなることがある。動いた時に突然泣いたり、散歩中に動かなくなったりする。犬猫が痛い時にどのような行動をとるか、表情をするかをご家族に説明する。手術で鎮痛剤を使用するが、半日程度で効果がなくなってしまうため、退院後も痛みが継続する場合、病院に相談してもらえるようにする。

  1. 4.さいごに

「おたく、手術いくら?」と電話などで名前も名乗らず唐突に聞かれる事も多いと思う。料金の安いところを探しているだけのこともあれば、動物病院に来院した事がなく全く何も分からない人もいる。せっかく丁寧に説明しても来院されない事も多いかもしれない。それでも、全身麻酔による手術は細心の注意が必要で、安価に、そして安易にできるものではないことを説明しなければならない。 できるだけ料金の安い病院で手術しようと思っていた人が、あなたの説明であなたの病院に来院する気になってくれるならば、それは動物にとって、とても良い事なので、めげずにがんばって説明して下さい。

10. 糖尿病猫の長期管理と合併症

第14回日本臨床獣医学フォーラム2012.9.28獣医師講演(ホテルニューオータニ東京):5年間で糖尿病性ケトアシドーシス,肝リピドーシス,低血糖症を繰り返した猫の糖尿病の管理

Clinical lecture: diabetes. Recurrent diabetic ketoacidosis, hepatic lipidosis and hypoglycemia within 5 years in a cat

太刀川史郎 たちかわしろう

たちかわ動物病院(神奈川県)

要約

10歳齢 去勢雄猫が虚脱と浅速呼吸で来院した。8歳齢時に糖尿病と診断されインスリン治療中であったが、 各種検査で糖尿病性ケトアシドーシスおよび肝リピドーシスと診断した。12歳齢時に意識低下で再来院し、インスリン誘発性低血糖症を発症していた。多発性皮膚肥満細胞腫の発生も認めた。症例は糖尿病関連の合併症をたびたび繰り返しており、インスリン製剤の変更などを検討している。

キーワード 

猫 糖尿病 糖尿病性ケトアシドーシス 肝リピドーシス 低血糖症

プロフィール

10歳齢 去勢雄 猫

主訴 

グッタリしてハアハアしてる

ヒストリー

現病歴:数日前から食欲が低下しており、本日は何も食べていないのでインスリンは投与していない。

既往歴:8歳齢で糖尿病と診断し、 インスリングラルギン(ランタス注オプチクリック持効型300単位/3ml サノフィ・アベンティス株式会社)2単位 bid SC、糖コントロール(ロイヤルカナン)ドライ による治療を2年間行っている。

予防歴:3種混合ワクチン ノミ予防

生活環境:マンション室内生活 同居猫あり

食事: 糖コントロールドライ

身体検査所見

体重:7.5 kg 虚脱 浅速呼吸

臨床検査所見

CBC

RBC(×106/μl)WBC(/μl)8800

Hb(g/dl)10.8    

PCV(%)33

MCHC(%)33      

Plat(103/μl)400

      

血液化学検査

TP(g/dl)  7.9BUN(mg/dl)  29

Alb(g/dl)  3.2Cre(mg/dl)       1.0

ALT(U/l) 157Lip(U/l)   1730

AST(U/l) 139TG(mg/dl)         71

ALP(U/L) 224Ca(mg/dl)     10.7

TBil(mg/dl)0.7P(mg/dl)       4.6

Glu(mg/dl) 502Na(mmol/l)  161

TCho(mg/dl) 200K(mmol/l)        4.2

Cl(mmol/l)    119

尿検査(自然排尿)

  Glu (+), Pro(+), pH 5, ケトン(3+), SG:1.040 over

猫膵特異的リパーゼ Spec fPL(μg/L) < 0.5 (< 3.6):アイデックスラボラトリーズ(株)

フルクトサミン(μmol/l) 484 (191-349) :アイデックスラボラトリーズ(株)

糖化アルブミン(%) 43.5(6.7-16.1) :モノリス(株)

肝FNA;肝細胞腫大と空胞変性を認めた。

診断

糖尿病性ケトアシドーシスおよび肝リピドーシス

治療と経過1

生理食塩液100ml+ノボリンR注40(生合成ヒト中性インスリン注射液40単位/1 ml) 2単位: 20ml/h(R インスリン0.05 U/kg/h) IV 。

ファモチジン(10mg/2ml) 0.8ml bid IV ,  ゾフラン(オンダンセトロン4mg/2ml A)0.4ml IV。治療開始後8時間の検査で低リン血症が見られたのでリン酸二カリウム補正液1 mEq/ml(大塚製薬(株))を生理食塩液に希釈しK+(右肩)およびHP42-(右肩)がともに20mEq/Lとなるように調節した。 

咽頭チューブ

脱水を補正し、血糖値も漸減したがグッタリしたまま食欲がないので咽頭チューブを留置した。フェンタニル注射液0.25mg「ヤンセン」10μg IV, ミダゾラム注10mg「サンド」0.5mg IV、イソフルラン3.0%マスク導入後気管内チューブ挿管した。

尿ケトンが消失し、自力で食事できるようなってから抜チューブし退院した。朝、自宅で朝食後にインスリンを注射して来院し血糖曲線を作成した。

血糖曲線

治療方針

ランタス5単位/headでは低血糖症に陥った。ランタス3単位/head bid投与にて様子を見ることとした。その後も、一時的な高血糖症や体調不良がみられたが、尿ケトンは見られなかった。

治療と経過2

糖尿病と診断・治療を開始してから4年後の12歳齢時に、ボーッとして食べない、

という主訴で来院した。体重8.1kg、虚脱、浅速呼吸が見られた。

CBC

RBC(×106/μl)WBC(/μl)9500

Hb(g/dl)12.6Band-N   0

PCV(%)39Seg-N6555

MCHC(%)33  Lym        1425

Plat(k/μl)418Mon 475

  Eos          1045

血液化学検査

TP(g/dl)8.2      BUN(mg/dl) 31

Alb(g/dl)3.6      Cre(mg/dl) 1.0

ALT(U/l)60      Lip(U/l)1100

AST(U/l)35      TG(mg/dl)    66

ALP(U/L)122      Ca(mg/dl)10.1

TBil(mg/dl)0.2P(mg/dl)2.7

Glu(mg/dl) 46Na(mmol/l) 164

TCho(mg/dl) 203K(mmol/l) 3.5

Cl(mmol/l)    125

診断

インスリン誘発性低血糖症

治療

ソルデム3維持液(テルモ)20m/kg/h IV

糖化アルブミン(%) 30.9(6.7-16.1)  :モノリス(株)

猫膵特異的リパーゼ (μg/L) Spec fPL 1.4 (< 3.6):アイデックスラボラトリーズ(株)

フルクトサミン(μmol/l) 427(191-349) :アイデックスラボラトリーズ(株)

治療方針

ランタス3単位/head bidで投与していたが低血糖症を引き起こしたので2単位/head bidで投与することとした。その後も糖尿病性ケトアシドーシス,肝リピドーシス,低血糖症に陥り入院治療を行った。治療中に、 多発性皮膚肥満細胞腫の発生を認め、増悪時に短期プレドニゾロン投与を行っている。

主治医の意見

糖尿病の治療中にみられる緊急疾患は、糖尿病性ケトアシドーシス(DKA)、高血糖性高浸透圧症(HHS)、インスリン誘発性低血糖症である。これらすべての病態は集中治療処置が必要であるが、適切な治療を受けたとしても致命的結末に至る可能性がある。これら病態に肝リピドーシスを併発した場合、さらに回復は困難となる。 糖尿病性ケトアシドーシスの猫でおこる合併症は肝リピドーシス、急性膵炎、細菌・ウイルス感染症、腫瘍が挙げられる。本例は、糖尿病と診断されてから糖尿病性ケトアシドーシス,肝リピドーシス,低血糖症を繰り返している。糖尿病性ケトアシドーシスに肝リピドーシスの合併が認められたが急性膵炎の発症があったかどうかは不明であった。肥満細胞腫の増悪時にプレドニゾロンを短期に投薬しているが、糖尿病状態の悪化時期とは一致していない。 糖尿病状態が不安定な背景に、環境の問題があるかもしれないし、インスリン製剤に原因があれば種類を変更する事も考慮しなければならない。

11. 表皮向性T細胞リンパ腫

第16回日本獣医皮膚科学会一般講演:優秀発表賞受賞

表皮向性T-cellリンパ腫の猫の1例

太刀川史郎1、太刀川統子1、代田欣二2

1たちかわ動物病院、2麻布大学

はじめに

猫の皮膚リンパ腫の発生は少なく、病変は様々で、特定の部位に発生する傾向もない。このうち表皮向性T-cellリンパ腫は、病理組織学的に表皮と付属器上皮への腫瘍性T-cellの浸潤を特徴とする。今回、皮膚生検の病理組織学的検査で、CD3陽性、HN57(CD79a)陰性の腫瘍性リンパ球の表皮および毛包上皮への浸潤を認め、表皮向性T-cellリンパ腫と診断した猫の症例を経験したので報告する。

症例

12歳齢、不妊手術済みの雌の三毛猫に6か月前から左口吻に脱毛性紅斑を認めた。徐々に拡がってきたため近医を受診したが、病変がさらに拡大し潰瘍化したため、精査のため当院を受診した。口吻の病変は鼻鏡から左上唇へと拡大し、口腔粘膜まで浸潤が見られた。病変には重度の潰瘍化が見られ出血性の痂皮で覆われており、掻痒を伴っていた。口腔には化膿性炎症、潰瘍および壊死が見られ表皮側と連続していた。左側下顎リンパ節の軽度腫大を認め、右上唇の潰瘍性病変も認めた。腫大したリンパ節のFNAおよび右側口吻皮膚のパンチ生検組織の細胞診で多くの中型リンパ球を認め、細胞質にアズール顆粒を有するものを多く認めたことから、これらはlarge granular lymphocyte(LGL)と思われた。生検組織の病理組織学的検査で、細胞質の広い腫瘍性リンパ球が真皮表層から深部骨格筋層に渡り、表皮にも浸潤が認められた。また、毛包上皮にPautrier’s微小膿瘍が認められた。免疫染色で腫瘍細胞はCD3陽性、HN57(CD79a)陰性であったため、表皮向性T-cellリンパ腫と診断した。治療は第1週目にLomustine 30mg/m2 POで投薬するが効果がないため、5週目に60mg/m2 POに増量した。L-Asparaginase 400 U/kg SCを第1、3、5週目に投与した。しかし、化学療法開始後73日目で寛解する事なく死亡した。

考察

猫の表皮向性皮膚リンパ腫の報告は少ないが、既報例は免疫組織化学的にT-cell性腫瘍であることがわかっている。サブタイプについては1例でCD8陽性、1例でパーファリン分子の発現が報告されている。本例では、口吻組織の押捺材料と腫大したリンパ節のFNAでLGLを認めた。LGLは細胞質にパーフォリンを有し、組織障害性が強いので病変が重度となり、治療反応も悪い。LGLのもつ顆粒は一般的な病理組織染色のヘマトキシリン・エオジン染色ではわかりにくいが、臨床で一般的に行われるライト・ギムザ染色には明瞭に染まり認識されやすい。このことから、猫の皮膚生検をした時、採取した材料の押捺標本をライト・ギムザ染色して本腫瘍を鑑別する事は極めて大事である。

12. 猫の眼科

猫の眼の病気は特別で

犬の眼の病気とは全く違います.

なので,眼科の専門医と毎月勉強会をしています.

眼科疾患でお困りの方はセカンドオピニオンも受け付けております.

眼科専門医をご紹介することもできます.

13. 糖尿病を自宅で管理する

犬猫の糖尿病を自宅で管理する

 1.シリンジ

2.血糖値を自宅で測定する

1.シリンジ

犬猫では30単位(30目盛り)用のシリンジを使う

 インスリンを投与するためには注射器が必要です.インスリンの投与量は1単位,2単位と表現し,シリンジの1目盛りが1単位です.人は体が大きいので100単位(100目盛り)用のシリンジを使いますが,犬猫は30単位(30目盛り)用のシリンジを使います.

インスリンの量

 通常,犬猫の糖尿病では1-5単位/1日2回の注射でコントロールできます.糖尿病は,血糖値を100-200mg/dlで安定させたいので,インスリンの量を増やしたり減らしたりして血糖値を調節します.ただ,猫や小型犬では1単位ちがうと低血糖になりすぎたり,逆に高血糖になりすぎたりしますので0.5単位での調節が必要になります.

日本のインスリンシリンジの目盛り

 日本のインスリンシリンジの目盛りは1単位毎ですので,例えば1.5単位を投与したい場合は,1目盛りと2目盛りの,ちょうど中間ぐらいにインスリン量を調節します.では,1.75単位にしたい場合はどうでしょうか.無理だと思いませんか?これでは,毎回のインスリン量が違ってしまいます.ほんのわずかな違いなのですが,猫や小型犬にとっては大問題なのです.

プードルのポポちゃんにインスリンを1単位で投与した場合の血糖曲線

 朝9時半頃にゴハンを食べて,インスリン(ランタス)を投与すると,2-3時間後に低血糖になってしまいます.低血糖は,けいれん,意識消失など,命に関わる状態です.そこでインスリン投与後2-3時間で軽食を食べています. 

プードルのポポちゃんにインスリンを0.75単位で投与した場合の血糖曲線

 

 朝9時半頃にゴハンを食べて,インスリン(ランタス)を投与して,お昼頃に軽食をとるので夕方には高血糖になってしまいますが,低血糖になる心配はありません.0.5単位にすると,ずっと高血糖になってしまいます.

海外から取り寄せたインスリンシリンジ(当院ではお分けできません.個人で輸入してください)

 海外のインスリンシリンジの目盛りは0.5単位毎なので,ポポちゃんのように0.75単位でも比較的安定したインスリン量を注射する事が出来ます.当院では,猫や小型犬など微量な血糖コントロールにこのシリンジを使用して,良好な血糖コントロールに役立っています.

(2014.3.17 犬猫の糖尿病の病院 太刀川史郎)

14. 子猫学

WJVF第6回大会動物看護師講演ニューオータニ大阪(2015.7.13)

「子猫の育て方」 哺乳から離乳まで

Raising Orphan Kittens

太刀川史郎

たちかわ動物病院(神奈川県)

講演の目的

離乳前の子猫を保護してから離乳するまでの子猫の育て方

キーポイント

1. 保護直後の子猫の健康状態を把握する

2. 子猫から他猫への感染に注意する

3. 人工哺育について学ぶ

クライアント指導の要点

1. 保護された子猫の健康状態は悪いことが多い

2. 保護された子猫の病気が同居している猫に感染することがある

3. 哺乳期間中や離乳期には様々なトラブルがおこることが多い

要約

 子猫が保護された時,外傷,低体温,嘔吐,下痢に注意する.どのような状態であっても,子猫には安静,保温,栄養の3つが大事である.外部寄生虫を含めた感染症が院内の他猫にうつらないようにする.本講演では,保護されてから離乳するまでの哺育方法について,哺乳ビデオなどを見ながら詳しく講演する.

キーワード

子猫 ミルク 哺乳 離乳 感染症

1. 保護された子猫の健康状態は悪いことが多い

 子猫の健康状態に異常なサイン(表1)がないかどうか,世話をしながら注意深く観察する.継続する下痢などが認められたら,獣医師の診察や治療が緊急的に必要(表2)である.

「外傷,骨折」

 子猫は,他の成猫や動物,人からケガをさせられることが多いが,哺育期の子猫の歩様は不安定なため骨折などがあっても見た目では分かりにくい.身体検査ではっきりしないときは,レントゲン検査や超音波検査が有効なこともある.外傷があれば消毒し抗生物質の投与が必要なこともある.皮膚が剥離し,傷に泥や小石などが付着している場合は,洗わずにピンセットなどで丁寧に取り除く.傷周囲の被毛をバリカンやハサミで切って傷に毛が付着しないようにする.骨折を認めても,あわてて手術などを考えずに安静を第一にする.

「体温の異常」

 子猫の正常体温は成猫より低めの37.7度前後であるが,39.4度以上の場合は,原因として感染などを第一に考える. 37.2度以下を低体温とし,原因として衰弱や低栄養などが考えられる.どちらにしても保温が必要で,寝床の温度は保温マットや湯たんぽなどを利用して30度前後を維持し,熱ければ逃げられるスペースと,呼吸のための換気も考慮する.状態が安定していれば,1-2週齢で26-29度,2-3週齢で24-27度,3-4週齢で21-24度を目安とする.母猫と一緒だったり複数の子猫と一緒であれば寝床の温度は目安の温度から少し下げても良い.

2. 保護された子猫の持っている病気が,入院している猫に感染することがある(表3)

「子猫からの感染症」

 子猫が保護された場合,様々な感染症を持っていることを想定する必要がある.家庭では,同居猫,人や犬へ感染が起こることがある.病院では,入院猫や病院猫,犬やスタッフへ感染が起こることがあるので,感染症について理解し,子猫を保護したご家族にもアドバイスできるようにする.

「子猫を隔離する」

 子猫を保護したら,隔離し,食器,トイレ,タオル,雑巾,ブラシなどは専用のものを用意する.家庭では同居猫と2週間は部屋を別にする.先住猫がいなくともしばらくは部屋から部屋への移動はしないようにする.病院では,専用のステンレスケージを使用し,必要に応じて熱湯や消毒剤を使って消毒する.医療スタッフを含めて,人が子猫から他猫へ感染させていることが多いので,子猫を触ったら手洗いは必ず行う.子猫を扱うときの専用の上着や白衣なども必要である.

3. 人工哺乳について学ぶ

「正常な生育の目安」

体重:出生時は80-120グラムで,1日10-15グラムずつ成長する.10日齢:200-250グラム,20日齢:300-400グラム,30日齢:400-550グラム, 8週齢:800-900グラムを目安とする.しかし,野外で十分にミルクを飲めなかった子猫の体重は前述の目安よりも少ない.

ミルク:子猫に牛乳を与えてはならない.必ず子猫用のミルクを使用する.ミルクは粉タイプ,リキッドタイプのどちらでもかまわない.ミルクの1回量は1週齢程度で3-5ml,4週齢程度で20mlほど飲めるようになる.回数は1-2週齢までは2-3時間ごとに哺乳し,4-5週齢から4-5時間ごとに哺乳する.4-5週齢頃からお皿から舐めることができるようになるので,徐々に離乳する.

眼:1-2週齢でまぶたが開く.瞳孔は小さく,眼球が青色に見える.3-4週齢で眼の色が変わり始め,9-12週齢で成猫の眼の色になる.

耳:5-8日齢で耳道が開き,2-3週齢で耳介が立ち上がる.

乳歯:2週齢くらいから生え始め,3週齢ではしっかりする.咬む力も強くなり,この頃の子猫に強く咬まれると痛いし出血する.

運動:1-2週齢は前肢だけでモゾモゾと泳ぐように移動し,2-3週齢でハイハイし始め,3週齢までにはヨチヨチ歩きを始め,4週齢で子猫たちで遊び始め,追いかけっこ,待ち伏せ,狩りの行動が見られるようになる.冒険心の強い子猫は寝場所の外を探検し,世話している人を後追いするようになる.世話している人と見知らぬ人の違いは早くから認識できる.

「離乳にチャレンジする」

 4週齢を過ぎたころから暖めた缶フードやおかゆを人の指からなめさせる.子猫が匂いを嗅いで離乳食をなめるようになれば,浅い皿にいれた離乳食に指をいれて子猫を誘導する.子猫が指に興味をしめさなければ,子猫の口をあけ,離乳食を歯にこすりつける.それでも興味を示さなければ離乳食を針をはずした注射器に入れ,少量のおかゆを口の奥の方に押し出す.離乳で下痢したり,体重が減少したりする子猫の場合は,ミルクに戻し,もう1週間程待ってから離乳に再チャレンジする.子猫によっては7-8週齢までミルクを主体に離乳食を舐める程度の子猫もいるが,体重が順調に増えているならば問題ない.

「トイレのトレーニング」

 排尿排便は,1-2週齢ではもぞもぞ動いているうちに出てしまう.寝床が汚れるのでミルクを飲んだ後にティッシュか柔らかい布を濡らし,股間を刺激すると排尿する.便は2-3日に1回でも心配しなくとも良い.2-3週齢で寝床の横にペットシートを広げておけば自然に排尿するようになる.新聞紙を細かくしたものか,固まらない猫砂を少量だけペットシートの上にまいておく.固まる猫砂は使用しない.子猫が舐めたり食べたりすれば砂が胃の中で固まってしまうからである.寝床から出て遊べるようになれば,高さ2-3センチの浅いトレーに排尿することができるようになる.寝床の外に探検するようになった時は,広い部屋のどこかにトイレをおいても失敗する.寝床の外に広めのラグを床に敷き,ラグの上で人や大人の猫が子猫の相手をし,近くのすみに浅いトイレをいくつか置いておけば上手にできるようになる.甘えて自分から仰向けになってオシッコやウンチをせがむこともある.トイレは常に清潔にし,食べ物や飲み水の近くにおかないようにする.

「下痢」

 下痢が見られたら,寝床が寒くないか温度を確認する.ミルクのメーカーを変えるか,ミルクの量や温度を調節する.成長と共にミルクの量も増えていくので,量が多いと下痢する子猫もいる.飲みが良いからとおなかがパンパンになるまで飲ますと下痢をする.下痢した場合は,いつもの量の半量のミルクに電解質液などを等量混ぜて飲ませても良い.良い便でも最初の便は検便をする.下痢を繰り返すときは,検便も何度も行う.下痢の他に,鼻水や目ヤニなどが見られたり,繰り返す下痢がみられたら獣医師の診察が必要である.

表1. 子猫の異常なサイン

眼や鼻からの分泌物

食欲がない

元気がない

下痢

嘔吐

体重減少

くしゃみ

表2. ただちに獣医師の診察と治療が必要な子猫のサイン

継続する下痢

繰り返す嘔吐

あらゆる出血(便,尿,鼻,眼,耳,身体)

あらゆる外傷(事故,落下,跛行,踏まれる,無意識,呼吸困難)

1日以上の絶食

反応がない

表3. 保護された子猫から同居猫および入院している猫への感染に注意すべき疾患

外部寄生虫(ノミ,シラミ,疥癬,耳ダニ)

皮膚糸状菌(マイクロスポラム,トリコフィトン)

呼吸器性疾患(カリシウイルス,ヘルペスウイルス)

消化器系疾患(パルボウイルス,コクシジウム,ジアルジア,トリトリコモナス)

ウイルス性疾患(猫白血病ウイルス,猫免疫不全ウイルス)

15. 子猫の眼感染症

WJVF第7回大会動物看護師講演ニューオータニ大阪(2016.7.8)

「ためになる子猫学」

先生,大変です!子猫がグッタリして目がひどいことになっています

〜子猫の上部呼吸器感染症の見分け方と消毒法〜

Upper Respiratory Infections and Supportive Care in Neonatal Kittens

太刀川史郎

たちかわ動物病院

目的

1.    子猫の上部呼吸器感染症の見分け方と消毒法について.

2.    子猫がグッタリしているときの対応について.

キーポイント

1.    子猫の感染症はスタッフが伝染させている事が多いので消毒について理解する.

2.    子猫がグッタリしているときは,低体温,脱水,低血糖に注意する.

クライアント指導の要点

1.    子猫の目ヤニや鼻詰まりの原因の多くは感染症で,他猫への伝染力が強い.猫同士の接触以外に,家族や動物病院スタッフが感染を拡大している事も多いので,消毒法について理解する.

2.    グッタリしている子猫に無理に水やミルクを飲ませると,嘔吐や誤嚥(ごえん)をおこし,ますます状態が悪くなる事が多いので,対応法を理解する.

要約

 子猫が保護された時,眼脂や鼻汁を認め,グッタリとしている事が多い.眼脂や鼻汁の原因は,一般的に,猫ヘルペスウイルス1,猫カリシウイルス,クラミジアなどの感染症で,多くは複合感染している.保護された子猫の感染症が,動物病院内に入院している猫に感染しないように感染経路と消毒法について知っていなければならない.感染症が原因で子猫はミルクを飲む力が弱くなり,衰弱しグッタリとするので,その対応について知っていなければならない.

キーワード:

子猫学 子猫の上部呼吸器感染症 グッタリしている子猫の対応法

1.    子猫の上部呼吸器感染症の見分け方(表1)

子猫の上部呼吸器感染症は,猫カリシウイルス(FCV)と猫ヘルペスウイルス1(FHV-1)が一次感染で結膜炎などを起こし,二次感染でChlamydophila felis, Mycoplasma felis,  Bordetella bronchisepticaなどの細菌感染が症状を悪化させる.

「猫カリシウイルス(FCV)感染症」

 国内猫のFCVの感染率はFHV-1よりも高く,抗原陽性率は夏場に上昇するといわれる(7).感染経路は,猫同士による直接接触感染や,飛沫と一般媒介物による間接接触感染が主要な経路である.ウイルスは,口腔粘膜,鼻粘膜,結膜から侵入し,同組織で増殖する.ウイルスの株によっては肺や関節のマクロファージに感染する. 臨床徴候は,3-4日の潜伏期間後に発熱が起こり,眼脂や鼻汁がみられる.その後,口腔内に潰瘍が認められる.他の臨床徴候なしに舌,硬口蓋,口唇などに潰瘍が認められる事もある.通常,元気や食欲に変化はない.移動性関節炎による跛行も稀にみられ,慢性口内炎(1),特発性膀胱炎(4)の原因としても疑われている.

「猫ヘルペスウイルス1(FHV-1)感染症」

 抗原陽性率は冬場に上昇する(7).感染経路は,猫同士による直接接触感染や,飛沫と一般媒介物による間接接触感染が主要な経路である.ウイルスは,口腔粘膜,鼻粘膜,結膜から侵入し,鼻中隔,鼻甲介,鼻咽頭,扁桃の粘膜で増殖する.急性期には眼組織や神経組織でウイルスが増殖し,三叉神経にとどまり,急性感染から回復した猫のほぼすべてがキャリアとなる.ストレスや出産でウイルスを再排泄し,他猫の感染源となる.臨床徴候は,鼻炎が主で,漿液性,膿性鼻汁を伴うくしゃみが必発する.結膜炎および角膜炎がみられ,樹枝状角膜潰瘍はFHV-1に特徴的な徴候である.壊死性気管支肺炎や非化膿性髄膜脳炎も報告されている(3).

「クラミジア感染症」

 原因はChlamydophila felisで,宿主細胞内でのみ増殖可能なグラム陰性の偏性細胞内寄生菌である.一般細菌に有効なβ-ラクタム系抗生物質(ペニシリン系,セフェム系など)が無効である事が重要である.クラミジアは宿主細胞外では生存できないため,伝播には猫同士による密接な直接接触が必要で,特に眼分泌物がもっとも重要である.感染直後に一過性の発熱が認められる事がある.片側性眼疾患から数日後に両側性に進行する.極度の瞬膜充血,不快感を伴う強度の結膜炎および結膜浮腫,眼瞼けいれんが認められる.結膜浮腫は,クラミジア感染症に特徴的である.結膜感染後,7-14日の間に細胞質内封入体が形成され,存在すれば容易にわかるが,形成時期が短いため発見は困難であり,他の封入体との鑑別は不可能である.呼吸器症状は起こしにくいので,呼吸器症状が見られる猫で眼症状がなければクラミジア感染は否定してもよい.

2. 消毒

 病原体を体内に持続的に保持しながら,症状を呈さない状態の猫を「キャリア(病原体を運ぶもの)」と呼称する.キャリア猫はストレスでウイルスを排泄するといわれる.すなわち,FHV-1キャリア猫は,入院,ケージの移動,新しい家庭に導入時,などにウイルスを排泄しはじめることが知られている(5).多くの猫がFCVおよびFHV-1のキャリアであるため,子猫を家庭に導入した場合,最低2週間は部屋から部屋への移動はしない.病院では入院ケージの移動はしない.消毒はケージ全体を消毒せずに汚れたところだけ拭き取る「スポットクリーニング」とし,タオル等も汚れない限り交換しない.食器やトイレ等は専用のものを用意し,トイレを他猫と共有しない.猫のストレスを和らげるための手段として,スタッフを専任にして猫に慣らすと良い.ケージ内に隠れ場所を作るのも良い方法である.必要に応じて,上衣,手袋を使用する.犬や騒がしい環境からは別離する.

「猫カリシウイルス(FCV)感染症」

 FCVは環境中で抵抗力が強く28日間生存する.アルコールでも条件によって不活化されるが2 000 ppmの次亜塩素酸塩(100倍のビルコンSに相当)の使用が望ましい.塵埃(じんあい)による空気感染や間接接触感染に対しては環境消毒が主となる.スタッフの手指消毒が不十分な場合や,衣服や靴等に付着したウイルスは容易に拡大する.

「猫ヘルペスウイルス1(FHV-1)感染症」

 FHV-1は環境中での抵抗性は弱く,通常の洗剤で不活化される.しかし,鼻汁や唾液に覆われていると消毒剤が浸透せず,最大18時間も活性が持続する.そのため,鼻汁など汚染物の物理的除去が最大の消毒法となる.感染力が強いため,スタッフの手指消毒が不十分な場合や,衣服や靴等に付着したウイルスは容易に拡大する.

「クラミジア感染症」

 クラミジアは外界では生存できないが,感染後,結膜から60日間の排泄が認められ,持続感染になる猫もいる.実験では215日までC. felisが分離されている(6).結膜炎を有する猫が他の猫に接触する事を禁止し,過去に結膜炎の病歴がある猫を触った後の手指消毒が極めて大事である.

3.    子猫がグッタリしているときの対応について

 子猫が母猫とはぐれて迷子になったり,ミルクを飲めない状況が続くと脱水し,子猫は体温を維持できないため低体温となる.血糖値が低下すると活動が抑えられ,ひどい場合は痙攣発作を起こして死亡する.

「子猫の脱水症」

子猫は脱水に陥りやすい.新生猫はミルク摂取量が足りなかったり,過剰な水分喪失で脱水に陥る.成猫に比べて体重当たりの水分構成比が高く,未成熟な腎臓,肺,皮膚からの水分喪失量が大きい.新生猫の水分要求量130-220 ml/kg/24hrに対して,成猫50-65 ml/kg/24hrといわれる(2). 

「子猫の低体温症」

 子猫は低体温症に陥りやすい.新生猫の体温調節機能は未発達であり,外界の低気温に対して末梢血管の収縮が不十分である.成猫に比べて体脂肪が少なく,また体重に比べて体表面積が広いことなども体温を失いやすい理由となる.低体温症は胃腸の動きが悪くなり,栄養素の吸収率が低下する.ひどいばあいは,イレウス等を引き起こす.

「子猫の低血糖症」

 子猫は低血糖症に陥りやすい.新生猫のエネルギー要求量は成猫に比べて2-3倍高く,未成熟な肝臓はエネルギー貯蔵量が少なく,エネルギー産生能力が低いことが理由である.

「グッタリしている子猫の対応法」

 まず暖める.段ボール箱やペットケージ等に湯たんぽやヒーターなどを入れる.尿が漏れて身体が濡れて冷えないようにペットシートを重ね,タオルを敷く.動くことができない子猫の低温火傷に注意する.寝床の温度は34-36℃, 湿度は50-60%を維持する.ぐったりとしている子猫は脱水していることが多いので,暖めた乳酸リンゲル液を皮下に補液する.必要に応じて2.5-5%の糖を添加する.血管が確保できたら,40-50 ml/kg/dayで点滴する.ショック時には40ml/kg /hrで点滴する.子猫の糖要求量は成猫の2-3倍もあるため,容易に低血糖に陥る.経口では,暖めた5-10%の糖液(10 mlの水に砂糖を約0.5-1.0グラム)を1時間当たり1-2mlあたえる.50%糖液は肛門から投与するか,昏睡が認められたら口腔粘膜に直接滴下する.衰弱している子猫に冷たい食べ物を与えない.体温が下がり胃腸のイレウスを引き起こすからである.胃腸の動きが悪くなると食べた物が胃腸内で腐敗してガスが発生し鼓腸となる.子猫は生後3か月齢までおおよそ1日あたり22-26 kcal/体重100グラム必要とするので,適切な栄養補給も大事である.新生猫には2-3時間毎にミルクを与える.4週齢まではミルク等の液体で,4週齢を超える頃から離乳食とする.

表1. 猫の上部呼吸器感染症(文献5から引用,改変)

              伝搬様式                  潜伏期間    臨床症状

猫カリシウイルス      飛沫,媒介             1-2日    結膜炎,鼻炎,口腔内潰瘍

猫ヘルペスウイルス1   飛沫,直接,媒介 2-6日    鼻炎,くしゃみ,結角膜炎

Chlamydophila felis     直接                        2-5日    結膜炎

Mycoplasma felis               直接                         3-5日    結膜炎

Bordetella bronchiseptica 飛沫,媒介            1-2日    結膜炎

文献

・  1) Gaskell RM, Dawson S, Radford A. Feline Respiratory Disease. In Greece CE(ed) : Infectious diseases of the dog and cat, 4 th ed. Elsevier. Missouri. 2012, pp 151-162.

・  2) Gunn MD. : Small Animal Neonatology: They look normal when they are born and then they die. World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings 2006.

・  3) Hora AS, Tonietti PO, Guerra JM, et al. Felid herpesvirus 1 as a causative agent of severe nonsuppurative meningoencephalitis in a domestic cat. J Clin Microbiol. 51 : 676-679, 2013.

・  4) Kuger JM, Wise AG, Kaneene JB, et al. Epidemiology of Feline Calicivirus Urinary Tract Infection in Cats with Idiopathic Cystitis. ACVIM 2007.

・  5) Miller L, Zawistowski S, . : Shelter medicin for veterinarians and staff. : Wiley –Blackwell, 2004.

・  6) Wills JM. Chlamydial infection in the cat. PhD Thesis, University of Bristol, 1986.

・  7) 相馬武久.わが国におけるFCV, FHV-1, およびFPLVの疫学データとワクチンについての一考察.VMANEWS. 52 : 55-59, 2006.

16. 子猫の下痢

動物看護師のためになる子猫の下痢

—先生,大変です!子猫がぐったりしてお腹がピーピーですー

Diarrhea in Kittens

太刀川史郎

たちかわ動物病院(神奈川県)

講演の目的

1. 子猫の下痢の原因について

2. 子猫の下痢の看護法について

キーポイント

1.    子猫の下痢の主な原因は,食事と感染症である.

2.    下痢が継続すると,脱水と低体温症を引き起こす.

クライアント指導の要点

1.    子猫は下痢をしやすい.元気で食欲があっても下痢が続く事がある.

2.    原因は食事性,寄生虫性,細菌性,ウイルス性,そして環境要因と多岐にわたる.

3.    下痢が継続すると体力を消耗して死亡することもあるため,動物病院での診察が必要である.

要約

 子猫は下痢をしやすい.離乳期は液体のミルクから固形食に変わる事で胃腸が対応できず,また,母猫の移行抗体が消失する時期と重なるため,様々な感染症に罹患しやすくなり下痢を発症しやすい.下痢の原因は食事性,感染性,環境要因など多岐にわたるため,適切な診断と治療が必要である.下痢が継続すると脱水,低体温症などでぐったりとしてしまう事もある.本講演では,子猫の下痢の原因と看護法について学ぶ.

キーワード:子猫 離乳期 下痢 脱水 低体温

子猫の下痢の原因は多岐にわたる(表1)

 子猫の下痢の原因は食事性,寄生虫性,細菌性,ウイルス性,環境要因,そして腸管以外,などがあげられる.子猫の下痢は特に食事が原因となる事が多いので食事内容については詳しく問診する.どのような環境に子猫がいたのか,あるいは現在の環境も重要である.

子猫の下痢を小腸性と大腸性に鑑別する(表2)

 下痢とは,排便頻度の増加,糞便中水分含量の増加,糞便量の増加といった特徴で定義する事ができる.

 下痢が認められたら小腸性と大腸性に鑑別する.厳密に鑑別できない事も多いが,原因と対処法を考える上でとても参考になる.小腸に関連がある場合,一般的に,排便回数の増加はわずかだが,便の1回量が通常より増える.消化および吸収に障害がある場合,脂肪がきちんと消化できずにベッタリとした便になり腐敗臭がする.胃や小腸で出血があると便が黒色となり,ひどい場合はタール状となる.食欲は正常,あるいは普段よりも増える事もあるが,腹痛や嘔吐を伴うと低下する.体重は下痢が継続すると徐々に減少する.

 大腸に関連がある場合,一般的に,1回の糞便量は減るが,排便の回数が増え,便をした後にしぶる姿が見られることもある.しぶるというのは,便が出た後,もしくは便が出ないのに,排便の姿勢でいつまでも力んでいることである.時に液状の便を漏らしてしまうこともある.黄色のドロッとした半透明な粘液や,新鮮血を思わせる明るい赤色の出血が見られることも多い.出血は,下痢便全体に混ざる事もあるし,便の最後や表面に付着する事もある.食欲は正常だが,しぶりがひどい場合や,腹痛や嘔吐があると低下する.

子猫の下痢を急性と慢性に鑑別する

 急性の下痢は,環境,食事,異食,感染,寄生虫などを原因とすることが多いため,飼育指導や食事指導,対症療法で軽快しやすい.下痢を繰り返したり,状態が悪化する場合は,積極的な検査治療をすみやかに行う.

 慢性の下痢(表3)は,治療しても繰り返し,2-3週間以上継続するものを慢性とする.慢性下痢は小腸性,大腸性に鑑別すると原因や治療法を考える助けとなる.慢性期間が長く重症化すると鑑別できない事もある.

子猫の下痢に対する問診のポイント(表4)

 子猫に下痢が見られたら,予防歴,環境,性格,同居動物,食事(種類,回数,変更),異食について問診し,ついで下痢がいつから(急性か慢性か),どのような(小腸性か大腸性か),治療歴,嘔吐,食欲の有無について診察前に問診すると良い.慢性の下痢症と判断した段階であらためて問診をし直す.

子猫の下痢の検査について

 子猫に下痢がみられたら,まずは検便する.直接検査,浮遊検査などを行う.便の採材は,便の表面,中など複数箇所で行う.液状便や粘液便では,ジアルジアやトリコモナスなど原虫のトロフォゾイトを探す.動いているのでわかりやすいが,見つからなくても疑わしければ適切な駆虫剤を投薬する.好中球を認めたら,サルモネラ,キャンピロバクター,クロストリジウムなどの細菌による腸粘膜の炎症が示唆されるので適切な抗生物質を投与する.寄生虫卵を認めたら,あるいは疑われたら広域な駆虫薬を投与する.FeLVやFIVなどのウイルス検査を行う.血液検査,X線検査などを行うことも有益である.

子猫の下痢の消毒は塩素系消毒薬が使いやすい

 下痢便を見つけたらすみやかに片付ける.下痢をした子猫はすぐに隔離する.下痢をしている子猫が特定できない場合は,全部の子猫を隔離する.感染症の場合,母猫の移行抗体が消失する時期が子猫によって違うので,発症に時間差があるし,他猫に感染させてしまう.強い子猫は症状が出ないまま病原物質を排泄している事もあるので,症状が認められなくとも検便は必須であり,排便したらすぐに処分する.猫が複数いてトイレを共有している場合は,病原物質を再感染していつまでも感染が続く事がある.排泄した便だけをとるのではなく,トイレであれば周囲の砂ごとごっそりと処分する.定期的に全部の砂を交換し,トイレの容器はこすり洗いをして熱湯をかけ塩素系消毒薬で消毒する.塩素は次亜塩素酸ナトリウム(表5)が使いやすい.市販されている塩素系漂白剤を使用することができるが,塩素濃度は5%と10%とあるので希釈時に確認する.ビルコンS®(表6)は動物病院で広く使用されている塩素系消毒薬である.寄生虫卵には塩素系消毒薬と温水を使用する.回虫卵は40℃程度の温水ですぐ死滅するが,コクシジウムのオーシストは100℃の熱湯でなければすぐには死滅しない.いつまでも寄生虫を駆除できない時は,しばしば再感染が原因であるので,トイレや環境の消毒について再考する(表7).

子猫の下痢で脱水を起こす

 ぐったりとしている子猫は,脱水,低体温症に注意しなければならない.子猫の体内の水分含量は成猫に比べて多く,一般に成猫60%に対し,子猫は80%以上と言われる.皮膚の角質層が薄く,体重に対する対表面積の割合が大きく,新陳代謝が高く,体脂肪が少ないといった理由から水分要求量も成猫よりも多いので,脱水の影響を極めて受けやすい.

子猫の下痢で体温が低下する

 子猫が嘔吐下痢をするたびに体温が奪われ,吐瀉物や下痢便が身体に付着し濡れる事でさらに体温は低下する.子猫は内部体温を調節する機能が未熟で環境温度の影響を受けやすいため,母猫や同腹子と離れてしまうとすぐに低体温になる.体温が低下すると吸飲反射が低下し,強制的に水分を経口投与しても嚥下できずに気道などに誤嚥したり,胃腸の動きが悪くなる事で吸収不良となり,さらに下痢を誘発し,麻痺性のイレウスを引き起こすこともある.

子猫の下痢の看護は暖めることが大事

 子猫の下痢を認めたら暖める.寝床の温度は24-30℃,湿度50-60%とする.下痢をした子猫は隔離されるので,それまで母子と一緒にいた場合,低体温に注意する.床ヒーターや湯たんぽを使用する.エアコンは寝床が乾燥しやすい.乾燥することによって子猫の眼や口中も乾燥し急速に脱水もすすむので湿度の維持に注意する.

子猫の下痢の食事

 離乳期に下痢する事が多いのは,液状のミルクから固形食に変わる事で,胃腸の消化機能が十分に対応できないからである.消化は胃液,胆汁,膵液,腸液などの適度の分泌に加え,消化された栄養を吸収するための腸絨毛などの生理的機能,食べ物を送る腸の蠕動運動などの機械的機能とあわせ,整然と協調された胃腸管の成長が必要で,さらには腸管内の細菌バランス,移行抗体の消失に伴う細菌,ウイルス,寄生虫などの存在が便形成に大きく関与する.このように子猫の便が形成される過程は複雑で,下痢の原因は多岐にわたるため,それを特定するためには時間もコストも手間もかかる.しかし,子猫の下痢のほとんどは食事に起因するため,子猫に下痢が認められたら,まずは,現在の食事を変更する事からはじめてみる.ミルクから離乳食に変える事で下痢を

したと思われるのであれば,ミルクに戻してみると良い.便が落ち着いたら,少量の離乳食を便の状態を確認しながら与える.腸内細菌叢を整えるためにプロバイオティクスを混ぜるのも良い.授乳中に下痢がみられたら,ミルクの1回量,回数,種類,温度などを検討し,ミルクの作り置きや乳首の使い回しをやめ,ミルク瓶と乳首の消毒をしっかりとする.ミルクや固形食に不安がある場合,電解質液などを一時的に使う事もある.

表1. 子猫の下痢の原因

食事

 食事の変更

 不適切な食事(質,量)

 離乳食,人口ミルク

寄生虫(ノミ寄生の有無)

 回虫

 条虫

 鞭虫

 鉤虫

原虫

 コクシジウム

 ジアルジア

 トリコモナス

細菌

 キャンピロバクター

 サルモネラ

 クロストリジウム

 大腸菌

ウイルス

 パルボウイルス

 猫腸コロナウイルス

 猫伝染性腹膜炎ウイルス

 猫免疫不全ウイルス

 猫白血病ウイルス

 

その他

 環境(温度,衛生状況)

 腸閉塞  

 異物 

 中毒

 薬剤 

 肝臓病

 膵臓病

 腎臓病

 敗血症

表2.小腸性下痢と大腸性下痢の鑑別

所見       小腸性下痢/大腸性下痢 

排便  頻度      正常・軽度増加/増加

排便困難・しぶり なし/あり

便を漏らす    まれ/あり

便の性状  量    増加/減少

      粘液・鮮血   なし/あり

         脂肪便  消化・吸収不良時/なし

   メレナ  あり/なし

随伴症状 体重減少  あり/経過が長いと

嘔吐   あり/時に

       食欲    低下〜亢進/正常〜低下

腹鳴・鼓腸   あり/なし

表3. 慢性下痢を起こす主な疾患

食事性

環境性

薬剤・毒物

小腸疾患(寄生虫性,細菌性,ウイルス性)

大腸疾患(クロストリジウム,トリコモナス,鞭虫,FIP)

膵臓疾患

肝臓疾患

内分泌疾患

腎臓疾患

感染症(敗血症,腹膜炎)

表4. 子猫の下痢に対する問診のポイント

入手経路:拾った,もらった,ペットショップ,ブリーダー,里親

育児環境:初乳を飲んでる,母乳で育った,人口ミルク

現在の環境:室内のみ,外出する,どこの部屋,自由,ケージ,室温,湿度

トイレ:砂の形状,トイレの数,場所,他猫とトイレを共有

ワクチン:いつ(                ),メーカー(                                                      )

駆虫薬:いつ(                    ),商品名(                                                          )

性格:弱い,おとなしい,元気,活発,恐がり,神経質

同居動物:兄弟猫,母猫,同居猫,犬,人(小さな子供,老人),他

食事:ドライ(                    ),缶(                  ),オヤツ(                          )

食事の回数(                        ),量(                  )

異食:人の食物,ビニール,ボタン,ひも,タバコ,化粧品,花植物など

下痢はいつから(                ),繰り返している

下痢は小腸性,大腸性(表2を参照)

治療歴:投薬(                                       ),食事の変更(                                     )

検査歴:X線(                       ),検便(                                                                 )

体重:変わらず,増加,減少

嘔吐(                                                    ),脱水(                                              )

食欲(                                                    ),元気(                                              )

その他:ノミがいた,けいれん,呼吸があらい(                                           )

子猫の下痢の原因としてご家族が思い当たる事(                                        )

表5. 次亜塩素酸ナトリウムの用途別濃度

用途  濃度  5%液希釈法  10%液希釈法 備考

手指・皮膚 0.01-0.05% 100-500倍 200-1000倍 禁:粘膜

医療器具 0.02-0.05% 100-250倍 200-500倍 1分以上浸漬

ケージ・環境 0.02-0.05% 100-250倍 200-500倍 1分以上浸漬 

食器・タオル  0.02%  250倍  500倍  5分以上浸漬

パルボウイルス 0.1-0.5% 10-50倍 20-100倍 1時間以上浸漬

表6. ビルコンS(バイエル薬品)の用途別濃度

100倍 パルボウイルス, カリシウイルス,真菌,芽胞菌の消毒

500倍    一般ウイルス,一般細菌の消毒

禁:生体/アルカリ性物質との併用.希釈液は都度調整し水道水を使用

表7. 微生物/寄生虫の消毒

寄生虫

 回虫:40℃温水

 鞭虫:乾燥や日光に弱い

 鉤虫:感染子虫は次亜塩素酸ナトリウムで死滅

原虫

 コクシジウム:熱水(100℃ 1-2秒,75℃ 3-5分)

 ジアルジア:乾燥に弱い,0.3%次亜塩素酸ナトリウム

 トリコモナス:乾燥に弱い

 トキソプラズマ:熱水(70℃,10分),0.5%次亜塩素酸ナトリウム

 

ウイルス

 猫パルボウイルス:熱水(98℃,20分),0.5%次亜塩素酸ナトリウム, 10%ポピドンヨード

 猫カリシウイルス:熱水(80℃,10分),0.02-0.125%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,10%ポピドンヨード

 猫ヘルペスウイルス,猫コロナウイルス,猫白血病ウイルス,猫免疫不全ウイルス:熱水(80℃,10分),0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,10%ポピドンヨード

真菌

 皮膚糸状菌:熱水(80℃,10分),0.05-0.1%次亜塩素酸ナトリウム

 カンジタ,クリプコッカス:熱水(80℃,10分),0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,0.1-0.5%グルコン酸クロルへキシジン,10%ポピドンヨード

細菌

 クロストリジウム(芽胞菌):0.5%次亜塩素酸ナトリウム

 大腸菌,黄色ブドウ球菌,緑膿菌,クラミジア:熱水(80℃,10分),0.02-0.1%次亜塩素酸ナトリウム,70-80%エタノール,70%イソプロパノール,0.1-0.5%グルコン酸クロルへキシジン,10%ポピドンヨード

17. 離乳期の正しい哺育とよくある疾患

2017日本臨床獣医学フォーラム(ホテルニューオータニ東京)2017.9.17

ためになる子猫学

離乳期の正しい哺育とよくある疾患

How to Care for Orphaned Kittens

太刀川史郎

たちかわ動物病院(神奈川県)

講演の目的

1.    離乳期の正しい哺育について

2.    離乳期によく見られる疾患について

キーポイント

1.    子猫の致死率は離乳期に集中するので正しい哺育について学ぶ

2.    離乳期によく見られる疾患について学ぶ

クライアント指導の要点

 保護された子猫は感染症や栄養失調で衰弱していることが多い.低体温の子猫は飲み込む力が低下しているので誤嚥しやすい.飲めたとしても腸管の動きが低下しているので下痢や腸閉塞を起こしたりする.まずは暖めてから少しずつの水分や缶フードなどを与え,来院するようにさせる.

要約

 保護された子猫が最初に来院した時,栄養失調で衰弱している可能性が高く,その原因に感染症などに罹患していることが考えられる.低体温症の子猫はまず暖め,それから水分や子猫の離乳用缶フードなどを少しずつ経口的に与える.同時に子猫の感染症が他猫に拡大しないように,感染症や寄生虫ごとに対する消毒の知識も大事である.本講演では子猫の正しい哺育と,子猫に多い様々な感染症や寄生虫疾患について学ぶ.

キーワード:子猫 哺育 よくある疾患

離乳期の正しい哺育

「最初に子猫を扱うときの心得」

 保護された子猫が来院したら,診察台を消毒し,清潔なタオルなどで子猫を包むようにする.2週齢くらいまでの子猫は体温調節が未熟で被毛も薄いため低体温症になりやすいので,子猫を濡れたところ,汚れたところ,冷たいところに置いてはならない.子猫の状態が悪い場合は,ヒーターなどを用意し子猫を暖める.遺棄(いき)された子猫は,衰弱し,糞尿などで身体が汚れ,低体温症に陥っていることがある.夏など気温が高い時期は熱中症などで高体温となりグッタリとしていることもあるので,状態をよく見極める.ノミなどの外部寄生虫,ウイルス性疾患などに感染している可能性もあるので,診察台と子猫の間に使い捨てができるような布や紙などを拡げる配慮をする.必要があればディスポのグローブやエプロンなどを着用する.

 子猫を取り扱う前に,必ず石けんなどを使用して手を洗い,アルコール系あるいは塩素系消毒薬などで消毒をする.手を洗う時,指先,爪の間,指の付け根など洗い残しをしやすい場所に留意する.新生子猫は,頚などが柔らかいので片手で急に持ち上げたりせず,両手で包み込むように抱き上げる.頸椎損傷など容易に起こりうるので子猫を振ったり,乱暴に扱わないように十分に注意する.新生子猫が診察台から落ちたりしないように目を離さない.その場を離れるときは箱やケージに必ず入れる.新生子は歩くことはできないが前肢を使った移動は意外と早いし,生後3週齢を過ぎればダッシュやジャンプもできるので油断しない.

「子猫の正しい成長(表1)」

 子猫の出生時の体重は85-110グラムで,母猫の栄養状態が悪い場合や,同腹子が多い場合,出生時体重は平均よりも少なくなる傾向がある.同腹子が1-2頭と少ない場合は逆に体重は重くなる.品種間でもばらつきがあり,コラットは平均73グラム,メインクーンは平均116グラムという調査結果もある.正常な子猫は1日10-15グラムずつ増加するので,1週間当たり50-100グラム程度の増加を認める.出生時体重が75グラムに満たない場合,死亡率が増加する(Gunn. 2006).出産直後は,まぶたが閉じており,生後7-14日程で開眼する.威嚇反射や瞳孔対光反射などの正常な視覚は4週齢以降で認められる.虹彩の色も4週齢頃から徐々に変化する.乳歯は,2週齢程度から切歯および犬歯が萌出する.3-4週齢で犬歯が伸び始め切歯よりも長くなり牙に変化していく.5週齢で前臼歯が萌出し,6週齢を超える頃にはしっかりとした臼歯となりドライフードなどを食べることが可能となる.

「子猫を保護したら暖める」

 保温器具はタオルで包んで直接子猫に触れないようにする.保温器具は,電気湯たんぽ,お湯を入れたペットボトルなどを使用する.子猫は2週齢まで体温調節ができないので保温器具を使用する.冬場であれば4-6週齢までは保温器具が必要である.しかし,子猫を狭い箱などに入れて保温器具を使用すると,逃げられずに低温火傷を起こすことがあるので注意する.遺棄された子猫の多くは低体温で来院するため,食事を与える前に暖めることが重要である.低体温のままだと,吸引力も嚥下力も弱いので誤嚥しやすい.腸管の動きも悪いので無理に飲ませると下痢や腸重責の原因となる.子猫を暖めても動かない場合は,脱水や低血糖などを起こしている可能性があるので獣医師の診察が必要である.

「子猫にミルクを与える」

 ミルクは猫専用ミルクを与える.粉でも液体でもどちらでもかまわない.牛乳は下痢の原因となるので与えない.ミルクの温度は35-38℃に調節する.子猫が飲む前にミルクが熱すぎないか確認する.口中や食道を火傷するとミルクを飲まなくなり,衰弱する原因となる.胃の容量は4-5ml/ 体重100gだが,栄養不良の子猫の胃は萎縮しているので飲める量が少ない.空腹の子猫はお腹がパンパンに膨れるまで飲んでしまい,嘔吐や誤嚥の原因となるので腹8分目でやめるようにする.急速に飲むとミルクをいつまでもほしがるようになるのでゆっくりと飲ませるようにする.哺乳瓶の乳首から飲むことに抵抗を示す子猫がいる.週齢が高い程その傾向があり,人口ミルクの味,ゴムの乳首の感触が母猫のそれと違うことが原因だと思われる.それでも,少しずつ飲ませると飲むことができるようになる.乳首は,子猫の犬歯と犬歯の間で咥えるようにする.口の中で乳首が密着し,ミルクをちょうど良い量で飲むと耳が後ろに反っくり返り,パタパタと動くようになる.鼻からミルクが吹き出す場合は,ミルクを飲むスピードが速くないか,口蓋裂などがないかどうか注意深く観察する.どうしても乳首から飲めない場合,針のついていない3mlのシリンジを利用する.ミルクは2-4時間ごとに与えるが,1回に飲む量が少ない場合,2週齢までは深夜26時で最後とし,早朝6時から開始することもある.

「子猫を離乳させる」

 子猫が3-4週齢になったら固形食を与え始める.子猫用の離乳食が缶フードとして各メーカーから販売されている.離乳食は,最初はほんの少しだけ与える.液体から固形食に変わることで軟便となることが多いので最初からたくさん与えないようにする.離乳の適齢でも栄養不良の状態の場合,消化管の発育が未成熟で軟便となる.その場合は,離乳食の開始を少し遅らせる.同腹子間でも発育は違うので,離乳食の開始日は発育を見ながらそれぞれ変えるとよい.離乳食の食べが悪い場合は,しばらくミルクと併用する.

離乳期によく見られる疾患(表2)

「離乳期は感染症になりやすい」

 離乳期は,母猫の移行抗体が消失する頃で,様々な感染症や寄生虫性疾患の感染を受けやすい.子猫が他猫と接触したり,成猫とトイレを共有したり,不特性多数の人間が不用意に触ったり,スタッフの消毒の意識が低いと感染症のリスクが高くなる.

「子猫の上部気道疾患」

 くしゃみ,鼻水,咳,目からの分泌物,舌潰瘍,発熱などが見られる猫は,上部気道疾患に罹患している可能性がある.猫同士の直接接触,分泌物に接触,食器などの共有で感染する.人が感染させていることも多い.これらの症状が認められる猫を触った手で他猫を触ったり,あるいは同じタオルなどを使用することで他猫に感染が拡大する.これら症状が見られたら,獣医師の診察が必要である.自然治癒することは少なく,放置すると重篤となり,角膜と結膜が癒着したり,鼻閉でミルクが飲めなくなったり,食事がとれなくなって衰弱する.上部気道疾患に多いヘルペスウイルスI型やクラミジアなどは,通常使用される抗生物質は効かないので,適切な点眼薬や投薬が必要である.必要に応じて,点滴など支持療法が必要となる.新生児結膜炎は,生後すぐに感染し,閉じた瞼(まぶた)の中に多量の粘液〜化膿性浸出液がたまり,瞼が膨張する.開眼して排膿および治療しなければ瞼球癒着や角膜-結膜癒着を起こす.重症例では眼球の発達障害や視覚障害がみられる.通常,生後1週間を過ぎた頃に自然に開眼するので,開眼せず瞼が腫脹しているような場合は強制的に開眼する.

「子猫の消化器疾患」

 腸内寄生虫は下痢や発育障害の原因となる.正常に見える便であっても検便をして虫卵を確認する.猫回虫は幼猫期に感染が多く見られる.直接経口感染,泌乳感染,待機宿主感染がある.胎盤感染は犬でみられるが猫はない.虫卵が排泄された後,感染力を持つ幼虫形成卵の発育までに犬で2週間,猫では10-30時間といわれる.猫では幼虫形成卵に発育する時間が犬よりも短いため,トイレにいつまでも他猫の便があったり,便の取り残しがあると感染のリスクが高くなる.猫の便をトイレから取り除くときは,便のみをとるのではなく,周囲の砂ごと処分するとよい.回虫卵の消毒は塩素では効果ないが,40℃以上の温湯で洗うと除去できる.

 便に粘液や出血が見られたら採材し,直接鏡検で原虫を探す.トリコモナスやジアルジアの栄養体は動いているためすぐに見つけられるがシストに変化していたら異物との見分けはつかない.イソスポーラなどコクシジウムも特徴的なので見つけやすい.コクシジウムの消毒は難しく,75℃で3-5分間加熱する必要がある.駆虫剤もあまり効果なく,再感染を繰り返す.クロストリジウムやキャンピロバクターなどの細菌が多数存在していないか注意する.

 パルボウイルスは感染力が強い.糞口感染で伝播するが,一般的には靴や衣類についた汚染物を介して運ばれる.環境にも強く,野外において数ヶ月間感染性を保持する.熱にも強く,不活化には90℃で10分間加熱する必要がある.パルボウイルス感染が疑われるときは,衣類乾燥機だけでは活性は失われないので,次亜塩素酸ナトリウム(家庭用漂白剤30倍希釈:表3)を使用する.パルボウイルス感染症の典型的な症状は下痢であるが,子猫を注意して観察していると,その前に嘔吐,元気消失が先行することが多い.パルボウイルス感染症に対する子猫の死亡率は高く,幼齢なほど重篤である.猫の腸コロナウイルスのような腸管病原性ウイルスの重感染は病気をより悪化させる.

「子猫の外部寄生虫疾患」

 大量のノミは子猫に命を脅かす貧血をもたらすことがある.猫に安全なノミ駆除のシャンプーや製剤を使用する.子猫が衰弱しているようなときは,ノミ取りクシなどでノミ成虫を除去する.

表1.子猫の正しい成長(Susan. 2011から引用・改変)

体重:出生時 90-110 g

直腸温:出生直後 36-37 ℃

直腸温:1か月齢 38 ℃

心拍数:2週齢 220-260 拍/分

呼吸数:出生直後 10-18 回/分

呼吸数:1週齢 15-35 回/分

尿:比重 < 1.020

尿量 2.5 ml/ 体重100g/ 日

飲水 13-22 ml/ 体重100g/日

カロリー要求量 15-25 kcal/ME/体重100g/ 日

胃の容量 4-5ml/体重100g

表2.子猫で重要となる病原体(Susan. 2011から引用・改変)

臨床徴候の部位 一般的な病原体

上部・下部気道疾患 猫ヘルペスウイルスI型

           猫カリシウイルス

           Bordetella bronchiseptica

           Mycoplasma spp.

           Chlamydophila spp.

消化器疾患     汎白血球減少症

           大腸菌群

           Tritrichomonas foetus(トリコモナス)

           Giardia spp.(ジアルジア)

           Isospora spp.(イソスポーラ)

           Ancylostoma spp.(鉤虫)

           Toxocara spp.(回虫)

全身性疾患     猫白血病ウイルス(FeLV)

           猫免疫不全ウイルス(FIV)

           猫伝染性腹膜炎ウイルス(FIPV)

           Toxoplasma spp.(トキソプラズマ)

           グラム陽性菌(Streptococcus spp. Staphylococcus spp.)

           グラム陰性菌(Escherichia coli. Salmonella spp.)

表3.次亜塩素酸ナトリウムの用途別濃度

用途     濃度     5%液希釈法 10%液希釈法  備考

手指・皮膚  0.01-0.05% 100-500倍      200-1000倍    禁:粘膜

医療器具   0.02-0.05% 100-250倍      200-500倍     1分以上浸漬

ケージ・環境 0.02-0.05% 100-250倍     200-500倍     1分以上浸漬

食器・タオル 0.02%     250倍           500倍             5分以上浸漬

パルボウイルス0.1-0.5%   10-50倍        20-100倍       1時間以上浸漬

Gunn Moore D: Small Animal Neonatology: They look normal when they are born and then they die. World Small Animal Veterinary Association World Congress Proceedings 2006.

Susan Little: Feline pediatrics: How to treat the small and the sick. Compendium: Continuing Education for Veterinarians. 2011.

18. 子猫管理

2023.7 WJVF愛玩動物看護師講演(ホテルニューオータニ大阪)

子猫管理

太刀川 史郎 たちかわ動物病院(神奈川県)

講演の目的

1) 子猫の危険な時期について理解する.
2) 子猫は低体温症,脱水症,低血糖症に陥りやすいので注意する. 3) 子猫に哺乳するときの注意点の紹介

要約

子猫にとって危険性が高いと考えられる時期は,一般的には 周産期,あるいは移行抗体が減少し始め離乳期と重なる生後 4-6 週齢頃と考えられる.周産期とは妊娠後期から出産後数日 までを意味しており合併症妊娠や分娩時の新生児仮死など,母 猫と胎児,新生児にとって生命の危険性が高くなる時期である. 母猫の栄養状態が悪いと胎児および新生児の成長に必要な栄 養を与えることができない.他に感染症の有無,出産後の環境 などで子猫の生命は危険にさらされる.母猫が落ち着いて育児 をできない環境で出産した場合,育児を放棄することがあり,育 児を放棄された新生児は自力で生きていくことができない.母 猫の移行抗体は生後 4-6 週齢頃から減少するため子猫の感染 症に対するリスクが高くなる.この時期は離乳期とかさなり,液 体の母乳から個体の離乳食へと変わることで子猫が十分な量を 食べられなかったり,食べても消化不良を起こしたりすることも ある.十分な量の食事を摂れないときや消化不良で下痢などを 起こすと子猫の体調は崩れてしまう. この時期に上手に適応できない子猫は不幸にして衰弱し死に 至る.

哺乳期の子猫の体温は成猫よりも低いため母猫や同腹子と離 別してしまうと低体温症に陥りやすい.低体温になると動きが緩 慢になりミルクを吸入する力も弱くなり胃腸の働きも悪くなる. ミルクが飲めないと子猫は脱水に陥りやすい.その原因とし て考えられることは,腎臓の尿濃縮能が未熟なため水分の再吸 収能力が低い,表皮角質層が薄く体重に比べて体表面積が広い, 新陳代謝が活発だが自分で水分を補給できない,などが挙げら れる.また,子猫は成猫よりも体内水分量が多い割に,水分の 保持能力が低いことから脱水の影響を受けやすい.脱水がひど くなると循環血液量の減少を引き起こし混迷,脱力,低体温とな り生命活動に危険を及ぼすようになる. 子猫がミルクが飲めない状況が続くと低血糖症に陥りやすい. 肝臓や筋肉に貯蔵できるグリコーゲンの量が少ないためミルク

猫医学

が飲めなくなると血糖値を維持することが難しくなる.重度の低 血糖症に陥ると混迷,脱力,時に痙攣が起こることがある. このようなことから子猫を保護あるいは入院させた時は,保 温が必要で十分な量の猫専用ミルクを投与する.ミルクを投与 できない時は低血糖症に注意する.

子猫に哺乳するときは牛乳などは投与せず猫専用のミルクを 投与する.牛乳は猫の母乳に比べ乳脂肪,乳糖,蛋白質の比率 が少ないので投与すべきではない.猫専用ミルクであれば液体 製剤でも粉製剤でもどちらでも問題はない.子猫に人工ミルク を投与する時,最初は抵抗することが多いが,無理しないように する.抵抗する理由として考えられるのは猫専用のミルクとママ 猫のおっぱいの味とが違うこと,ゴムあるいはシリコンでできた 乳首はママのそれとは感触が違うこと,人間に対する警戒心,な どが挙げられる.なかなか飲めないにも関わらず,口の中にミル クを入れると鼻から吹き出してしまい,ミルクが気道に混入して しまうことがある.飲めない場合,栄養チューブを使うこともあ るが過剰に入れすぎると胃からミルクが逆流して気道に入り込ん で誤嚥性肺炎の原因となる.十分な量のミルクを飲めない子猫 には,その理由を考えながら,少量ずつ頻回に投与することが 必要である.通常,生後 2 週齢くらいまでは 2-3 時間ごと,そ れを超えると 4 時間ごとの哺乳が必要である.哺乳の 1 回量は 体重 100g あたり 4-5ml が正常と言われるが,ミルクを飲め なかった子猫の胃は小さくなっているので少量からはじめ,自力 で飲めるようになれば徐々に増やすようにする.

利益相反状態の開示

今回の講演について,筆者に開示すべき利益相反関係にある 企業等はない.