たちかわ動物病院・猫の病院

低悪性度の消化器型リンパ腫

 


Diagnosis and Treatment of Low-Grade Alimentary Lymphoma

猫の低悪性度の消化器型リンパ腫


低悪性度の消化器型リンパ腫(LGAL)は、近年、中から老齢の猫で見られる事が多くなってきている。LGALが一般的な問題となりうることが新しい論文などで指摘されている。最も多い主徴候は慢性の嘔吐に伴う体重減少で下痢を伴ったり伴わなかったりする。腹部触診でしばしば異常が触知され、瀰漫性の腸ループの肥厚やマス病変によって特徴づけられる。これらに一致した臨床徴候を持った猫では、他の原発性あるいは続発性の胃腸疾患とLGALを鑑別する必要がある。いくつかの猫でLGALの臨床徴候はリンパ球プラズマ細胞性炎症性腸疾患(IBD)と区別できない。腹部超音波検査は診断的検査として有用である。多数カ所からの小腸バイオプシーの組織病理学的検査は最も信頼のおける診断のために要求される。治療と支持治療による予後は良好ないし極めて優れている。


CLASSIFICATION OF ALIMENTARY LYMPHOMA


猫リンパ腫は、解剖学的部位、組織学的グレード、免疫表現型によっておおざっぱに分類される。伝統的な解剖学的分類は、縦隔型、多中心型、消化器型、そして節外性に分類される。消化器型リンパ腫は腫瘍性リンパ球による胃腸管の浸潤を特徴とし、腸間膜リンパ節に病変がおよぶこともおよばないこともある。猫消化器型リンパ腫はNCIWFの組織学的基準に従って分類される。High grade, intermediate-grade, low-gradeである。猫のLow-grade消化器型リンパ腫(LGAL)は最近の10年ぐらいで増加傾向にあると認識されている。Low-grade消化器型リンパ腫の同義語は、Well-differentiated,  Lymphocytic, Small cell alimentary lymphomaである。ほとんどのLGALはsmall lymphocytic lymphomaである。消化器型リンパ腫の独立した下位分類でLarge granular lymphocytic lymphomaが認識されている。LGALとLarge granulara lymphocytic lymphomaの大多数はT-cell免疫表現型である。一方で、胃腸管のintermediateあるいはhigh grade lymphomaは大体はB細胞を起源とする。猫のLGALとHigh grade alimentary lymphoma(HGAL)は 診断に要求されるテクニック、治療、予後だけでなく臨床的挙動も著しく異なる。ふたつの型が臨床的な挙動がはっきりと異なることを理解されるべきである。


EPIDEMIOLOGY 疫学


消化器型リンパ腫は猫リンパ腫の中で最も一般的な解剖学的な型であるとほとんどの研究で見なされている。猫白血病ウイルス(FeLV)感染の世界的な減少が他の解剖学的型に比較して消化器型リンパ腫の患者数の増加をもたらしている。なぜなら消化器型リンパ腫はFeLV抗原血症に最も関連が少ないからである。リンパ腫の発生、特に消化器型リンパ腫が増加していることを 一部の研究が示唆している。ある研究施設では、レトロウイルス陰性のリンパ腫のケースが1984年から1994年の期間に比べて1994-2003年の間に78%増加していた。これは猫の診療件数が同様の期間で29%増加であったことから、診療件数の増加に一致しているという説明はできない。しかしながら、この傾向が消化器型リンパ腫の発生率が真に増加しているかどうか考慮が必要である。また猫の疾患に対する将来の研究に対する必要性が増加するかどうか不明である。


Low-grade lymphomaは猫のリンパ腫全体の10-13%を占める。一般的な個体数のなかで消化器型リンパ腫の異なった組織学的サブタイプの相対的な発生率は分かっていない。しかしながらLGALは紹介された猫の個体の中で一般的である。消化器型リンパ腫のすべてのケースの45%と75%から成る。我々の施設で、LGALと分類された消化器型リンパ腫の個体数は1999年の11%から2008年の45%へと増加していた。この増加に対する最もありそうな理由はlow-grade疾患をより認知されやすくなっていると考えている。増加する他の要因はintermediateあるいはhigh-grade lymphomaの診断がFNAによる細胞診検査のような侵襲性の低い診断テストによってしばしばなされるからであり、結果として紹介も少なくなる。


RISK FACTORS


直接腫瘍発生性レトロウイルスであるFeLVは若猫の縦隔型および多中心型T-cellリンパ腫に強い関連性がある。FeLV抗原血症の猫がリンパ腫を発生するリスクは、抗原陰性の場合に比較して16倍増加すると言われている。FeLVプロウイルスを探査する能力は抗原陰性猫に暴露したリンパ腫原因ウイルスの潜在能力をより減弱する。猫免疫不全ウイルス(FIV)感染はまたリンパ腫発生のリスクを増加させるが、FeLV感染に関連したものよりも頻度は低い(血清陰性猫に比較して5倍)。関与ははっきりとしないが二次的な役割として節外性B-cell腫瘍の発生にFIVが考えられている。レトロウイルス関連のLGALの証拠は今のところ認められていない。FeLV抗原を検査したLGALの猫76頭で全てが陰性で、FIV抗体検査した猫77頭では1頭のみが血清学的に陽性であった。


猫における慢性炎症性腸疾患はLGALを発生させるリスク要因であると示唆されているが、決定的証拠は欠如している。炎症関連腫瘍の事実はよく報告されており、メカニズムを含めて解明されつつある。人間で見られるセリアック病はグルテン過敏症に関連した炎症性腸疾患である。一般的にある特定の人に生じやすいのだが、セリアック病はT-cellリンパ腫関連腸疾患を含む、腸の悪性疾患が発生するリスクが増加している。文献にみられる組織学的所見は猫のLGALのこれらにとても類似している。その範囲では 一部の獣医病理学者はLGALについて腸疾患に関連するT-cellリンパ腫であろうと言及している。腸におけるリンパ球集簇を炎症性か腫瘍性かを鑑別することは、形態像だけからでは極めて難しい。免疫表現型とクローナル検査は最終的な鑑別のために要求される。 一部猫の腸管において リンパ球プラズマ細胞性腸疾患(IBD)はリンパ系悪性疾患の前兆であると提案されている。この理論に一致して、LGALの猫の20%以上で腸管にリンパ球プラズマ細胞性IBDが同時に発生が確認されている。猫において慢性炎症から腫瘍に進展が認められた他の例として、注射関連肉腫や外傷後発生肉腫がある。猫という動物は炎症に関連した新生物が発生しやすいことが示唆されている。


SIGNALMENT


LGALは中齢から老齢の家庭雑種猫によくみられ、診断された中央年齢は13歳で、5-18歳の範囲がある。好発品種や性差は見られなかった。


ヒストリーと臨床徴候


LGALを発症した猫の最も良く見られる臨床徴候は体重減少(>80%)、嘔吐(>70%)、下痢(>60%)、そして不完全あるいは完全な食欲不振である。経験では、下痢は通常、小腸を原因とする。患者の食欲は正常であるが、時に多食が禀告される。少ないが報告されている症状はちんうつ、多飲がある。症例の多くで、臨床徴候は慢性である(1か月、あるいはそれ以上症状が続いてる)。LGALの猫では腹部に異常がしばしばみられるので腹部触診が臨床的に有益である。び漫性の腸ループの肥厚が罹患した猫の1/3から1/2に見られる。症例の20-30%に触診可能な異常なマスを認め、そのマスは腸間膜リンパ節の腫大、あるいは多くはないが腸管の限局性マスである。LGALの猫における異常な触診はこれといった特徴がないので、診断するとき触診が正常所見であってもそれだけで基本的に除外することが出来ない。


鑑別診断


LGALの現症は一般的に多くが原発性あるいは続発性胃腸疾患である。炎症性腸疾患は主な鑑別診断である。猫のIBDとLGALを比較したある研究で、臨床所見と最終診断の間には相関が見られなかった。慢性の体重減少、嘔吐、下痢を示す老齢猫で、続発性の胃腸疾患の除外はCBC、血液生化学、尿検査、胸部レントゲン検査、血清総サイロキシン濃度、レトロウイルス検査を行うことによって成し遂げられる。血清トリプシン様免疫反応(TLI)の測定と猫膵リパーゼ免疫反応(f-PLI、現在はSpec f-PL)もまた指示される。


原発性胃腸疾患の原因となる疾患はリストにあげた。腸寄生虫の検査は便の直接顕微鏡検査と硫酸亜鉛遠心分離浮遊法を行う。便の免疫測定法、直接蛍光抗原テスト、PCRは次の疾患の探査のための迅速な測定の基本となる。Giardia spp., Cryptosporidium spp., Campylobacter spp., enteropathogenic bacterial toxins. 検査結果が陰性であっても、フェンベンダゾールによる内部寄生虫のルーチンな治療は検査中に行うことは正当な理由となる。混合性あるいは大腸性下痢の猫は便塗抹検査によるTritrichomonas foetusのためのさらなる検査、培養、PCRが推奨される。血便の猫では、もし同時に発熱や血液学的所見がみられたら、敗血症、腸原生細菌のための 便培養が必要となる。Salmonella spp., Clostridium spp., Campylobacter spp.が考慮される。検査結果については健康な猫でもこれら微生物は高率にキャリアなので注意深く解釈される。一種類の既知タンパクを使用し炭水化物源や加水分解タンパク食による除去食トライアルは食物有害反応が疑われるような症例では重要な診断方法である。血清コバラミンや葉酸濃度は小腸疾患が疑われる全ての猫で測定する。


慢性体重減少、嘔吐、下痢の見られる老齢猫の触診可能な小腸やリンパ節の所見はHGALを示唆する。これら患者では、分節状、しばしば奇妙な、壁肥厚、腸間膜リンパ節腫大が一般的である。上皮由来のあるいは肥満細胞性腫瘍もまた考慮される。腹部にマスが認められたとき鑑別診断リストにLGALを忘れないことが重要である。一般的に後者は治療に対してより良好な予後を示す。これら徴候を示す多くの猫における診断よりもむしろ検査所見が情報を得るために好まれる。腹部超音波検査が通常指示される。以下の概略で、正常な超音波所見はLGALの診断を除外しない。胃腸生検の病理組織学的検査は鑑別診断に到達するために要求される。


診断


ルーチン臨床検査

猫のLGALの血液学的異常所見は慢性疾患による軽度の貧血や胃腸管からの血液喪失、単球増多症や好中球性の白血球増多症を含む。血清生化学的解析では、低アルブミン血症がみられるが、LGALでは普通ではない所見(症例の49%)で、intermediate-grade alimentary lymphomaやHGAL(症例の50-75%)よりも少ない。低アルブミン血症は腸壁が障害されることにより腸管内アルブミンが喪失して肝臓のアルブミン産生能力が追いつかずに起こる。低アルブミン血症は猫のLGALでは一般的ではない。理由は腸壁の完全性が病気の進行末期まで維持されることが多いからである。血清肝酵素活性の増加も起こり、肝臓への侵襲が同時に起こっていると考えられる。


猫のLGALの80%以上が低コバラミン血症に陥る。この所見は予期されていなかった。コバラミンは回腸から吸収される。そしてLGALが最も発生しやすい部位は回腸と十二指腸である。加えて、上部腸管における腸管内微生物が増殖することでコバラミン利用が増え、結果的に吸収されて得られるコバラミンが減少する。猫のLGALでは、血清葉酸濃度は低下、正常、高値となる。葉酸deconjugase(*folate deconjugase; pteroyl-γ-glutamyl-hydrolase)(刷子縁酵素)や運搬タンパクは葉酸吸収が上部小腸のみに限定されることが要求される。それゆえ、低値の葉酸濃度は粘膜からの吸収が減少する上部小腸疾患に伴って起こる。血清葉酸濃度の高値は葉酸を産生する腸内微生物の増殖を原因として起こる。ある研究で、血清葉酸濃度が5%減少し、猫のLGALの40%で増加した。


腹部超音波検査所見


腹部超音波検査は腸壁の厚さ、層形成、管腔内容物を検査することで胃腸管の評価の手助けとなる。腸壁の厚さは対称性があるか、解剖学的位置はどうか、肥厚部位が限局性か多発性か、あるいはび漫性かどうかによってより特徴づけられる。正常な腸壁は高エコー部と低エコー部の層が交互に5層の画像として認められる。それは管腔表面、粘膜、粘膜下、筋層、そしてしょう膜に対応する。超音波検査では、正常な十二指腸と空腸壁の厚さが2.8 mm以下であり、回腸は3.2 mm以下、腸間膜リンパ節は5 mm以下である。


LGALの超音波画像とHGALのそれは対象をなす。後者は 正常な壁層構造の断裂を伴う貫壁性の腸壁の肥厚、壁のエコー源性の低下、局所的な胃腸管の運動低下、そして腹腔内リンパ節腫大を含む。腸壁層の消失が腫瘍や炎症細胞を原因とする腸壁の炎症によって起こる。二次的な壊死、水腫、そして出血が起こったり起こらなかったりする。LGALの患者では、超音波検査で、病変のある腸は全く異なっている。:腸壁の厚さは正常であったり厚くなっていたりする。層構造は通常温存される。ある研究で、平均的な猫のLGALの腸壁の厚さとび漫性の小腸壁の厚さは4.3 mmであった(中央値 4.5 mm; 幅3.4 - 5.0 mm)。腸間膜リンパ節の腫大は腹部超音波所見として普通に見られる。上記と同じ研究で、17頭の猫のLGALのうち11頭で腸間膜リンパ節の直径は平均1.59 cm(中央値1.0 cm; 幅0.65- 3.0 cm)であった。一般的に超音波画像からLGALとIBDを鑑別するには十分ではない。しかしながら、最近のある研究で、超音波による腸の筋層の肥厚はLGALに関連しているIBDには関連がないか正常な小腸である。猫のLGALにおける通常あまりみられない腹部超音波検査所見は、限局性の腸マスや腸重責症がある。肝臓のび漫性の炎症が組織学的にみられるが、通常、超音波検査で見つけることは容易ではない。


超音波ガイドによるFNAの細胞学的診断


び漫性に腫大している腸管のFNAは技術的に困難で、通常、診断が不十分である。同様に、腫大した腸間膜リンパ節の細胞学的検査はLGALの診断を確定する助けにはならない。なぜなら、良性のリンパ系過形成から高分化の腫瘍性リンパ球、低悪性度の疾患の特徴を見分けることが可能ではないからである。罹患したリンパ節の組織生検は、腫瘍浸潤によって正常なリンパ節構造の破綻を組織学的に証明するために要求される。HGALの診断と対照させると、腸管壁の限局病変、あるいは腫大した腸間膜リンパ節のFNAによる細胞学的評価を基本とされる。このことはしばしば成功例として報告される。なぜなら腸の腫大の程度が大きければ大きい程FNAが容易になるからであり、浸潤している腫瘍細胞(Large lymphoblastic cells)の形態が背景に集まっているリンパ球と細胞学的に見分けることが容易だからである。


腸生検


腸生検の組織学的評価は、腹部超音波検査で腸壁の肥厚や腸間膜リンパ節の腫大が認められた時に許可される。なぜならこれら所見はLGALとIBDどちらの患者にも通常に見られるからである。腹部超音波検査による正常な腸壁の厚さと正常な腸間膜リンパ節所見がLGALの診断を除外しないということを強く強調すべきであり、腸生検による組織学的診断を排除すべきではない。我々は現在、LGALの診断に診査開腹や腹腔鏡で得られる全層腸生検サンプル(FTB)を使用する。内視鏡(EB)で得られるサンプルは腸壁の一部の生検材料である。これらの有用性の比較はTable 17-3を参照。


LGALは典型的には胃腸管の単発病変といよりは、び漫性、あるいは多発性疾患である。

人、犬、豚、馬に見られる腸疾患関連T-cell リンパ腫に類似する。空回腸が好発部位である。十二指腸への浸潤もほとんど通常にあるが、重度ではない。いくつかの研究で全ての胃腸病変の評価を同時に報告した。ある報告では、胃腸管のひとつの解剖学的な病変より多くの部位への腫瘍浸潤が17頭中、16頭の猫で見られた。一方、1頭の猫で、リンパ腫が十二指腸に限定された。胃への侵襲は25頭、症例の40%で発生した。大腸への侵襲をしばしば決定するために一部の症例で評価され、結腸浸潤が結腸生検がなされた5頭のうち1頭の猫で報告された。


LGALの組織像


小リンパ球タイプのLGALの組織学的診断は容易ではない。なぜなら小リンパ球の腫瘍性浸潤はしばしば健康な猫の胃腸管粘膜に存在するリンパ球や猫リンパ球プラズマ細胞性IBDと形態的に見分けがつかないからである。細胞分裂像はLGALの猫では頻繁に見ることはない。IBDとLGALの組織学的鑑別は、特に疾患の初期のステージの場合には非常に難しい。


正常な像と炎症性疾患の猫の胃腸粘膜の重度の変化に対する組織学的スタンダードは検討されている(Gastrointestinal Standardization Group of the World Small Animal Veterinary Association)。これら基準は形態や炎症性変化の重症度の評価を容易にし、内視鏡生検の評価をかなりの程度適切にする。これらスタンダードの国際的有用性は病理医の間における様々な解釈を減じ、異なった研究発表同士を比較するのを容易にし、リンパ球プラズマ細胞性IBDとLGALの鑑別を標準化する助けとなる。


重度のリンパ球プラズマ細胞性IBDからLGALを見分ける組織学的基準はリンパ球と顆粒球の混在の欠如に関連しているのを含む。ひとつに腫瘍性リンパ球の単一の増殖によって粘膜固有層が置換される。さらには腫瘍疾患初期において絨毛間に不規則に時々ばらまかれる。他の基準は腫瘍性リンパ球の存在する陰窩や絨毛の腸細胞の反応の欠如、粘膜固有層境界部の消失、腫瘍性リンパ球が集合して上皮向性の存在(microabscesses)、粘膜下、筋層、しょう膜への拡大の程度を含む。そして腸間膜リンパ節への腫瘍性リンパ球の浸潤の存在。LGALの初期腫瘍病巣のリンパ球浸潤の不規則なばらまきは鍵となる所見であり、リンパ球プラズマ細胞性IBDからLGALを鑑別する。上皮へ拡大して浸潤する重度な浸潤性絨毛は、浸潤が少しかあるいは無い絨毛が隣接している。対照的に、リンパ球プラズマ細胞性IBDの患者からの生検は罹患した腸病変の絨毛の浸潤に比較的均一な像を示す。


リンパ球プラズマ細胞性IBD、LGALに類似した疾患として肥満細胞性腫瘍の鑑別を加える必要がある。なぜならLGALは広範な腫瘍随伴性の好酸球の浸潤に関連している。好酸球の腸管への浸潤の所見が得られたならば腸管の肥満細胞腫を除外するために、切片の評価はヘマトキシリン・エオジン染色に加え、トルイジンブルー染色や免疫表現型がなされるべきである。リンパ腫の患者における好酸球の走化性は、腫瘍性リンパ球からインターロイキン-5が産生される結果と考えられる。好酸球浸潤を伴ったT-cellリンパ腫は高悪性度疾患にみられ、さらに犬や人でも記述されている。


免疫表現型検査


免疫表現型検査はLGALを診断するために胃腸から生検したHE染色標本の組織学的評価のための補助として利用する。免疫表現型の決定はCD3のようなT-cellマーカー、CD79a, CD45R, BLA. 36のようなB-cellマーカーのための染色によって行われる。LGALはT-cell系のリンパ球疾患として広く認識されている。LGALの猫33頭のうち30頭がT-cellの免疫表現型であったとする報告が最近あった。残りの3頭の猫は、B-cell lymphoma(n=2), non-T-,  non-B-cell lymphoma(n=1)であった。HE染色標本で消化器型リンパ腫と診断された32頭の猫の報告では、免疫組織化学染色がなされ、5頭(15%)の猫はその浸潤細胞がsmall B-, T-lymphocytes, and plasma cellの集簇の混合から成っていた。これら5頭はIBDと再分類された。しかしながら注意すべき事はLGALがT-cell表現型のみの特徴によって診断することはできないということである。なぜなら腸の粘膜関連リンパ組織(MALT)におけるT-cellの集まりの拡大は、また、猫における炎症性腸疾患で発生するからである。


クローナリティ テスト

分子テクニックによって、腸浸潤がみられるリンパ球T-cell集団のクローナリティの決定はLGALを診断するための組織学的あるいは免疫組織学的表現型のための補助として見込みを示す。クローナリティテストはT-cell lymphomaの決定に89%の感度がある。腫瘍になると考えられるT-cellの細胞集団がクローナル、あるいはオリゴクローナルを示すのが基本である。PCRテストを利用して、28頭の猫の22頭がT-cellレセプターのガンマー可変領域を記号化する遺伝子のクローナル再配列を持っている事が見つかった。一方、3頭はオリコクローナル再配列を有していた。比較で、ポリクローナル再配列が正常な腸のヒストリーの全ての3頭の猫と、リンパ球プラズマ細胞性の炎症性腸炎の猫9頭の全てで決定された。


生検の長所


胃腸の全層生検の組織学的評価は胃十二指腸の内視鏡生検材料の組織学的評価よりもLGALの診断のための感度は高い。LGALの10頭の猫の研究で、胃十二指腸内視鏡生検材料が同じ猫の多発性の胃腸疾患の全層生検材料と比較された。全層生検のひとつの評価としては、LGALが10頭の全ての猫の空回腸でみつかった。9頭が十二指腸で、4頭のみが胃で認められた。 内視鏡生検材料の評価では、正確には3頭のみで診断され、疑われた。 3頭の猫で 最終的に診断には至らなかった。一方、他の4頭の猫でリンパ球プラズマ細胞性IBDと誤診された。解釈の違いはほとんど十二指腸の内視鏡生検で遭遇した。そして十二指腸生検はIBDとLGALの正確の診断には不十分であった。技術的困難さはこの研究で手に入れた内視鏡生検材料の質によって阻まれている。2頭の猫では部分的な十二指腸材料のみであった。十二指腸生検は少しの材料がとれた3頭の猫でブラインド的になされた。内視鏡で得られた組織サンプルの質は確実な病変の特徴のためのそれらの感度の深い効果を持つ。内視鏡生検の質に影響するあるひとつの重要な要素は内視鏡をする人のスキルにあり、内視鏡で得られる組織サンプルの数による。最近の報告で、6つのマージンの適切な質の十二指腸や胃生検がなされ、少なくともひとつの絨毛や絨毛下固有層の存在によって明確にされ、正確な組織学的診断が保存される可能性がとても高い。生検の位置確認や部位を含む、最善の組織学的処理は、解釈のために適切に考慮されるためのサンプルとして絶対必要とされる。


LGALの傾向として小腸遠位を侵襲することは、もし、内視鏡の研究がルーチンに回盲便を通過する管によって得られる回腸生検を含むような内視鏡生検が改善をされるならば、LGALを診断する感度となりうる。猫のLGALの診断のために内視鏡によって正しくなされた回腸生検の診断の有用性と全層生検の比較について、さらなる研究が要求される。


まとめると、その上、内視鏡生検は侵襲性が少なく、LGALの確定診断は内視鏡術者や病理学者などの専門家の重要な助言が要求され、正しい研究所サンプル処理が同様に重要である。これら事実が最善でなければ、開腹による全層生検は考慮されなければならない。腹腔鏡は一般に増加する傾向にある。全層生検のコレクションのための開腹術に取って代わって侵襲性が低いものとして有用である。


STAGING


猫のLGALにおける腸管外侵襲は普通である。50%以上の患者で腸管外に疾患を持つ。腸間膜リンパ節侵襲が症例の60%で発生し、肝への侵襲が30%、膵や脾臓への侵襲は10%弱である。これは全身性の侵襲の程度を過小評価している。なぜならいくつかの研究が診断に至るために内視鏡生検によって頼られている。そして腸管外臓器はルーチンに生検されているわけではない。ある研究をのぞいて、肝侵襲の組織学的証拠は緩和のための予後因子としては陰性ではなかったことが示された。予後に対する疾患のステージに与える影響の情報はない。腸生検が開腹や腹腔鏡でなされたとき、たの腹腔臓器のルーチンな生検が推奨される。


治療と予後

化学療法のプロトコール、寛解と生存期間


LGALのほとんどの猫が経口slow-alkylating agentsとプレドニゾロンの治療で良好な反応を示す。これはおそらく腫瘍の核分裂率がある程度低いことによる。猫のLGALの治療のために使われる化学療法プロトコールの提示はTable 17-4.にある。治療は経口のプレドニゾロンと高容量のパルスによるクロラムブシル治療を含む。後者の代替は低容量で48時間毎継続する事が記載されている。HGALと比較して、猫のLGALは寛解期間と生存期間が長い。それゆえ組織学的グレードが猫消化器型リンパ腫の予後要因に考慮されるべきである。HGALでは、多剤化学療法プロトコールを使用し、ドキソルビシンは中央生存期間を7-10か月に関連する事を含む。対照的に猫のLGALの中央生存期間は経口プレドニゾロンとクロラムブシルで治療して15-25か月であった。診断時のちんうつの症状は寛解の予後因子にネガティブとなる事がひとつの研究で分かっており、他の研究では生存期間にネガティブとなる事がわかっている。診断時に病気がみられたら、猫のHGALでは生存期間の予後因子にネガティブとなる。完全寛解(CR)は、30日以上の臨床サインの完全な消失に定義され、猫のLGALのふたつの研究で69%と76%であった。両研究で、部分寛解の猫は無反応のカテゴリーを含み、CRよりも少ない事が考慮され、これは無作為なデータが不十分であることによる。HGALでは治療反応は生存の予後因子となる。対照的に、最近の報告で56%という低いCR率、そして生存期間に関連する重要な因子がない事がわかった。後者の論文と他のふたつの研究の重要な相違は部分寛解(PR)の第三の反応のカテゴリーが含まれる。そして50%以上100%以下の反応率と定義される。トータルで、39頭の猫の95%の治療データは研究で得られる。研究は完全あるいは部分寛解どちらも、中央寛解期間はそれぞれ29か月と14か月であった。このことは部分寛解の猫でさえ良い予後であると考えられる。CRに達した猫は一貫して十分に長い生存期間を有したが、CRに達しなかった場合は短かった。


プレドニゾロン容量は、長期間のグルココルチコイド使用に関連した、糖尿病や医原性副腎皮質機能亢進症などのような副作用を減ずる目的で、一度寛解が達成されたら漸減すべきである。寛解はしばしばプレドニゾロン5 mg/kg PO q24h、あるいは2-3 mg/kg PO q48hの容量で維持する。


サイクロフォスファマイド(10 mg/kg PO q3 to 4 week or 225 mg/m2 PO q3weeks)はプレドニゾロンとのコンビネーションの導入量で臨床的に寛解に至った猫のレスキュープロトコールで使用できる。少数の影響を受けた猫が、再導入で成功した事が報告された。サイクロフォスファマイドを使用した再導入で成功した12頭の猫の中央生存期間は29か月であった。


化学療法ーモニタリングと副作用

経口化学療法薬は通常良く耐用され、低い死亡率に関連する。クロラムブシルはナイトロジェンマスタード誘導体で2官能性アルキル化剤の活性を持つ。最も一般的な副作用はクロラムブシルによる胃腸毒性や骨髄抑制がみられる。胃腸のサインは普通中等度で自己限定的である。嘔吐、下痢、食欲不振が治療に関連し、LGALそれ自体による臨床症状と見分ける事は困難である。ルーチンなモニタリングにCBCを含むべきで、好中球減少や血小板減少に陥っていないか患者を評価する。高容量パルスクロラムブシル投与後、クロラムブシル治療を3 week毎にする前にCBCをすべきである。高容量クロラムブシル治療によるあまり多くない副作用に神経毒性がある。発作、間代性筋痙攣が人と猫で発生する。これら症状はクロラムブシルの神経毒性代謝物であるクロロアセトアルデヒドによる。神経毒性のリスクは連続容量の24hインターバルの確保や48時間毎の低容量クロラムブシル投与によって減ぜられる。


対症療法


LGALの多くの猫は診察時に低いBCS(body condition scores)、食欲不振や拒食がみられ、経腸栄養食の供給が重要な検討事項である。これら猫が全身麻酔下で腸生検が処置される間に食道瘻増設あるいは胃瘻増設チューブがルーチンに留置される。胃腸潰瘍が確認されるか疑われる場合はプロトンポンプ阻害剤(e. g., omeprazole)やH2拮抗薬(ranididine or famotizine)や粘膜保護剤(sucralfate)の治療が指示される。さらに考慮すべき事柄はリンパ球プラズマ細胞性IBDや食物不耐性が同時に存在する場合の治療である。重度のリンパ球腸炎症、二次性の食物不耐性(HE染色による腸生検の最初の組織学的診断が消化器型リンパ腫)が報告された。食物の変更は重要である。食物は単一源か、加水分解された既知のタンパク成分を含むべきである。食物はまたグルテンを含有してはならない。炭水化物成分もまた単一源か高可消化(調理米)であるべきである。これら基準に合致した市販の総合食は利用できる。プレバイオティクス、構成要素となる基質が明らかに有益な細菌種によって選択的に使用されている。あるいはプロバイオティクス、経口投与可能な病因となる細菌を中和する微生物、粘膜免疫の反応を調節する製剤がまた使用される。メトロニダゾール投与は小腸細菌の過増殖の治療に有益であるが、免疫調節効果も期待できる。葉酸欠乏は経口葉酸サプリメントで治療される。もし血清コバラミン濃度が正常値以下であればコバラミンサプリメントを投与する。しかしながら、猫のLGALで低コバラミン血症の高発生率が与えられたら、ルーチンなコバラミンサプリメントはもしオーナーが血清コバラミン濃度の測定を許可しなければ保証される。なぜならコバラミン欠乏自体は胃腸粘膜の炎症性浸潤、絨毛萎縮の結果であり、化学療法の反応はコバラミンサプリメントが同時に開始されない限り準最適である。もしコバラミン濃度が コバラミン注射後最後の月から 1か月高値であれば、サプリメントは継続しない。もし血清コバラミン濃度が低値であれば、あるいは正常範囲内であれば、さらなるサプリメントが指示される。臨床症状の再発が見られた猫においては血清コバラミン濃度はルーチンに測定すべきである。


summary

LGALは慢性の、中齢から老齢猫の遅発性疾患であり、原発性疾患やIBDのような二次性の胃腸疾患と臨床症状が見分けがつかない。多数の発症猫で、この疾患はび漫性で胃腸管のひとつの病巣以上の侵襲を示す。空回腸がもっともしばしば発生する部位である。一般的に腸管の肥厚や腸間膜リンパ節の腫大は身体検査や腹部超音波検査で普通発見される。限局性腸管マスもまた発生する。腹部超音波検査はこれら患者の評価の補助となるが、LGALの確定診断を達成するには病理検査が必要である。intermediateとhigh-grade リンパ腫の猫とは明確に対照的に、LGALの猫は一般的に経口プレドニゾロンとクロラムブシルの治療に対する反応が良好で寛解時間が持続する。

(2012.5.11)