7.腫瘍(しゅよう)


 中齢から高齢になると皮膚にできものができることが多くなります。 動物の体に触ったときに、手に何かが触れて気づくようです。病院での検査は、最初に細い針を刺して細胞を調べます。この検査を細胞診といいます。細胞診で悪い細胞が見つかれば、できるだけ早く手術した方がよいでしょう。悪い細胞が見つからなくとも、針で吸った細胞だけの検査なので、悪性ではないと言い切ることができません。できものは小さなうちに手術で切除することが基本で、切除したものを病理組織検査をして悪性か良性かを判断します。犬猫の皮膚のできものでよくみられるものを紹介します。


7-1.犬の腫瘍


7-1-1.毛包嚢胞(もうほうのうほう)

直径0.5-2.0cm程の腫瘤(しゅりゅう;できもののこと)で皮膚の中に塊を感じることができます。動かすと皮膚と一緒に動きます。腫瘤がつぶれると中からクリーム色の腐ったチーズのようなものが出てきます。出血することもあります。大きなものや,破裂したものは外科的に切除したほうがよいでしょう。シーズー犬など体質で多発することもあります。また汗腺の嚢胞は中に透明の液体を含み,やはり外科的に切除するのがよいのですが,定期的に嚢胞中の液体を抜くだけの場合もあります。


7-1-2.皮脂腺過形成

汗腺の一種の脂腺がたくさん増えすぎて塊になることがあります。年をとるとなりやすく,多発する傾向があります。大きさも小さく腫瘍ではありません。ただ,出血や化膿がみられたら外科摘出したほうが良いでしょう。


7-1-3.皮脂腺上皮腫

汗腺の一種の脂腺が腫瘍化して塊となって増えたものです。上の皮脂腺過形成は腫瘍ではありませんが,皮脂腺上皮腫は低グレードの悪性腫瘍です。大きさも1cm以上ありますが,多発することは少ないようです。頭によくみられます。早期に外科的に切除するのがよく,再発転移はまれにみられます。


7-1-4.皮脂腺癌

汗腺の一種の脂腺が腫瘍化して塊となって増えたものです。皮脂腺上皮腫は悪性腫瘍ではありますが低グレードのため、発生初期に適切な外科手術で治癒しますが、皮脂腺癌は、悪性度が強い腫瘍であるため、手術をしても再発、転移が見られます。治療の基本は早期発見、早期切除です。非常にまれな腫瘍です。


7-1-5.肛門周囲腺腫瘍

肛門周囲腺過形成、肛門周囲腺上皮腫、肛門周囲腺癌

肛門嚢は肛門の両脇にある1対の袋です。くさい分泌液がたまり,便をしたときに自分の臭いをつけます。動物が互いにおしりの臭いを嗅ぐのはこの臭いを確認しているのです。この腫瘍は男性ホルモンの影響を受けるため去勢手術が同時に必要です。大きい腫瘍の場合,肛門括約筋を腫瘍と一緒に摘出しなければならないことがあり,術後,一時的に、排便を自分でコントロールする事が難しくなることがあります。腫瘤が小さいうちに外科摘出するのがよいでしょう。


7-1-6.肥満細胞腫

犬の肥満細胞腫は全て悪性と考える必要があります。獣医師ならば誰でもこの腫瘍が決して油断のならない悪性腫瘍であることを知っているので,きわめて慎重に治療に当たります。ところが人ではほとんどみられないか,あってもとるに足らない腫瘍であるため人医師に相談した場合,「たいしたことないよ」などと助言されたりします。犬では他の皮膚腫瘍の中でもきわめて悪性の挙動をとるため注意が必要です。治療は基本的には外科摘出ですが,再発転移が頻繁に起こるため広範囲に外科摘出しなければなりません。広範囲に摘出できない四肢などに発生した肥満細胞腫は再発転移が高率に起こります。獣医師によっては、初診で断脚を薦めることもあります。どちらがよいとはいえないため、獣医師とご家族が十分に話し合う時間が必要です。摘出腫瘍の病理検査でグレードを決定し,悪性度によっては放射線療法や化学療法を併用することもあります。


7-1-7.皮膚組織球腫

この腫瘍は頭,特に耳によく発生します。次いで四肢にもよくみられます。外科切除で術後は良好です。しかし、悪性の場合、経過が早く、治療法がほとんどありません。多発している場合、皮膚組織球症というべつな疾患が疑われます。内臓に組織球性の腫瘍塊がみられたとき、悪性組織球腫という診断になり致死的です。


7-1-8.脂肪腫

この腫瘍は胸,腹でよく発生がみられます。さわると柔らかく,飼い主も「脂肪の塊みたい」といって来院されることが多いようです。ほとんどが外科摘出できるのですが,多発性のため、手術をしても、次から次と腫瘍が発生します。初回の手術は脂肪腫と診断を確定するための手術と考えます。良性腫瘍とわかったならば、次回からは、腫瘍が発生してもすぐに手術せず時間をおくか、数が多くなるのを待つか、大きくなるまで様子を見ることもあります。ただし、浸潤性の脂肪腫の場合,正常の脂肪と腫瘍の脂肪の見極めが難しく,浸潤・再発することがたびたびあります。再発した場合,早期の再手術が必要です。


7-1-9.血管外膜細胞腫

この腫瘍は四肢の関節の近くに発生し,浸潤性に発生するため広範囲の切除が必要です。しかし,四肢では広範囲の切除ができないため,しばしば再発します。再発を繰り返すうちに肺などに転移することがあります。


7-1-10.乳腺腫瘍

悪性の癌と良性腫瘍があります(犬では半分ずつ。猫ではほとんどが悪性の癌です)。針で細胞を検査して良性か悪性かを判定し,外科摘出する範囲を決定します。手術前に血液検査や肺のレントゲン検査が必要です。一個だけ、小さい良性腫瘍が発生していた場合、部分切除することもあります。しかし、ほとんどの場合、腫瘍が発生している側の乳腺を片側全て、もしくは両側乳腺全てを切除するように勧められます。理由は、乳腺腫瘍は多発する傾向があり,良性のものと癌とが混在することが多いのです。今回良性でも,乳腺を残しておくと癌が他の場所に発生する危険性があります。かわいそうですがよく先生と相談し手術方法を決定してください。最初の発情前に、不妊手術をしていれば、かなりの高い率で乳腺腫瘍の発生の予防になりますが、3回目以降の発情後に不妊手術した場合、しない場合と比べて乳腺腫瘍発生率に大きな差はありません。ただし、手術をしてから2年以降に乳腺腫瘍が発生した場合と、2年以内に乳腺腫瘍が発生した場合は、以降の生命予後に影響があるようです。そのような理由から、卵巣の摘出手術も勧められます。


7-2.猫の腫瘍


7-2-1.基底細胞腫

頭と首でよくみられます。外科切除で良好に経過しますが,悪性の基底細胞癌と混在することがあるため,広範囲の外科的切除が必要です。


7-2-2.扁平上皮癌

頭,特に耳でよく発生がみられます。原因は紫外線です。広範囲の外科摘出が必要でそれができないような場所,例えば鼻や目尻などでは再発しやすくなります。耳にできた場合,耳の根本から切除します。早期に摘出できれば再発の可能性は少ないでしょう。口腔内にもしばしば発生します。


7-2-3.線維肉腫

この腫瘍が頭部,背,四肢に発生した場合,十分に広範囲摘出を行っても再発することが多く,手術後もあまり長く生きるのは難しいようです。


7-2-4.肥満細胞腫

猫の肥満細胞腫は犬に比べ発生は少ないようです。腫瘍が1個だけの場合,外科摘出の後,比較的長期に生活できます。多発する場合や再発する場合は詳しい検査が必要です.内臓(脾臓,消化器)に発生することもあり,脾臓の摘出手術を勧められることがあるでしょう.手術がうまくいけば,術後,1年以上生存することも出来ます.

7.皮膚腫瘍(ひふしゅよう)

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