たちかわ動物病院Top/メディア一覧 ニャンともツラい猫の膀胱炎

2010年9月18日 日本臨床獣医学フォーラム市民講演(ホテルニューオータニ東京)


「ニャンともツラい猫の膀胱炎」-オシッコが赤ワイン色に染まる-

PURR-sistent Cystitis

  Urine Turns Red Like Wine

太刀川史郎(たちかわ動物病院)

神奈川県秦野市西大竹123−4


講演の目的

1)猫の膀胱炎のサインについて

2)膀胱炎の治療について


キーポイント

1)猫の膀胱炎のサインは「頻尿」、「血尿」、「不適切な排泄」などがある

2)猫の膀胱炎の原因はよくわかっていないため、治療は難しく長期化する


クライアント指導の要点

1)膀胱炎を繰り返すときは投薬や食事療法をお勧めする

2)尿が出ないときは緊急事態なのですぐに来院していただく


要約

 猫の膀胱炎は「下部尿路疾患(FLUTD)」と呼ばれるが、 FLUTDの3/5は原因を特定できない「特発性膀胱炎(FIC)」であることがわかってきた。 FICのほとんどは様子を見ているうちに一過性に終わってしまうが繰り返すうちに慢性化する。 1/5にストロバイト結晶などの「尿石症」を認めるが、尿石症と膀胱炎の関係は必ずしも明確ではない。残りは感染症、腫瘍、神経的問題、機能的問題、行動的問題などがある。


キーワード

猫、特発性膀胱炎、頻尿、赤ワイン色



  1. 1.膀胱炎のサイン

(頻尿とは)

 頻尿とは、トイレに何度も行き、そしてトイレでしゃがんでもほとんど尿が出ないか出ても少量の状態を言う。必要以上にトイレを引っ掻き回したり、トイレの前後に落ち着きなく大声で泣いたりウロウロしたりすることもある。頻尿は膀胱炎のサインと考えられ、特発性膀胱炎、尿石症、感染、腫瘍などを原因とする。糖尿病や腎臓病など尿量が増えてトイレに何度も行くのは「多尿」と言い、頻尿と区別される。頻尿と多尿は病院で尿検査することで違いがわかる。


(不適切な排泄とは)

 いつもはトイレにきちんと尿ができるのに、洗面台やお風呂場など水が流れるような場所に尿をしてしまうことがある。座布団やソファー、布団などにしてしまうこともある。トイレの周りに尿を垂らしてしまうこともある。発情期のスプレーのように壁に立ったまま尿をかけることもある。これらを不適切な排泄といい、「猫が粗相(そそう)をする」と表現したほうが理解しやすいかもしれない。頻尿により粗相をする事が多いが、環境の変化や精神的なストレスなどによる行動的な問題でおこる事もある。尿道が塞がったり神経的な異常で尿が出にくくポタポタと尿が垂れてしまっている事もあるので詳しい診察が必要だ。


(血尿とは)

 重度の頻尿や不適切な排泄が見られるときの尿を注意して見ると、わずかに赤色がついた尿をすることがある。尿全体に赤色がついていることもあるし、血の塊が尿の中にみえることもある。尿道が詰まって尿が出なくなると膀胱が破裂寸前まで拡張して粘膜の血管が切れ、赤ワイン色の尿をすることがある。


(お腹をなめる)

 お腹に違和感があるので、お腹をなめて毛が薄くなっていることがある。 お腹を過剰になめるのは膀胱炎、腸炎、ストレス、皮膚アレルギーなどが原因に考えられる。


  1. 2.膀胱炎の治療

(尿石症と膀胱結石)

 尿石症の診断は、尿検査、レントゲン検査、超音波検査で比較的容易だ。通常、大きな結石は膀胱粘膜を傷つけ血尿や痛みの原因となるので外科手術が必要である。しかし、結晶状に結石が小さい場合は、臨床的判断に注意が必要である。なぜならば、結晶状の尿石が認められてもそれが膀胱粘膜を傷つけたり血尿の原因になるとは考えにくく、膀胱炎の症状を伴っていたとしても直接に関連性があるのかどうか疑問とされる。ただし、何らかの原因により膀胱に炎症や出血があり、そこに尿石(結晶)がある場合、特に雄猫では結晶と白血球と粘膜上皮などが塊(尿道栓子)となり尿道を塞いでしまう事もあるため、食事療法による尿石の積極的な除去が必要となる。


(特発性膀胱炎)

 症状が一過性であるため診断は難しい。 頻尿、不適切な排泄、血尿、有痛性排尿がみられたら、常に特発性膀胱炎を疑う。 検査で結晶が見られても、結晶が膀胱炎の原因となっているというよりも、何らかの原因で膀胱に炎症があり、そこに尿石症が合併すると考え、尿石症の治療とともに膀胱炎の真の原因を追及する事が大事である。猫の場合、環境や精神的ストレスが特発性膀胱炎の発症要因に関連する事も多いので家庭環境や食事についてご家族と主治医で話し合う事も大事である。 治療はストレスの除去と食事療法からはじめ、繰り返す場合は、鎮痛剤および消炎剤などの投薬治療が必要だ。

© 太刀川 史郎 2013