たちかわ動物病院・猫の病院

猫の伝染性腹膜炎(FIP)

 

猫の伝染性腹膜炎

FELINE INFECTIOUS PERITONITIS(FIP)


猫の伝染性腹膜炎(FIP)は、猫コロナウイルス(FCoV)感染によって引き起こされる免疫介在性疾患である。


FCoVは野外の猫同士で便を経口的に摂取することで伝染するが、人を含む他の動物には伝染しない。コロナウイルス特異抗体がキャテリー猫の90%以上に見られるが、単頭生活の猫でも50%以上に見られる。そして、多頭生活ではFCoV感染のある猫の5%がFIPを発症する。


FCoVは以下のふたつのタイプに分けられる。

1. Feline enteric coronavirus(FECV)非病原性腸コロナウイルス

2. Feline infectious peritonitis virus(FIPV)猫伝染性腹膜炎ウイルス

これらふたつのウイルスは異なると考えられていたが、FECVが体内で突然変異をおこしFIPVに変異するという説がある(体内突然変異理論)。猫はもともと非病原性のFCoVに感染していて腸細胞でウイルスは複製(増殖)されている。何らかの刺激でFCoVの一定の部位で突然変異がおこり、白血球の一種であるマクロファージ内で複製されるような変異ウイルスとなる。という理論である。大量の複製されたウイルスを持つマクロファージを猫が自己の免疫力で排除できなかった場合、マクロファージは暴走し、腹水(胸水)や肉芽腫を形成しアルサス型の免疫介在反応が開始し、猫を死に至らしめる。


感染した猫の症状は(1)臓器の肉芽腫性病変(目、中枢神経を含む)(2)血管炎による腹水、胸水、心のう水、陰嚢滲出液の貯留)(3)まれに下痢や嘔吐を伴う若い猫で腸に結節形成が見られ、腸肉芽腫病変を形成する。(4)皮膚脆弱症候群、皮膚結節性病変、丘疹性皮膚疾患、肉球の皮膚炎(5)勃起持続症、などが報告されている。


診断

FIPは致死的疾患であるため、信頼できる迅速な診断が極めて重要であるが、FIPを確定診断することは極めて難しい。それでも、液体浸出が発見できればより信頼できる検査を行うことができる。しかし、液体浸出が見られた時には、すでにFIPが発症していると考えられ、治癒することはほぼ不可能である。診断には生活環境、臨床症状、身体検査所見、血清抗体価、血清タンパク質濃度、血清タンパクの電気泳動検査などがある。


血液学および血清生化学検査

特徴的な血液学的検査所見はない。白血球数は上昇したり減少したりする。リンパ球減少は一般的に見られる。ストレスによるリンパ球減少もあるし、ウイルス感染マクロファージから産生される腫瘍壊死因子α(TNFα)濃度の上昇が非感染のT細胞(主にCD8陽性T細胞)をアポトーシスに誘導させることも考えられる。


血清生化学検査所見では、異常な血清総タンパク質濃度の上昇があり、主にガンマグロブリン増加によるグロブリン増加を原因とする。高タンパク血症は、液体浸出を伴う猫で50%、伴わない猫で70%で見られた。FIPの実験感染後にアルファ2グロブリンの増加が早期に見られた。ガンマグロブリンと抗体価の上昇は臨床症状が出現する直前に見られた。インターロイキン6によって刺激されたB細胞がガンマグロブリン増加の原因と考えられ、そのためFIP猫の血清総タンパク質濃度は12 g/dl以上という高濃度に至る。FIP猫の血清アルブミン濃度は減少する。肝不全に伴った産生低下、免疫複合体沈着による二次的な糸球体腎症、腸の肉芽腫性変化が起きた場合の滲出性腸症、血管炎による体腔内の液体貯留、などによって起こる。最適なアルブミン/グロブリン比は0.8である。


血清総タンパク質濃度が高く、FIPが疑われる時は、血清タンパク電気泳動法を行い、モノクローナル高ガンマグロブリン血症かポリクローナルかを識別する。FIPや他の慢性感染症、多発性骨髄腫や形質細胞性腫瘍を鑑別する目的で行うが、評価は難しい。FIP猫ではポリクローナルとモノクローナルのガンマグロブリン血症をどちらも起こし、同様なことは腫瘍でも認められるからである。


臓器ダメージの程度により、肝酵素、ビリルビン、BUN、Creは様々に上昇するが、FIPを診断する根拠とはならない。高ビリルビン血症や黄疸は肝壊死の徴候である。FIP猫では、溶血、肝疾患、胆汁うったいを伴わずにビリルビン濃度が上昇する。この検査所見は敗血症の動物でよく見られるが、胆汁系のビリルビン代謝や排泄が障害されるからである。同様に高レベルのTNFαは膜透過輸送を抑制するためビリルビン代謝や排泄が障害されることが予想される。よって、溶血や肝酵素活性の上昇のない高ビリルビン血症が見られた場合、FIPを疑うことが出来る。


α-acid glycoprotein(AGP)のような急性反応性パラメーターがFIP猫で上昇していることがある。他の炎症性疾患やFCoV感染している無症状の猫でも高値となると予想される。


貯留液検査

貯留液検査は血液検査よりも高い診断価値がある。FIPを発症した猫の半数に浸出液が見られる。液体は、明るい黄色で粘稠性がある。乳糜液体であることもある。通常、液体のタンパク濃度は高く(>3.5 g/dl)、細胞数は少ない(< 5000有核細胞/ml)。


体腔内に液体が認められた時の主たる鑑別診断は、炎症性肝疾患、リンパ腫、心不全、細菌性腹膜炎である。FIP猫の浸出液は炎症細胞が存在するため乳酸脱水素酵素(LDH)は高値(>300 U/L)を示す。FIP猫の滲出液の細胞学的検査では、主にマクロファージと好中球が見られる。これら細胞学的所見は細菌性漿膜炎や時にリンパ腫に類似する。しかし、悪性細胞の出現や、サンプル内の細菌の存在、あるいは細菌の培養検査によって鑑別が可能である。滲出液の電気泳動法はアルブミン/グロブリン比が0.4以下なら比較的高い陽性の予測値を示し、A/G ratio 0.8なら比較的高い陰性予測値を示す。


リバルタ検査では漏出液;陰性、浸出液;陽性を示し、感度86%、特異度96%であり、一般臨床でも容易な検査である。透明な試薬チューブ(10ml)に蒸留水8mlを満たし、酢酸1滴(高濃度の酢、98%以上)を加えてしっかり混和する。この液体表面に液体1滴を注意深く滴下する。液体が透明であればリバルタ反応は陰性となる。もし、滴がその形を保持し、表面に付着して残ったら、あるいは滴状あるいはクラゲ様の浮遊物がチューブの底にゆっくりと滴下したらリバルタ反応は陽性となる。


脳脊髄液検査

FIP病巣による神経学的徴候をもつ猫の脳脊髄液(CSF)の解析は、タンパクの上昇(50 to 350 mg/dl;正常値25 mg/dl以下)、髄液細胞増加(100- 10000有核細胞/ml)主に好中球、リンパ球、マクロファージを含む。これは、しかしながら、比較的不特異所見である。FIPを原因とする神経学的徴候の多くの猫でCSFは正常である。


抗体測定

血清中の抗体価を測定することは診断ツールのひとつとして広く利用されている。しかしながら、健康な猫は高率にFCoV陽性である。そしてこれらほとんどの猫はFIPを発症することはない。FIP抗体テストというものはない。測定されるすべてがFCoV抗体である。それゆえ、抗体価は極めて注意深く解釈されなければならない。検査所によって値は大きく変わるため、継続して同じ症例を検査する時は同じ検査所で検査しなければならない。


抗体の出現はFIPを示唆するものではないこと、抗体が検出されないからといってFIPを除外することは出来ないことを理解することが重要である。低から中の抗体価の上昇は診断的価値はない。劇症型のFIPはおおよそ10%に認められ、終末期には抗体価は低下し、臨床的に明らかにFIPであっても抗体価は陰性となる。猫の体内の抗体が大量のウィルスと結合し、そして抗体テストで抗原に結合できない状態となるか、あるいはタンパク質が血管炎で浸出し抗体が浸出液中になくなることによる。もし注意深く解釈されるならとても高い抗体価は明らかに診断価値が高い。


抗体価の高さは便に排泄されるウィルスの量に直接に相関すると示唆されている。抗体価の高い猫はより多くFCoVを排泄し、常に高濃度のウィルスを排泄する。それゆえ抗体価の高さはウィルスの複製率と腸内のウィルス量に直接に相関する。


抗体価の測定は、FIPの猫に接触する可能性のある猫、疑われる猫、あるいはウィルス排泄のある猫に行われる。オーナーはFIPに接触した猫の予後や他の猫を新たに飼育したいとき、暴露された猫がFCoVを排泄するかどうかを知りたがる。また猫のブリーダーはFCoVフリーのキャッテリーを作ることを目的に検査を希望する。FCoVの存在を見るためにキャッテリーのスクリーニング、あるいはFCoVフリーのキャッテリーに導入する前の猫をスクリーニングすることは重要である。


液体(浸出液、CSF)の抗体価の測定は血液よりも調査されている。液体中の抗体価の存在は血液中に抗体が存在することと相関する。それゆえ、液体中の抗体価は診断の大きな助けになるわけではない。猫の最近の研究では中等度の抗体価は猫がFIPかどうかに関係ない。ある研究でCSF中の抗体の測定における診断的価値について詳しくしらべており、組織学的検査と比較したとき、FIPの存在にとてもよく相関がみられた。しかしながら、最近の大規模な獣医教育病院で診察された猫の調査でFIPによる神経学的徴候を示した猫と病理組織学的検査で確認された他の神経学的疾患の猫に比較して、CSF の抗体価に違いが認められなかった。


FCoVのRT-PCR(Reverse-Transcriptase Polymerase Chain Reaction)

FIP原因ウィルスと無害の腸FCoVとの間を識別するPCRプライマーは作成することができない。そしてPCRでは突然変異したウイルスと変異していないウイルスを識別することもできない。加えて、PCRの結果を解釈することは容易ではない。PCRは偽陰性の結果をもたらすからである。


ウイルス血症はFIPの猫だけでなく健康なキャリア猫にもみられる。FIPが流行している屋内飼育の猫は健康状態にかかわりなくウイルス血症になる。そしてウイルス血症を起こしたからといってFIPを発症しやすくなるということではない。


血液をRT-PVRでメッセンジャーRNA(mRNA)を測定するアプローチがある。mRNAレベルはFCoVの複製レベルに相関し、それゆえFIPの存在と相関するという論拠となる。しかしながらこのテストの有効性は現時点では不確かである。なぜなら、5-50%の健康な猫でもこのテストで陽性となるからである。さらなる問題点は現時点でこのテストはヨーロッパおよび米国では利用できない。


それゆえPCR検査の結果は一般的に注意深く解釈されなければならない。PCRはFIPを確定診断する診断ツールとして使用できない。FIPの猫の血清中ウイルス負荷と無害なFCoV感染でウイルス血症になった猫では違いがある。しかし、詳細な検討で仮説を支持する必要がある。浸出液やCSFのPCRは診断ツールとして議論されている。しかしながら、これらアプローチに使用可能なデータはいまだ有効ではない。


PCRは便サンプル中のFCoVを探査することができる。PCRで、猫が便にFCoVを排泄している証拠として利用できる。便中のPCRシグナルの長さは腸内に存在するウイルス量と相関する。これらの結果は慢性的に高濃度にウイルス負荷を排泄している猫を調べることに利用できる。


抗原抗体複合体の検出

FIPは免疫介在性疾患であり抗原抗体複合体は発症機序に重要な役割を果たす。血清や浸出液中の循環している免疫複合体を探すことが診断に役立つと考えられた。コロナウイルスに特異的な抗原抗体複合体の検索は優位性のあるELISAを使うことで行うことが出来る。実用性はしかしながら限られている。 FIPとコントロール猫を多数評価したひとつの研究で、このテストの陽性予測価値はあまり高くない(67%)。


マクロファージ内のFCoV抗原の免疫染色

ウイルスの検出法には免疫蛍光法(浸出液のマクロファージ)や免疫組織化学法(組織マクロファージ)を利用してマクロファージ内に存在するウイルスを検出する方法が挙げられる。免疫染色は「無害なFCoV」と「FIPを引き起こすFCoV」とを区別できない。が、FIPを引き起こすウイルスだけがマクロファージ内で多量のウイルスを複製することができ、結果として陽性染色を示す。浸出液マクロファージの細胞内FCoV抗原に対する免疫蛍光染色陽性率はFIPの感度として100%であった。このテストの陰性的中率は高くはない(57%)。それは浸出液塗抹のマクロファージの量が少ない(FIPの猫でさえ)ことが主な理由とされ、結果として陰性染色となる。


免疫組織化学法は組織におけるFCoV抗原の発現を検出するために使用し、もし陽性ならFIP予測率は100%となる。しかしながら、侵襲的な方法(開腹あるいは腹腔鏡)が適切な組織サンプルを採取するために必要となる。剖検で得られた腎臓や肝臓の組織のTrue-cut biopsy(TCB)とFine-needle aspiration(FNA)で診断感度を比較したときFNAの感度はTCBに近い。腎臓に比較して肝臓で高い感度が認められた。超音波ガイドFNAでFIPを診断する有効性は継続して研究される必要がある。


FIPの確定診断を得るために考えられる最良な方法は、現在はふたつの戦略がある。最初の診断プロセスは常に浸出液を探すことである。もし浸出液が存在すれば、浸出液のマクロファージのFCoV抗原の免疫蛍光染色がFIPを診断することができる。もし浸出液が存在しない場合、何らかの異常を認めた臓器の組織サンプルが確定診断するために採取される。組織学的検査は組織マクロファージのFCoV抗原の免疫組織化学染色が選択される。


治療

FIPに対する推奨される治療法はない。FIP猫のほとんどは治療の甲斐なく死んでいるのが現状である。FIPと診断後に数ヶ月以上治療して生存している猫の報告も時折散見し、それらの猫は比較的良好な生活の質を維持している。この長期生存が実際のところ治療によるものかどうかは不明であり、本当にFIPであったかどうか確定診断は得られていない。


予後

FIP猫の予後はほとんどよくない。FIPと確定した43猫の研究で、確定診断後の中央生存日数は9日である。一部の猫は数ヶ月生存している。確定診断後200日生存した一頭の猫が報告された。悪い予後と短かい生存期間を呈する要因は低いKarnofsky’s score(index of quality of life)であり、血小板減少症、リンパ球減少症、高ビリルビン血症、そして多量の浸出液である。痙攣(けいれん)もまた好ましくない予後徴候であると考えられる。猫によるが、前脳の炎症性病巣がしばしば重度に拡大する。最初の治療後3日以内に改善がみられない猫は治療で回復する見込みはない。そして残念ながら安楽死が考慮される。


対症療法

FIPは炎症と不適切な免疫反応を原因とするので、支持療法はこの免疫過剰状態を抑制することが考えられるので、ふつうはコルチコステロイドを使用する。しかしながらコルチコステロイドによる効果がFIPに有効かどうかの比較研究はない。時折、コルチコステロイドで治療された患者が数ヶ月以上良好にみえたことがあるという報告をみるが、本当に効果があったのか疑問が残る。プレドニゾロン(2-4 mg/kg PO sid)やサイクロフォスファマイド(2-4 mg/kg PO eod)のような免疫抑制剤が紹介されている。滲出液のみられた一部の猫では液体を抜くことや腹腔内や胸腔内にデキサメタゾン(1 mg/kg sid 液体がそれ以上見られなくなるまで)を注射する方法も紹介されている。


FIP猫はまた広域スペクトラム抗生物質で治療されるべきで、加えて点滴などの支持療法が必要である。血小板活性抑制剤のトロンボキサンシンセターゼ抑制薬(ozagrel hydrochloride)がFIP猫に使われ、改善が見られたという報告が1例あるが検証した報告はない。


免疫調整

一部の獣医師はFIPの猫の治療のために免疫調整剤(e. g., Propionibacterium acnes, acemannan)を使用するが効果の評価に対してコントロールをおいて公表されたものはない。これら薬剤は免疫機能の障害を復元することによって感染した動物に利益をもたらすものと示唆されている。それゆえ患者にウイルス負荷をコントロールさせ、臨床症状から回復させる。しかしながら、免疫介在性の反応の結果、臨床症状が発現し進行することも考えられるため、免疫システムへの非特異な刺激は実際のところ禁忌であると思われる。

タイロシンについての古い報告がある。タイロシンは抗生物質のマクロライド系に属するが、他のマクロライド同様、免疫調整効果を持つ。タイロシンの容量は22 mg/kg/dayで、一時的な回復が10頭の猫で成し遂げられた。しかしながら、これらのケースでもFIPと確定診断されていない。FIPであると疑われた3頭の猫でタイロシン(始め88 mg/kg BID)とプレドニゾロン(始め4 mg/kg/day PO)と点滴とビタミンの支持療法で治療された。1頭の猫が42日後に死亡し、他はそれぞれ180日と210日でまだ生存しており元気であった。FIPの診断はしかしながらこれらの猫では確定されなかった。FIPであると疑われた一頭の猫はタイロシン経口(50 mg/cat TID P0)、同様にプレドニゾロン(10 mg/cat)とそれぞれ腹腔穿刺後にタイロシン(腹腔内200 mg/cat)で治療された。この猫は2か月で回復したが、他の猫も類似のやり方で治療したが効果なく死亡した。


FIPが疑われ治療に対して良好に反応した52頭の猫に免疫調整剤が使用された。臨床症状(食欲不振、発熱、浸出液)が急速に回復したことが認められた。しかしながら、これら猫でFIPと確定診断されなかった。そしてこの研究ではコントロールグループはなく、長期間にわたって追跡評価したものはない。


FIPであると疑われた29頭の猫の研究で、6週間以上にわたって5つのグループに分けて治療された。Ampicillin(100 mg/kg/day), predonisolone(4 mg/kg/day), cyclophosphamide(4 mg/kg/day), dexamethasone(2 mg/kg at day 1 and day 5)and Ampicillin(20 mg/kg TID for 10 days), Human interferon-α(6*10*5 IU/cat 5 days a week for 3 weeks), paraimmunity inducer(0.5 ml/cat/week/for 6 weeks), nothing。3年以内の猫の死亡率は29-80%(グループによって違う)。しかし、これら猫でFIPは確定診断されていない。基準が不明なものもある。


抗ウイルス化学療法

現在、FIPの猫に対する抗アンチウイルスの治療効果のための研究は、 多くの研究がなされたにもかかわらず 成功していない。しかしながら、これら研究の客観的評価はコントロールをおいた臨床トライアルの欠如によって阻まれている。臨床トライアルとは新しい治療が標準治療や偽薬に比較されることである。ほとんどの研究で、治療開始以前にFIPかどうかさえ確定されていないので、予後の評価をすることがとても難しい。最近、FIPを治療しないことがFIPを治癒させる効果があると証明された


FIPを引き起こすウイルスを実験的感染させたSPF猫に対して抗ウイルス薬リバビリン(16.5 mg/kg SID for 10 to 14days PO, IM, or IV)が18時間投与された。リバビリンはヌクレオシドアナログであり、 ウイルスのmRNAのキャッピングを干渉することによっておそらくウイルスタンパクの形成を防ぐ。リバビリンで治療した猫と治療していない猫の全頭がFIPを発症した。病気の臨床症状はリバビリン投与猫でより重度で、それらの生存期間は短縮した。リバビリンは生体内でFCoVに対して攻撃的だが、副作用が重篤であったためFIPの猫の治療効果はなかった。組み合わせによってリバビリン毒性の減少させる試みがレチシン含有リポゾームと低容量点滴投与(5 mg/kg)がFIPを原因とするウイルスをもつ猫の治療に挑戦されたが失敗した。


FeLV陽性の3歳の雄猫がFIPを発症していると疑われ、メルファランで治療された。メルファランはナイトロジェンマスタードのアルキル化剤でDNAを不可逆的に相互作用する。猫はメルファラン(始め1 mg/kg q72hr for 9 months)の治療を受けプレド二ゾン(10 mg/kg bid 3週間継続後に5 mg/kg q48hr に減薬して6週間)、Ampicillin(10 mg/kg q8h for 10days)、ストレプトキナーゼ(10*4 IU/cat 腹腔穿刺後に腹腔内投与 q12hr for 4days)。加えて、ビタミンとミネラル剤が投与された。猫は治療に9か月間良く反応した。その後、骨髄増殖性疾患を発症し死亡した。このケースでは組織病理学的検査でFIPの証拠が得られず、FIPの診断は確定されなかった。


インターフェロンがFIP猫にしばしば投与される。人インターフェロンαは ウイルス複製を阻止されたインターフェロン含有細胞を全体的な抗ウイルス状態に誘導することによって 直接抗ウイルス効果を持つ。実験的に、人インターフェロンαの抗ウイルス効果がFIP原因となるFCoV株に対してなされた。FIPに実験的に誘導された74頭(52治療、22コントロール)のSPF猫に対してコントロール治療の研究で猫は人インターフェロンアルファ、猫インターフェロンβ、Propionibacterium acnes(免疫調整剤)、組み合わせ、偽薬を投与された。インターフェロンアルファ(10*4 or 10*6 IU/kg)、猫インターフェロンβ(10*3 IU/kg)、Propionibacterium acnes(0.4 mg/cat or 4 mg/cat)の、これらで治療された猫では不治療猫に比べて死亡率が著しく減少した。1頭の猫でインターフェロンα(10*6 IU/kg)とPropionicacterium acnesの複合治療がなされ生存期間が著しく延長した(約3週間)。これはいくつかの公表された研究のひとつで、FIPが確定され(人為的感染、あるいは研究の最後に病理組織学的検索がなされた)、コントロールグループが存在する。


最近、猫インターフェロンωがヨーロッパの国と日本の獣医学領域で使用が認可された。インターフェロンは種特異性があり、猫は抗体産生されることなく最後まで長い時間非経口的に治療される。FCoVの複製が猫インターフェロンωによって実験室で抑制された。期待できる治療がひとつのコントロールされていないトライアルで得られたが、FIPはこれらのケースで確定されていない。最近、ランダム化プラセーボコントロール・ダブルブラインド治療トライアルがなされた。37頭のFIP猫がインターフェロンωとプラセーボで治療された。全ての猫で、浸出液や組織マクロファージのFCoV抗原に対する免疫蛍光染色や免疫組織化学染色でFIPであることが確証された。全ての猫がコルチコステロイドだけでなく、浸出液を持つケースではデキサメタゾン(1 mg/kg 腹腔内あるいは胸腔内投与 q24h)やプレドニゾロン(2 mg/kg PO q24h)治療を受けた。加えて、一部の猫はインターフェロンω(10*6 IU/kg SQ q24h for 8 days and subsequently once every week)やプラセーボを受けた。インターフェロンωとプラセーボで治療を受けた猫の中央生存期間に統計的には明らかな違いは見られなかった。猫は3日から200日の期間生存した。


感染のコントロール

FIP猫に接触した猫に対する管理

FIPと診断された猫を他の猫のいる室内に連れ戻すことは危険があるのかどうかという質問を獣医師はしばしば受けるだろう。FIP猫に接触したすべての猫はすでに同様のFCoVに暴露されるだろう。FIPを原因とするウイルスが排泄され、結果としてFIPが猫の間で伝染するかどうか議論されている。これは一般的に自然環境のケースではないと考えられる。FIP猫の分泌物や排泄物中の無害なウイルスを探査するための研究(体内変異説を前提に)は失敗している。FIPを発症した後、FIPを発症した以前よりも無害なFCoVの排泄は少ない。しかしながら、実験状況下では、FIPの猫から接触した猫にFIPを原因とするウイルスを感染させることは可能である。最近、野外FCoV株のゲノムRNA配列がFIPと確定診断された猫の十二指腸や肝臓から剖検で分離され、腸(十二指腸)生成と非腸(肝)生成ウイルスRNA配列の比較が100%ヌクレオチド特徴が公表された。結果は体内変異説へのチャレンジである。最新の理解の基礎は、FIP猫をすでにFCoV株に接触した猫のいる室内に戻すには比較的安全であり、これら猫は特定の株に明らかな免疫をもっているということがいえる、という アドバイスが適していると思われる。しかしながら、無接触の猫にFIP猫を接触を許可することは推奨できない。


もし猫がFIPを原因に安楽死されたり死亡して、猫が残っていなければ、オーナーは他の猫を飼う前に3か月待つべきである。なぜならFCoVは少なくとも7週間は環境中に感染能力を持続するからである。もし室内に他の猫がいるならば、FCoVに感染していることは間違いなく、FCoVも排泄している。自然な環境では、猫は排便して便を埋めるために外に行く。その場合、ウイルスは数時間から数日間の感染能力を持つ(凍結状態では少し延長する)。しかしながら、ペット猫は小さな猫トイレに案内され、トイレにはFCoVが数日間生存している。おそらく乾燥した便には7週間以上可能である。それゆえFCoVを排泄している猫と接触した猫は、もし外出が許可されるならウイスルを排泄するよりよい機会を持つことは間違いない。最適な状況はフェンスに囲まれた庭である。


猫は獣医師からFCoVをプレゼントされることが多い。なぜならFIPを持つ猫、あるいは疑わしい猫、ウイルスを排泄している猫に常に接触しているからである。飼い主は暴露された猫の予後に興味を持つ。他の猫を飼いたいと思うだろうし、暴露された猫がFCoVを排泄するかどうかを知りたがる。FCoVに暴露された猫の95-100%猫は抗体陽性である。暴露後2-3週間で抗体が産生され感染が成立する。しかしながら、とても少ない猫が、FCoV感染に抵抗する。FCoVが流行している多頭飼育猫の中の一部の猫が抗体陰性を継続することが示された。この抵抗のための行動のメカニズムはいまだによく分かっていない。


FIP猫に接触した猫はほとんどが抗体を持つ。これは必ずしも不幸な予後とは関連ないことに安心すべきであう。FCoVに感染したほとんどの猫はFIPを発症しない。そして単頭飼育や2頭飼育の室内猫の多くはいつかは感染がなくなるだろうし、数ヶ月から数年で抗体陰性となる(普通6か月)。理想的には、飼い主はすべての猫の抗体価が陰性になるまで、便のPCRが陰性になるまで、新たの猫を飼育することを待つべきである。(2週間の期間で得られた4回の便のPCRが陰性であれば、猫はFCoVを抱えていることはとてもありそうもない)。もし抗体テストがされたら、猫は抗体が陰性になるまで6-12か月毎に再テスト(同じ検査所)されるべき。一部の猫がしかしながら、数年にわたって抗体陽性を維持する。


FIP猫と一緒に室内生活する多頭飼育猫の管理

ほとんどの多頭飼育の室内猫には、FCoVが流行しており、それゆえ FIPはほとんど必然的に発生する。理想的には室内多頭猫はFCoVがフリーであるべきである。これはしかしながら現実的ではない。5頭より少ない室内猫は自然にFCoVがフリーになるかもしれない。しかし10頭以上の室内猫ではこれはほとんど不可能である。なぜならウイルスが一頭の猫から多の猫に感染し、感染が維持されるからである。これは事実上のすべての ブリーディングキャッテリー、シェルター、里親、多の多頭猫家庭などのような 多頭猫環境における現実である。これらFCoVが流行している環境では、実質的には、FIPを予防することはできない。ワクチンは、FCoVが流行している環境やFIPの症例がいることがわかっている室内では効果ない。


様々な戦略がFCoVが流行しているキャッテリーから取り除かれようとされてきた。猫の数を減らす(特に12か月以下の子猫)。表面洗浄がFCoV総負荷量を最小にする。血清抗体や便PCRテストや隔離が汚染を止めるために実行されるべきである。約1/3の抗体陽性猫がウイルスを排泄する。それゆえ全ての抗体陽性猫は感染を考慮されなければならない。3-6か月後に、抗体価は猫が血清反応陰性になるかどうか決定するために再検査される。もうひとつの方法として、(個々の)便サンプルのPCRテストは慢性FCoVキャリアを探して排除されるために実行される。大きな多頭猫環境は、猫40-60%で便に一回にウイルスを排泄する。約20%がしつこくウイルスを排泄する。一方で、20%は免疫の状態になっておりウイルスを排泄しない。もし猫が6週間以上しつこくPCR陽性が続くならその家から単猫の環境にするために移動させる。


FCoVを排泄している母親の子猫は 子猫が5-6週間になるまで母親が産生する抗体によって 感染から守られる。子猫のFCoV感染の予防のための早期離乳プロトコールが提案された。それは出産2週間前の母親の孤立、 母親と子猫の厳しい隔離、 5週齢の早期離乳から成る。母親から子猫の早期離脱と他猫からの感染の予防は子猫が感染フリーになる率が上昇し成功といえる。最も効果的なのは早期離乳であり、子猫は5週齢で新しい家(猫のいない)に貰われるべきである。考え方は複雑ではないが、母親の孤立と早期離乳は単純ではない。この方法では隔離部屋が必要となる。そして新しいウイルスが絶対に入らないように徹底する。加えて、これら猫の社会化のために2-7週齢の期間の間、特別なケアがなされるべきである。早期離乳と孤立によって成功するかどうかは、隔離の効果と室内の少数(5以下)の猫による。もし両方が可能でないなら、早期離乳をすることは疑問の余地がある。また、時間とお金が早期離乳には伴う。母親を維持するためのスペースと隔離下の同腹子が大きな室内多頭猫では問題となる。スイスの大きなキャッテリーの研究で上記の早期離乳を継続したが、失敗した。2週齢の子猫のウイルス感染が証明されてしまったのである。


次の他のアプローチは、ブリーディングキャッテリーの猫の遺伝的傾向がFIPに対する最大の抵抗となるはずだが、完全には理解されていない。FIPの子猫の同腹子の全ての兄弟は 同じような環境の他の猫より 病気を発症する高い可能性がある。もし一頭の猫が二頭あるいはそれ以上のFIPを発症する子猫のいる同腹子を持ったら、猫は再び交配するべきではない。 系統繁殖はしばしば価値のある雄猫を広く使用する。そのような雄猫の血統に対して特定の注意を払わなければならない。


シェルターにおいて、猫が厳密に個別に分けられたケージに維持されるか無菌の取り扱い装置(隔離棟に匹敵する)を通してのみ取り扱うかしない限り、 FIPの予防は実質不可能である。隔離はしばしば効果ない。なぜならFCoVは服、靴、ほこり、そして猫を介して容易に伝染するからである。取り扱い処置の異なったタイプのシェルターの比較で  ケージの外での取り扱う頻度の増加と抗体陽性猫の割合の増加の間の 重要な相互関係を明らかにした研究がある。野良猫の研究で、捕獲時に検査し、シェルターに連れて行かれた(多数の猫が一緒にされた)。最初は、猫の少数だけが入室の時に抗体を持つ。しかしながら 実際シェルター内の全ての猫がFCoVに感染するまで血清陽性猫の割合は急速に増加する。シェルターの社員は次のことを理解するべきである。 FCoV感染は多頭猫環境では避けられない。そしてFIPはFCoVによる風土病的な帰結を避けられない。シェルター内を奇麗にすることは大事である。少なくともウイルス拡散を最小化する。そのような環境中のウイルス負荷を減らすこと、猫の数を減らしてストレスレベルを減少することが感染予防のポイントである。

(2012. 4.20)